出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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遺伝子の本体
いでんしのほんたい

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遺伝子の本体とは?

 親から子どもに伝わる遺伝子という概念は、遠くギリシャ時代から考えられてきましたが、実際に遺伝子の本体がDNAという分子であるということが明らかになったのは20世紀なかごろのことです。1944年に発表されたアヴェリーらの肺炎双球菌の実験によってDNAが本体であることが示唆され、1952年のハーシーとチェイスのファージを用いた実験によって完全に証明されました。

DNAとは

 それではDNAとはどういう物質なのでしょうか。DNAはデオキシリボ核酸の略称です。塩基とデオキシリボースとリン酸が結合したヌクレオチドという分子がひとつのユニットで、それが長く鎖状につながったものがDNAです。

 塩基にはグアニン(G)、アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類があり、したがってヌクレオチドも4種類あります。

 DNAの鎖は1本で存在する場合はまれで、2本の鎖が塩基と塩基の間にできる水素結合で互いに結合して2本鎖になっています。この時、グアニンはシトシンと、アデニンはチミンと、という具合に対合(結合)する相手が決まっています。そこでDNAの長さを表す単位は塩基対と呼ばれます。またDNAの鎖はねじれているので、2本の鎖が絡み合った「二重らせん構造」と呼ばれる構造をとっています(図1図1 DNAの二重らせん構造と塩基対)。

図1 DNAの二重らせん構造と塩基対

 4種のヌクレオチドがどのように並んでいるかという配列自体が遺伝子に蓄えられている情報で、それによって生物種による違いや個体差などが決定されています。

RNAのはたらき

 DNAは核酸の一種ですが、核酸にはもう一種のリボ核酸(RNA)という物質があり、蛋白質を合成する時に重要なはたらきをしています。塩基のひとつがチミン(T)の代わりにウラシル(U)であり、デオキシリボースの代わりにリボースであることがRNAのヌクレオチドの特徴です。

 RNAもこのヌクレオチドが長く鎖状に結合しており、普通は1本鎖の構造をしています。

DNAの複製

 細胞が分裂する時には、それに先立ってDNAが2倍に増えます。分裂するとDNAは2つの細胞に均等に分けられ、元と同じDNAをもった細胞が2つでき上がります。このDNAが2倍になる過程は複製と呼ばれていますが、単に量が2倍になるのではなく、元のDNAの情報が正確に倍加することが必要です。

 これは塩基の対合がGとC、AとTと決まっていることで解決されています。2本鎖構造のDNAを結びつけている水素結合がいったん切断され、元の鎖は塩基がむき出した状態になり、そこに正しい塩基の対合(GとC、AとT)ができるように新しい鎖が合成されていきます。

 このようなDNAの複製は、複製した2本鎖の一方が元の鎖のままであるため、半保存的複製と呼ばれています。この半保存的複製によって、ヌクレオチド配列の情報が正確に子孫に伝わることになります。

(執筆者:兵庫医科大学遺伝学教育教授 山本 義弘)

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コラム遺伝子操作(組み換えDNA)

兵庫医科大学遺伝学教育教授 山本義弘

 遺伝子の本体はDNAという分子です。したがってどのような生物の細胞からでもDNAを取り出して、単なる物質として扱い、いろいろな操作を加えることができます。生物の種類が異なると遺伝子のもつ情報であるヌクレオチドの配列は違っていますが、細胞から取り出してしまえばDNAとしては同じ構造をもっています。異なる生物のDNA同士をつなぎ直して自然界には存在しない雑種のDNAをつくることが可能です。こうしてできた雑種のDNAを組み換えDNAと呼んでいます。

 組み換えDNAをつくるには、まずDNAの末端の構造、つまり切り口が同じになるように、制限酵素という酵素で特定の配列をもった部分でDNAを切断します。切り口のそろった2種類のDNAを混ぜ合わせ、リガーゼという酵素で再び結びつけます。2種類のDNAが結合した組み換えDNAは、そのままでは増やすことができないので、細胞のなかにもどしてやります。

 細胞内で増やすために、組み換えDNAをつくる時の一方のDNAはベクターと呼ばれる特殊なDNAを用います。ベクターは細胞のなかでDNAを複製するための配列と、取り込んだ組み換えDNAを選び出すための遺伝子(たとえば抗生剤に抵抗性の遺伝子)をもっている必要があります。ベクターに人為的に結合された異なる生物由来のDNA(外来DNA)は、ベクターが細胞内で複製することによって同様に増殖します。制限酵素で切断したある生物のDNAは大きさの異なるいろいろな断片になっていますが、ベクターに結合したあと別々の細胞に入り込みます。組み換えDNAを受け取った細胞を増殖させコロニー(ひとつの細胞由来の集合体)を形成させると、個々のコロニーのもつ外来DNAは大きさも種類も異なることになります。

 このように組み換えDNAを用いた遺伝子操作によって、ヒトを含むどのような生物由来のDNAも、研究できる小さなサイズのDNAに分けて個別に取り出すことができるようになっています。

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