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生活習慣病の基礎知識執筆:東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター教授 和田高士

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生活習慣病とは

生活習慣病の定義

 健康を左右する要因には、遺伝、年齢(加齢変化)、性別など自分で変えることができない遺伝的要因と、細菌・ウイルスなどの病原体が体内に入る外部環境要因、食生活・運動などの生活習慣要因に大別されます(図1)。

図1 成人病と生活習慣病の概念図1 成人病と生活習慣病の概念

 たとえば、かぜ(症候群)は、ウイルスが鼻や口からのどに入って発症する病気です。しかし、これだけが発症する原因というわけではありません。

 たとえば、かぜウイルスは、湿度が低く低温の冬場に増殖しやすいので、気候といった自分では変えることができない要因と深く関係しています。また冬に限らず、閉め切った換気の悪い部屋では、ウイルスは増えやすいので、かぜをひきやすくなります。かぜの発症には、このような外部環境要因が関係しています。

 一方、睡眠不足で身体の抵抗力が落ちているなどの生活習慣要因、抵抗力の弱い乳幼児、高齢者という個人要因においては、ウイルスの力が抵抗力を上回って、鼻・のどの粘膜にウイルスが繁殖します。そして、粘膜はただれて痛みや鼻汁が出てきます。つまり、かぜの発症は、環境要因・遺伝的要因・生活習慣要因によって決まります。

 ところで、「成人病」は、がん、脳卒中、心疾患のいわゆる三大成人病のほか、高血圧糖尿病、肝臓疾患、腎臓疾患など、主に中年から発症してくるいろいろな病気の総称として考えられました。1957年の厚生省成人病予防対策協議連絡会によれば、成人病とは「主として、脳卒中、がんなどの悪性腫瘍、心臓病などの40歳前後から急に死亡率が高くなり、しかも全死因の中でも高位を占め、40~60歳くらいの働き盛りに多い疾患」と定義しています。

 しかし近年、成人病といわれてきた疾患の多くが、成人だけでなく小児にも広がってきました。これは、食事の問題や運動不足など、生活習慣の慢性的な乱れに伴って生じた現象といえます。

 つまり、これまで加齢に伴って発症する病気としてとらえられてきた成人病の多くは、生活習慣が発症に関与する「生活習慣病」であると考えられるようになりました。また、成人病とは加齢に着目した概念であるだけに、「歳をとったら成人病になるのはやむをえない」といった、なかばあきらめの気持ちを生み出しかねませんでした。

 そこで厚生省(当時)は1996年、食生活、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣により引き起こされる病気をまとめて「生活習慣病」とし(表1)、これには高血圧脂質異常症高脂血症)、糖尿病大腸がん歯周病などが含まれます。

表1 生活習慣病の範囲(例示)表1 生活習慣病の範囲(例示)

 生活習慣病とは、生活者みずからの不健康な生活習慣を改めることによって、かなりの予防ができる病気をとりまとめたものです。ですから、ひとつの病名ではありません。とはいえ、生活習慣病は、不健康な生活習慣のみで発症するわけではありません。気候や病原体などの環境要因、性別・人種・年齢・遺伝子など、自分で変えられない要因などにも影響を受けます。

 しかし、中心的な原因は生活習慣要因です。つまり、食生活の乱れ、塩分のとりすぎ、脂肪のとりすぎ、運動不足、たばこを吸う、過剰な飲酒、休養がとれないなどの不健康な生活習慣が続くことによって、病気の進行のスピードも速くなります。さらにいくつかの要因が重なり合うと、より若い時期から発症します(図1)。

生活習慣病の特徴

 かぜ(症候群)は、かぜウイルスが鼻やのどに繁殖すると、1~2日のうちにのどの痛み、鼻水などの症状が出るため、医療機関に行って、治療を強く希望することが多いでしょう。ですから、薬の飲み忘れもあまりありません。

 一方、生活習慣病はゆっくりと進行し、ほとんど症状が出ないのが特徴です。症状が出た時はかなり病気が進んだ状態で、とくにがんなどではむしろ手遅れの状態になっていることも少なくありません。

 血圧が相当高くても、まったく症状が現れない患者さんもいます。ですから、いくら健康診断などで高血圧であると診断されても、本人は病気であるという意識が芽生えません。当然のことながら、薬の治療は受けたくない、治療を受けても薬の飲み忘れが多い、そして血圧があまり下がらないなどといったことがよく見受けられます。

 生活習慣病は、まず健康診断や人間ドックなどで検査をしてみないと診断できないものが大半です。高血圧は血圧を測定する、糖尿病は血液中の糖分である血糖値を測定する、脂質異常症では血液中のコレステロールや中性脂肪を測定する必要があります。

