出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
すべて
病名
 × 

生活習慣病の基礎知識執筆:東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター教授 和田高士

つぶやく いいね! はてなブックマーク

健診結果の重要性

注目される予防医学

 医療には「予防医学」と「治療医学」がありますが、現在、とくに注目されているのが予防医学です。日本人の平均寿命は延びる一方ですが、寝たきりの期間を最小限にし、健康で長寿を全うするためには、予防医学を活用して病気を未然に防ぐことが何より大切です。

 糖尿病高血圧脂質異常症などの生活習慣病は、かなり進行しないと自覚症状が現れません。また、死亡率に占める割合をじわじわ高めているがんは、何年もかかって進行するケースが少なくありません。

 しかし、これらの病気も早期に芽をみつけて治療を始めれば、進行を食いとめることも治癒させることもできます。そのために、健康診断(健診)を活用し、病気のいち早い発見に努めていくことが大切です。

検査を受ける時の注意

 検査は、ありのままの自分の健康状態を調べることに意味があります。よい結果を出そうとして数日前から禁酒をしたり、食事の量をひかえても、その検査結果は本来の体の状態を反映したものではありません。検査は試験ではないのですから、特別なことはしないで、普段の状態でのぞみましょう。

基準値」と「異常値」

 健診における基準値とは、その施設で健康な人を集め、そのうち95%の人の検査結果から決めています。たとえば、その施設で200名を対象に検査した場合は、そのうち高い値を示した5人(2・5%)と、低い値を示した5人(2・5%)を除外して、残り95%の人の値を基準値としています。

 ですから、基準値から少々外れていても、必ずしも異常というわけではありません。また一方、この基準値内のデータであったとしても、病気がないとは保証できません。

 従来、正常値とか正常範囲という言葉が使われていましたが、このような背景から基準値という言葉に変わりつつあります。

個人の基準値

 最も重要なのは、「個人の基準値」です。個人の基準値とは、自分の長年にわたる検査結果です。検査施設での基準値に該当するか、あるいは外れているかどうかよりも重視すべき数値です。

 基準値は多数の人を集めて作成されたものですから、幅が広くなっています。何回か検査をしていると、その人個人の範囲がおのずと決まってきます。そしてある時、急に値が変化したとすれば、その値が集団の基準値内であっても、その事態は要注意としなくてはなりません。

 たとえば、白血球数の基準値は4500~8500、個人の過去4回のデータが4600、4800、4500、4600であるのに、今回8500であった場合は、集団の基準値内ではありますが、その人にとっては約2倍に増加しており、体内に何らかの異常が起きていると判断するべきなのです。

検査の判定の読み方

 検査の判定は大まかに、「異常なし」「軽度異常あり」「異常」の3つに区分されます。異常なしの場合は基本的に問題ありません。

 軽度異常の場合は、放置しておいてかまわないものと、再検査を受け、さらに悪化するのかどうかを確かめる必要があるものに分かれます。再検査とは、異常のあった検査項目を再度行うことを意味します。精密検査とは、異常のあった検査項目からは病気を確定できないために行う検査で、主に画像による検査が行われます。

 健診の判定とその後の対処法を表21に示しました。

表21 健診の判定とその後の対処法表21 健診の判定とその後の対処法

生活習慣と検査

 不適切な健康習慣は検査結果に現れてきます(表22)。逆にいえば、これらの検査に異常が現れた場合で、該当する生活習慣があれば、それを是正することで改善が期待できます。

表22 不適切な健康習慣の検査値への影響表22 不適切な健康習慣の検査値への影響

チェック・ケア・プロモーション

 健診は受けっぱなしでは、まったく意味がありません。健診結果を受け取っても、さっと見てあとは引き出しにしまっておいては、受けないのと同じことです。健診で体の異常をチェックし、異常が見つかったならそれをケア(治療)していく必要があります。

 この治療とは、薬物治療に限定するものではありません。生活習慣を改善することで、効果が期待できるものも少なくありません。さらに、この生活習慣を改善することが、さらなる健康を増進(プロモーション)してくれます。