[急性肝性ポルフィリン症(AHP)をご存じですか?, 特集] 2022/03/04[金]

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 急性肝性ポルフィリン症(AHP:acute hepatic porphyria)は、急な腹痛などをともなう遺伝性の病気です。今回は、AHPの診療をされており、臨床遺伝専門医でもある日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第一病院 内分泌内科 部長の尾﨑信暁先生に、遺伝性の病気であるAHPを理解する上で大切なポイントについてお話を伺いました。

AHPは、生理周期に合わせて波がある腹痛が特徴

AHPで特徴的な症状について教えてください。

 AHPで最も多い症状は腹痛で、人によっては救急車を呼ばずにはいられないほどの痛みを訴えます。AHPの腹痛で特徴的なのは、女性では生理周期に合わせて痛みの波があることです。食事後や空腹時に出るような消化器が原因の痛みとは異なり、食事の有無にかかわらず慢性的に腹痛が出るのがAHPの特徴です。

腹痛以外にはどのような症状がありますか?

 AHPでは腹痛以外にもさまざまな症状がみられます(図1)1,2)。私がAHPの患者さんを診ている中で特に特徴的だと感じているのは、不安感などの中枢神経症状です。こうした症状は患者さんの性格に由来するものだと思われがちですが、AHPが原因で起こると考えられます。
 また、こげ茶や赤っぽい尿が出るのもAHPの特徴といえます。ただし、尿の色にこうした異常があったとしても、ご自身ではそれが普通だと思っているために、その異常に気付くことは難しいようです。そのため、ご自身でAHPを疑った場合は、尿の色についても医師などに相談してみると良いと思います。

図1 AHPの症状
  • Anderson KE, et al. Ann lntern Med. 2005; 142(6): 439-450.
  • Pischik E, Kauppinen R. Appl Clin Genet. 2015; 8: 201-214.
監修:尾﨑信暁先生(日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第一病院 内分泌内科 部長)

悪化因子を避ける生活が重要
他の医療機関を受診する際は、禁忌薬リストを見せてほしい

日常生活については、どのようなアドバイスをしていますか?

 まず、AHPの悪化因子として知られている喫煙や飲酒は控えていただくようにしています。また、糖分が少ない状況になるとAHPの症状が悪化することも知られているため、普段から食事をしっかりと取り、腹痛が強くて食べることが難しい場合にも、飲みやすいジュースなどで糖分を取るようにアドバイスをしています。
 また、ポルフィリン症では特定の医薬品で症状が悪化することが指摘されています3)。そのため、当院ではAHP患者さんに禁忌の医薬品リストを配布して、他の医療機関を受診する際にはそのリストを医師に提示してもらうようにしています。

AHPを正しく理解して、
ご自身が希望することを伝えてほしい

AHPの方が出産を希望することはできるのでしょうか?

 私が診察をしている方の中にも出産経験がある方はいますから、AHPを理由に出産を諦める必要はないと思いますし、出産を希望する患者さんの意思は尊重したいと思っています。ただし、妊娠中や出産前後で急性発作を起こす可能性は十分に考えられますし、その場合にどの程度の症状が出るかは人それぞれで、予測が難しいのが現状です。そのため、出産に伴うリスクについて医師と十分に話し合った上で、ご自身がどうしたいかを伝えてほしいと思います。

AHPは子どもに遺伝するのでしょうか。

 AHPは遺伝性の病気なので、両親のどちらかにAHPの原因となる遺伝子の変異があれば50%の確率で子どもに遺伝します(図2)。ただし、遺伝したからといって全員が発症するわけではなく、症状が出ないまま過ごすことができる方もいます。また、発症したとしても症状の重症度は人によってさまざまなため、親が重症だからといって子どもも重症になるとは限りません。

図2 AHPの原因となる遺伝子の変異が受け継がれる可能性
監修:尾﨑信暁先生(日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第一病院 内分泌内科 部長)

子どもにAHPの疑いがある場合、本人や周囲にそのことを伝えるべきですか?

 症状への適切な対応をするためには、AHPの疑いがあることは伝えた方がいいと思います。例えば子どもが学校で「おなかが痛い」と訴えた場合、AHPについて知らされていなければ、精神的なストレスなどが原因だと解釈されて誤った対応をされてしまうかもしれません。原因がAHPだと分かれば、ご本人や周囲ができる対応も変わってくることでしょう。 
 また、患者さんご自身が遺伝性の病気であるAHPについてきちんと理解しておくことは、将来の結婚や出産などのライフプランについて考える上でも重要なことです。そういった観点からも、子どもにAHPの疑いがある場合は、そのことをきちんと伝えておくことが必要だと思います。

AHPの疑いがあれば、遺伝子検査をした方がいいですか?

 AHPの原因は遺伝子の変異ですから、症状がなくても遺伝子検査で確定診断をすることができます。ただし、遺伝子検査をするには、本人が検査についてきちんと理解した上で同意をする必要があります。そのため、AHPのこと、遺伝のことが理解できる年齢になってから説明を受けるのがいいのではないでしょうか。
 なお、すでに腹痛などの症状が出ている場合は、その他の検査値などから総合的に判断してAHPの診断ができるため、慌てて遺伝子検査を受ける必要はありません。

治療ができる時代になった今、
勇気をもって相談してほしい

最後に、メッセージをお願いします。

 AHPには有効な治療法がない時代が長くありましたが、今は診断がつけば治療ができる時代となりました。しかし、一般の方をはじめ、医療従事者においてもAHPの認知度が低いために、患者さんが症状を訴えてもなかなか正確な診断に結び付かないという現状があるのも事実です。そのため、AHPをご自身で疑った場合は、ぜひ勇気をもって医療機関にその旨を相談してほしいと思っています。その行動が、きっと皆さんを適切な診断と治療に結び付けてくれることでしょう。

  • Anderson KE, et al. Ann lntern Med. 2005; 142(6): 439-450.
  • Pischik E, Kauppinen R. Appl Clin Genet. 2015; 8: 201-214.
  • 近藤 雅雄, 矢野 雄三, 浦田 郡平. ALA-Porphyrin Science. 2012; 2: 73-82.
日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第一病院 内分泌内科 部長 尾﨑信暁(おざき のぶあき)先生
名古屋大学卒業。
新城市民病院、名古屋大学医学部 糖尿病・内分泌内科を経て現職に至る。
検査部長、ゲノム医療センター長を兼任。
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