「ポルフィリン症では?」という医療者への質問が、診断につながる可能性も
[急性肝性ポルフィリン症(AHP)をご存じですか?, 特集] 2022/03/04[金]
急性肝性ポルフィリン症(AHP:acute hepatic porphyria)という病気をご存じでしょうか? AHPは急な腹痛が特徴的な遺伝性の病気です。ただ、希少疾患のため、メカニズムや症状、診断、治療などは一般の方だけではなく医療者にもあまり知られていません。
今回は、数多くの神経難病や希少疾病を診察し、AHPの診療もされている済生会中央病院 総合診療内科・脳神経内科の足立智英先生にAHPの発症メカニズムや診断についてお話を伺いました。
AHPを発症するメカニズム
最初に、AHPを発症するメカニズムをご説明いただけますか。
病名にあるポルフィリンとは、体内で鉄と結合してヘムになる物質です(図1・左)。ヘムは体内で酸素を運ぶヘモグロビンや薬の代謝に関わる酵素を作るうえで欠かせません。
このヘムを作る過程でいくつかの酵素が必要となります。しかし、これらの酵素に関わる遺伝子に変異があると酵素がうまく働かず、肝臓でヘムが作られる途中段階の物質(ヘム生合成中間体)が増え、AHPを引き起すと考えられています(図1・右)。

どうして症状が出てくるのですか?
肝臓でヘムを作る過程に障害があると、何らかのきっかけでヘムを作る最初のステップのALAS1という酵素が増えた場合に、アミノレブリン酸(ALA)やポルフォビリノーゲン(PBG)といったヘム生合成中間体が過剰に作られてしまいます。この過剰となったALAやPBGが神経の働きを障害するため、激しい腹痛などのさまざまな症状を引き起こしてしまうのです(図2)。

AHPの症状は激しい腹痛のほか
神経症状、精神症状、高血圧などさまざま
次に、AHPの症状について詳しく教えてください。
最も頻度が高い症状は激しい腹痛で、便秘や嘔吐といった症状も多くみられます。AHPでは神経が障害されるため、手足の痛み、不安感などを訴える患者さんも比較的多いですね。
慢性的にみられる症状としては不眠などの中枢神経症状を自覚することもありますし、高血圧や頻脈、低ナトリウム血症などが検査で判明することもあります。
患者さんはどのような経過をたどることが多いのですか?
個人差があります。例えば、腹痛などの急性発作が1度起きただけで治まる方もいれば、何度も発作を繰り返す方もいらっしゃいます。いずれにしろ、発作的な激しい腹痛などによって生活の質が落ちてしまうことは大きな問題です。
また、激しい腹痛を繰り返すことに加え、腎臓や神経がだんだんと悪くなったり、肝臓がんを発症したりすることもありますから、早くAHPを発見し、経過をしっかりとみていくことが重要となります。
AHPを疑ったら医療機関を受診し
「ポルフィリン症では」と尋ねてみる
AHPに気付く手掛かりになることは何でしょうか?
まずは、腹痛です。非常に強い痛みにも関わらず原因不明で繰り返す腹痛があれば、総合診療科や消化器内科、またはかかりつけ医への受診をお勧めします。受診の際に、医師に「インターネットで調べたのですが、ポルフィリン症ではないでしょうか」と一言伝えてみましょう。
また、赤みがかった色の尿もAHPの特徴です。日常生活では気付きにくいかもしれませんが、時間経過とともに尿の赤色がだんだん濃くなるのです。もし尿の色が赤っぽいと思ったら、そのことも受診時に医師に伝えましょう。
どのような検査や診察を経て診断するのですか?
一般的な血液検査と尿検査、そして問診です。尿検査ではヘム生合成中間体のアミノレブリン酸(ALA) やポルフォビリノーゲン(PBG)を調べます。
AHPの原因は遺伝子変異ですが、遺伝子検査は行わないのですか?
最終的な確定診断で行うことがありますが、すべての患者さんに行うわけではありません。なぜなら、ALAやPBGが正常値を大きく上回る病気は限られることから、遺伝子検査を行わなくても診断ができるためです。遺伝子検査は確定診断を行う際には必要となりますが、遺伝情報は重要な個人情報ですから、遺伝子検査を実施するかどうかは患者さんやご家族のご意向を最優先します。
遺伝性疾患という観点から、問診で家族歴を伺っています。「同じような症状をもつ」方が血縁者にいる場合はポルフィリン症が疑われます。
新しい治療法が登場したAHP
AHPの治療について教えてください。
AHPはこれまで、発作が起きた後の治療法はある一方で、発作を予防することは難しい病気でした。糖分を取ることでヘム合成が抑制できることは知られていたため、患者さんには甘いものを食べることや、発作の誘因因子として知られていた脱水やストレスを避けることをアドバイスしてきました。しかし、正直なところ、このような対策では不十分な患者さんもいらっしゃいました。
2021年に、AHPの原因となるALAS1を抑制する治療法が加わったことにより、発作を抑えながら日々の生活を送ることができる可能性が出てきました。
AHPの患者さんが医療機関を受診するときに気を付けることがありますか?
日常、医療機関で使用されたり、市販されている薬剤にはAHP発作を引き起こすALAS1を増やす可能性がある薬剤が数多くあります。実際に薬剤の使用が原因となり、AHP発作が起きたり、悪化する場合がありますので、このような医薬品の服用、使用は避けることが重要です。AHP患者さんに安全に用いることができる医薬品リスト1)が海外で発表されています。専門医以外の医師に診察してもらうときはこのリストを持参して見てもらうと、AHP患者さんに安全な薬を処方してもらえると思います。
足立先生からのメッセージ
最後に、メッセージをお願いします。
ここ数年で、AHPの治療は充実してきました。そのため、他の多くの病気と同じように、できるだけ早く診断して適切な治療につなげていただきたいと思います。「AHPかも」と思うような症状などがあったら、一度受診してAHPかどうか質問してみましょう。
- UKPMISほか. 2021 SAFE LIST: Drugs that are considered to be SAFE for use in the acute porphyrias.
(疾患カテゴリ別)https://www.wmic.wales.nhs.uk/wp-content/uploads/2021/08/Safe-list-Categories-orange-May-21-final.pdf
(アルファベット順)https://www.wmic.wales.nhs.uk/wp-content/uploads/2021/08/Safe-list-Alphabetical-orange-May-21-final.pdf
[2021年12月5日アクセス]

島根医科大学 第三内科、いすゞ病院 神経内科を経て現職に至る。
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