不健康な生活習慣がたどる道

 不健康な生活習慣を続けた場合、次の5つの段階を踏んでいくことになります(図2)。

図2 不健康な生活習慣がたどる道図2 不健康な生活習慣がたどる道

(1)不健康な生活習慣の継続

 食生活の乱れ(過食、塩分過剰、脂肪過剰、カルシウム不足など)、運動不足、休養不足、過度の飲酒、喫煙などを続けている時期です。

(2)未病期

 自覚症状はありませんが、検査値には異常が現れてきます。

 体重の増加、血圧値の上昇、血糖値の上昇、脂質の変化、骨量の減少などです。がんが発生していても、まだ検査で発見されるほどには大きくなっていません。

(3)生活習慣病の発症

 自覚症状はほとんどありません。

 肥満症、高血圧、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症などの病名がつきます。がんではがんの発達・形成が起こり、検査で発見されることがあります。

(4)生活習慣病の増悪

 自覚症状が現れます。

 高血圧脂質異常症などでは、動脈硬化から脳梗塞心筋梗塞が発症します。糖尿病では糖尿病網膜症・神経障害などの合併症が現れ、骨粗鬆症は骨折などが起こります。

(5)活動低下・要介護状態

 脳血管障害では、脳梗塞脳出血により半身麻痺、認知症が起こり、日常活動が制限されます。がんでは、広範囲臓器切除による身体機能の低下、骨粗鬆症では骨折により寝たきりになります。通院・入院治療の継続、多数の治療薬が必要になります。

*   *   *

 現代の日本は超高齢社会となりましたが、それに伴って脳卒中、がん、腎不全、失明、ぼけなどに苦しむ人たちが激増してきました。心身ともに自立した活動的な状態で生活できる期間を「健康寿命」といいます。

 健康寿命を短縮させるこれらの病気の多くは、不健康な生活習慣の結果起こるものだといえます。健康寿命を長くするのも短くするのも、ある程度は個人の生活習慣への取り組みが左右するといっても過言ではありません。

健康日本21について

 2010年を目指した健康づくり運動として、21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)が2000年度から開始されました。

 健康日本21の基本理念は、「すべての国民が健康で明るく元気に生活できる社会の実現のため、壮年死亡と、健康に関連する生活の質の低下を軽減することを目指し、一人ひとりの取り組みを健康に関する機能をもった社会のさまざまな主体が、それぞれの特徴のある機能を生かして支援する環境をつくり、全体の健康づくりが総合的に推進されること」となっています。生命の延長だけでなく、生活の質(QOL)を重視すること、生涯にわたる健康づくりの視点を取り入れること、環境づくりの重視などを特徴としています。

 健康日本21では、大きな課題となっている生活習慣や生活習慣病を(1)食生活・栄養、(2)身体活動・運動、(3)休養・こころの健康、(4)たばこ、(5)アルコール、(6)歯の健康、(7)糖尿病、(8)循環器病、(9)がんの9つの分野で制定し、それぞれの取り組みの方向性と目標を示しています。

 この健康日本21を中核とする国民の健康づくり・疾病予防をさらに積極的に推進するため、医療制度改革の一環として2002年に「健康増進法」が制定されました。

疾病構造の変化

死亡率の年次推移

図3 主要死因別粗死亡率年次推移(1947~2006年)図3 主要死因別粗死亡率年次推移(1947~2006年)

 主要死因別にみた死亡率の年次推移を図3に示します。昭和20年代以降、結核による死亡が大きく減少して、日本の死因構造の中心は感染症から生活習慣病に大きく変化しました。

 昭和40年代以降は、脳血管疾患は高血圧対策が効を奏して、着実に減少してきました。その一方で、生活習慣病の終着駅でもある心筋梗塞を中心に心疾患は増加し続け、現在第2位となっています。悪性新生物(がんなど)は増加し続け、1981年以降は第1位となっています。

医療費の増加

表2 制度区分別国民医療費の推移表2 制度区分別国民医療費の推移

 昨今の医療費の変化を表2に示します。基本的には右肩上がり、つまり医療費が高騰しています。なぜ、このような変化が起きてきたのでしょうか。

 ひとつの原因としては、人口の老齢化があげられます。しかし、それだけではありません。高度経済成長のなかで、食生活をはじめ、さまざまな生活習慣が変化してきました。遺伝的体質的素因もあることは確かですが、多くの病気が日常の生活習慣と深い関わりをもっています。

 糖尿病などのように、遺伝的素因が大きく影響する病気も、戦中戦後の食糧難の時代には、患者さんはほとんどいませんでした。栄養過多の今日、患者さんの数は数十倍にも増えました。

 がんのように、老化とのみ関わりがあるようにみえる病気でも、この30~40年来、胃がんや子宮がんが減り、代わって肺がん乳がん大腸がんが増えてきたのをみてもわかるとおり、生活環境や食習慣との関係が、きわめて密接であることがわかります。

長寿県沖縄に異変

 沖縄県で男性の平均寿命に異変が起きています。都道府県別での平均寿命が、これまでの1位から2000年には26位へと転落し、全国平均さえ下回りました。

 原因は中年世代の死亡率の上昇とされています。45~59歳の死亡率は脳血管疾患、肝疾患、糖尿病などで全国ワースト10にランクされるようになりました。いずれも生活習慣と関連の深い病気です。沖縄県民の健診の受診率は低く、糖尿病や高血圧の生活習慣病の外来受療率も全国でも最低の状況が続いた結果と解析されています。