企業と難病患者のかけ橋を目指す
[僕と私の難病情報] 2023/07/12[水]
再発と寛解を繰り返す難病、「多発性硬化症」を抱える狐崎友希さん。
診断されたのは2014年。発病により生活は一変しました。病気によりできないことが増える中で、同時に得たものもあると言います。病気を抱える中で見いだした、新しいキャリアとは。
難病をきっかけに新たなキャリアを見つけた狐崎さんのストーリー
患者会代表、ボーカリストとしても活動。
多彩な活動は就労のモチベーションにもつながっている。
再発のために退職を余儀なくされた経験
狐崎さんが多発性硬化症と診断されたのは2014年、クリニックで医療事務の仕事をしていたときのことでした。下半身のしびれがひどく、入院も必要になったため退職することになりましたが、今後も仕事を続けていきたいと、治療の傍ら、以前から興味のあったピアカウンセラーと看護助手の資格を取得しました。
体調が落ち着いた2016年には、特定求職者雇用開発助成金制度(注1)を活用して就職活動を進め、看護助手を募集していたリハビリテーション病院で正社員の職を得ました。しかし3年後、再発で股関節を痛めて杖をつかないと歩けなくなり、2度目の退職を余儀なくされてしまいます。
(注1)障害者手帳を持たない難病患者をハローワーク等の紹介により常用労働者として雇い入れ、雇用管理に関する事項を把握・報告する事業主に対して助成を行う制度
病気があっても働ける道を探す
それでも、狐崎さんは働くことをあきらめたくはありませんでした。杖歩行でもテレワーク(リモート勤務)ならできると考え、再び就職活動を開始します。当時は新型コロナウイルス感染症の流行前で、通勤を必須とする企業がほとんどでしたが、粘り強く探したかいがあり、2020年、障がい者雇用枠(障害者手帳が必要)で完全在宅勤務のスタッフを募集していたユーグレナ社を紹介されました。
「面接では、病気のためにできないことだけでなく、サポートしてもらえればできること、やりたいことをしっかりと伝えました」(狐崎さん)
選考の結果、契約社員として採用され、1日6時間、週5日、自宅で勤務することになりました。
特別扱いされないことが嬉しい
入社時の挨拶で自分の病気をオープンにした、と狐崎さんは話します。急な症状の発現や再発に備え、仕事の状況は常に共有する、病気についてまとめた説明資料を作成するなどの工夫や周囲への配慮はしていますが、働いているときに「自分が障がい者だ」と意識することは、ほとんどないといいます。
「上司は私の体調を気遣ってくれますし、通院や入院のための休みも取りやすいよう配慮されています。でも、特別扱いされることはなく、仕事もどんどん振ってもらえて、厳しく暖かく、正当に評価されます」
障がい者雇用で働く人と会社との懸け橋になりたい
入社して1年ほどたったところで、狐崎さんは人事課に異動となりました。
「自分のように障がい者雇用枠で入社を希望する方と会社との懸け橋になりたいと考えていたので、今後のキャリアに関する社内アンケートに、その思いを書きました。人事の経験はなかったので、『いずれは』くらいの気持ちだったのですが、すぐに異動のお話をいただきました」
異動してから業務量は増えましたが、会社自体に慣れてきたことと仕事の楽しさから、「常に上を目指したい、目標を達成したい」と仕事への意欲は増す一方だといいます。
ヨガインストラクターとしても活躍
狐崎さんのもうひとつの仕事が、ヨガインストラクターです。
ヨガとの出会いは、病気の再発がきっかけでした。大好きだった外出も仕事もできない中、このまま家でじっとしていては心にも影響が出てしまう、さらに再発で悪くなった股関節以外の部分まで悪くなってしまうと考え、家でできるオンラインのレッスンを受け始めました。気がつけば日課になるほど夢中になり、その時間は病気のことを忘れ自分と向き合う大切な時間になったといいます。「ヨガを通じて自分と向き合うなかで、心が柔らかくなっていくのを感じました」
調子の変化は心だけでなく身体にも表れ、2年ほどたった頃から少しずつ歩けるように。「ヨガの力には驚きました。そして、多くの人にヨガの魅力を知ってほしいと思うようになりました」
インストラクターの資格を取得し、2022年に「エニワンヨガ」をオープン。「エニワン(anyone)」という名前のとおり、性別や年齢、病気の有無、運動経験に関わらず、誰でも一緒に楽しめる教室としてSNSや口コミで生徒さんが集まり、現在は週5~6回、多彩なレッスンを開講しています。
病気や障害があっても働ける社会に
会社員とヨガインストラクターの二足のわらじに加え、多発性硬化症・視神経脊髄炎の患者会「M-N Smile」(注2)の代表を務めるほか、発病前から行っているボーカリストとしての活動も続けています。治療の継続はもちろん、無理しすぎないように気をつけてはいるものの、今の自分にできることを精いっぱいやることが日々の充実感につながり、それが仕事にもいい影響を与えているといいます。
「これも、病気や障害があっても、やりがいのある仕事を任せてくれる会社に出会えたからだと感じています」
もっと障害者雇用が進み、働きたい人が働ける社会になってほしい。そのために、これからも情報発信を続けていきたいと話します。
(注2)2015年に狐崎さんが自ら立ち上げた患者会。2023年6月12日現在、会員数614名。
「だれでも参加出来る」エニワンヨガ
狐崎さんが主宰する「エニワンヨガ」では、さまざまなオンラインヨガクラスを配信しています。
詳細は下記のリンクからご覧ください。
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