[保険外リハビリ] 2017/12/22[金]

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約118万人が“通院”する脳卒中

 血管が詰まって起こる「脳梗塞」や血管が破れて起こる「脳出血」に代表される「脳卒中」。「死に至る病気」というイメージの強かった脳卒中ですが、医療の進歩により脳卒中を含む脳血管疾患の死亡率は低下。脳卒中を含む脳血管疾患によって治療や経過観察などで通院している患者さんの数は、約118万人にのぼります。そこで、近年クローズアップされてきているのが「リハビリ」の問題です。

 脳卒中のリハビリは、発症直後から開始される「急性期」、発症から約3~6か月頃に行われる機能回復のための「回復期」、発症から約6か月以降に行われる日常生活に戻るための「生活期(維持期)」の3段階に分かれます。厚生労働省の平成28年国民生活基礎調査では、「介護が必要になった原因」の第2位が脳血管疾患(脳卒中)。発症後、どのようにリハビリに取り組むかが、脳卒中後の生活を豊かに過ごせるかどうかのポイントです。

“やりたくてもできない”「リハビリ難民」とは

 そうしたなか、“リハビリをやりたくてもできない”「リハビリ難民」という言葉が話題になっています。厚生労働省の平成28年医療施設(動態)調査・病院報告によれば、国内における病院の診療科目別にみたリハビリテーション科の施設数は5,500。平成20年の4,954から約500施設増え、リハビリの「場」は増加しています。なのに、なぜリハビリ“難民”が発生してしまうのでしょうか。その大きな理由は、現在の保険制度を背景にした「量」と「質」の問題があります。

 保険でのリハビリには医療保険によるものと介護保険によるものの2種類がありますが、医療保険でのリハビリは、脳卒中を中心とした脳血管障害では「150日」、言語能力や記憶力の低下などがみられる高次脳機能障害を伴った重篤な脳血管障害では「180日」に制限されます。また、介護保険でのリハビリは、40歳以下は対象外であるほか、比較的軽度なリハビリにとどまることが多く、特定疾患の専門リハビリが行われなかったり、比較的軽度な機能訓練の時間が限られたりするなど課題があります。

脳卒中リハビリの流れと役割分担

 さらにリハビリの「質」の面での不満もあります。QLifeが行った調査では、脳卒中患者を診察する医師の2人に1人が、患者さんからリハビリ施設やリハビリ内容で「不満や要望を受けたことがある」と回答。不満や要望の内容としては、「プログラムが不十分」、「もっと時間をかけてリハビリがしたい」といったものでした。

リハビリ施設やリハビリ内容について不満や要望を受けたこと有りますか? はい50.9%、いいえ49.1%
リハビリ施設やリハビリ内容について不満や要望を受けたこと有りますか? はい50.9%、いいえ49.1%

 また、医師の約半数が「現在の保険制度では、社会復帰を目指す脳卒中患者さんのリハビリをカバーできていない」と回答。不足しているものとしては、「復職のための実践的なリハビリテーション」、「施設数」、「セラピスト数」などが挙げられました。他にも、「社会制度で全てをカバーしようという発想には無理がある」、「しっかりリハビリしたい人はがっかりする」といった回答も寄せられました。

現在の保険制度は「社会復帰」を目指す脳卒中患者さんのリハビリをカバーできてると思いますか?回答:非常にそう思う6.8%、どちらかと言うとそう思う13.2%、どちらともいえない31.8%、どちらかというとそう思わない37.7%、まったくそう思わない10.5%
現在の保険制度は「社会復帰」を目指す脳卒中患者さんのリハビリをカバーできてると思いますか?回答:非常にそう思う6.8%、どちらかと言うとそう思う13.2%、どちらともいえない31.8%、どちらかというとそう思わない37.7%、まったくそう思わない10.5%

 “脳卒中サバイバー”が増えるなか、患者側のリハビリニーズは増大しています。国の財政は圧迫され、以前のように「ずっと医療保険内でリハビリ」を受けることはできなくなりました。一方、介護保険では、患者さんが期待するようなリハビリを受けられるとは限らない……。そうしたなかで発生したのが“リハビリ難民”なのです。

保険一辺倒だったリハビリの新たな選択肢を国も後押し

イメージ写真

(提供:脳梗塞リハビリセンター)

