出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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原発性免疫不全症
げんぱつせいめんえきふぜんしょう

原発性免疫不全症とは?

どんな病気か

 免疫系は感染から身を守る重要な体の仕組みです。重要な免疫系の仕組みは主に4つに分けられ、それらには、①T細胞を中心とする細胞性免疫、②B細胞で作られる抗体による液性免疫、③好中球、マクロファージなどの食細胞、④補体があります。

 原発性免疫不全症とは、これらの免疫系の仕組みのいずれかの個所に生まれつき障害があり、感染から十分に身を守れなくなった状態を意味します。

 また、この4つの仕組みのなかでも、さまざまな段階で障害が起きることが知られており、原発性免疫不全症といっても、その多様性により、さまざまな症状を示すことが知られています。

 そのため、すべての原発性免疫不全症をひとつの概念でまとめてしまうことは不可能ですが、①感染が重症になったり、②なかなか治らなかったり、③しばしば感染症にかかったり、④健康な人では病気を起こさないような弱い微生物でも病気を起こすようになったりする(日和見感染)といったように、易感染性(感染しやすい)といった概念で理解するのが適当だと思います。

 「かぜをひきやすい」といった訴えに代表される易感染性は、母親からの胎盤を介する移行抗体がなくなる乳児期後半から、集団生活が始まる保育園、幼稚園のころまでしばしばみられる現象です。しかし、この易感染性をもって免疫不全症と診断することはできません。2歳以下の子どもでは、上気道炎に年平均8回かかるという報告もあります。

 そのため、小児科医に相談するひとつの目安として、小児期の上気道炎の発症が月に1回以上であることがあげられますが、ほかにも外界と接する呼吸器(中耳炎副鼻腔炎気管支炎肺炎気管支拡張症)、消化器(反復性下痢、難治性下痢、吸収不全)、皮膚の感染をしばしば伴うことなども、小児科医に相談する目安になります。

症状の現れ方

 免疫系の仕組みのなかで、①T細胞を中心とする細胞性免疫、②B細胞で作られる抗体による液性免疫がともに障害を受けた重症複合型免疫不全症が、原発性免疫不全症のなかでも重症な部類に属します。

 乳児期早期から、致死的な感染が必ず起こり、また高度の易感染症による慢性下痢症や発育不良、感染を伴う皮膚の難治性湿疹性病変などが認められます。

 一方、無ガンマグロブリン血症のように抗体産生系にのみ異常があるものでは、母親からの抗体が消失する生後3~6カ月ころから、次第に易感染性がみられるようになります。

 なお、この2つの病気では、原因菌も大きく異なります。重症複合型免疫不全症では、細菌以外にウイルス、真菌、日和見感染などが反復、重症化しますが、無ガンマグロブリン血症では細菌感染が反復、重症化します。しかし、ウイルス感染症は一般的に正常に経過します。

 一方、好中球、マクロファージなどの食細胞の異常でも細菌感染症が特徴的ですが、無ガンマグロブリン血症ではどちらかというと感染の反復が特徴的であるのに対し、食細胞異常では、細菌感染の反復とともに、重症化、難治化が特徴的です。

検査と診断

 原発性免疫不全症の診断は、さまざまな血液・血清学的検査や、X線検査を用いて行われます。

 これらのルーチン検査とともに、各種免疫学的機能検査による①T細胞系、②B細胞系、③食細胞系、④補体系の機能測定が、疾患のさらなる絞り込みに有用です。また近年では、多くの原発性免疫不全症の原因遺伝子の異常が特定されるようになってきており、遺伝子検査により確定診断ができるようになってきています。

 さらに近年、原発性免疫不全症の一病型として「自己炎症性症候群」が加わりました。周期性の発熱を特徴とする疾患です。血液検査で炎症反応が高値に持続する場合は、この症候群の鑑別が必要です。

治療の方法

 原発性免疫不全症の治療では、併発する感染症の治療とともに、その原因に対する治療が基本になります。無ガンマグロブリン血症では抗体の補充療法が有効ですが、生命に対する予後が不良の疾患に対する根本的治療として、造血幹細胞移植が行われています。

 一部の疾患では遺伝子治療も試みられていますが、現在のところ安全性が問題になっています。

原発性免疫不全症と関連する症状・病気

(執筆者:京都大学大学院医学研究科発達小児科学教授 平家 俊男)

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