 こうした状況を打破するために、国は「アクションプラン2016」で公的保険外のサービス産業の活性化を目標に掲げています。これは生活習慣の改善や受診勧奨等を促すことにより、「国民の健康寿命の延伸」と「新産業の創出」を同時に達成し、「あるべき医療費・介護費の実現」につなげる、というもの。具体的には、地域に存在する保険外サービスの情報の収集・一元化を行い、利用者に情報提供を行うなど、保険外サービスがより一層活用されるよう推進を図るとしています。

 その具体例のひとつとして、これまで介護保険内で十分にカバーできなかったリハビリサービスを保険外で行う民間企業が少しずつ増えてきているようです。「1日2時間」「週2回以上」など患者のリハビリ量を設定できたり、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)などの専門スタッフがいたりするなど、患者さんの状態や希望に合わせた「量」ならびに「質」のリハビリサービスを提供しています。

 こうした保険外リハビリは、従来よりも早い職場復帰を目指すなどの高度なニーズへの対応が可能になることが考えられます。例えば、職場復帰を目標とする患者さんであれば、「パソコンのキーを打てるようになりたい」「車を運転できるようになりたい」「字をうまく書けるようになりたい」など個々人で異なる目標に対応。他にも「電車、バスを使って出かけたい」、「箸を使えるようになりたい」など日常生活に関する要望にも、時間や回数の縛りなく対応することができます。

 保険外リハビリは「保険外」のため、もちろん費用はかかります。しかしその分、高度な目標を達成するためにきめ細やかなリハビリプランを設定でき、集中的なリハビリを行うことができます。脳卒中リハビリの新たな選択肢としての保険外リハビリの今後に注目です。

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インタビュー リハビリの専門家に聞きました

脳卒中リハビリ
キーワードは「患者さん自身の主体性」

三軒茶屋リハビリテーションクリニック 院長
一般社団法人日本脳損傷者ケアリング・コミュニティ学会 理事長

長谷川 幹(はせがわ みき)先生

退院した脳卒中の人は毎日“できない自分”と向き合うことになる

 介護保険対応になると、一般的には理学療法などのリハビリに対して「前向きなのにやる場所が十分にない」と脳卒中の人は思います。その後ろに「リハビリに対して後ろ向き」な“心理的にうつ状態の”脳卒中の人が多くいます。

 治療が全て完了してから退院する病気とは異なり、脳卒中の人は運動機能が低下したままなど元の状態には完全に戻っていない状態で退院します。いつでもサポートを受けられる病院から退院することは、毎日“できない自分”と向き合うということでもあるんです。この“できない自分”と向き合う心の準備ができるかが重要です。

 キーワードは「主体性」です。“後ろ向き”な時期を乗り越えて“前向き”になり、主体性を持ってリハビリに取り組むことができるようになれば、能力は絶対にアップします。それは、3年経っても、5年経っても同じですよ。脳卒中の人が主体的にリハビリに取り組んでくれるまで、時間がかかっても寄り添うことが大切です。このように心理的にうつ状態の脳卒中の人を、いかに前向きにしていくかが我々の仕事です。

脳卒中の人の夢を具体的に、“できる”イメージを

 主体性を持ってリハビリに取り組んでもらうためには、脳卒中の人がどうなりたいか、“夢”を具体的にしてあげることが大切です。そしてその目標に対して、医療者が自信を持って「できる」と言ってあげることも大切ですね。「難しい」と言われるのと、「できる」と言われるのとでは全然違いますから。

 リハビリに“後ろ向き”になってしまった脳卒中の人が、早い段階で主体的にリハビリができるようになるためには医療者の協力も不可欠です。私が理事長をしている一般社団法人日本脳損傷者ケアリング・コミュニティ学会では、急性期や回復期の患者さんのいる病院の医療者や、これから医療者になる学生に対し、生活期の脳卒中の人がさまざまな夢を達成した姿を伝える取り組みを行っています。脳卒中で片麻痺になった患者さんが旅行に行けるようになったり、スキューバダイビングができるようになったりした姿を実際に見ることで、「できない」と思っていたことも「できるかもしれない」と思ってもらいたいですね。このような活動を通じて、脳卒中の人だけでなく医療者も含めた多くの人が、脳卒中リハビリに対する“ギャップ”を縮めてほしいと思っています。

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