[特集] 2022/05/19[木]

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同じ経験をした人とつながりたいー患者会立ち上げに至った思い

世界には、「希少疾患」と呼ばれる患者数が極端に少ない病気があり、その数は6000とも7000ともいわれています1)。「視神経脊髄炎」はその希少疾患のひとつで、日本における患者数は約6500人2)と推計されています。実はこの病気、ほんの数年前まで多発性硬化症という別の病気の一種と考えられていたのです。そのため、診断や治療が遅れてしまうこともあったといいます。

こうした背景を受け、視神経脊髄炎患者でオペラ歌手の坂井田真実子さんが日本初となる日本視神経脊髄炎患者会を立ち上げ、2022年4月16日にキックオフイベントが開催されました。

オペラ歌手として活躍していた坂井田さんは2016年に視神経脊髄炎を発症し、当初は胸より下が不随になってしまったとのこと。しかし、再度舞台に上がることを目標にリハビリを続け、体力は3分の1になり後遺症に苦しんではいるものの、現在は舞台にも上がれるほどに回復したそうです。

坂井田さん

闘病中に視神経脊髄炎について調べていた際、情報が少なく苦労したことや、同じ体験をした人の声を聞きたいと強く思ったことがきっかけで、患者会の立ち上げに至ったと語る坂井田さん。今後は「視神経脊髄炎が取り残されない社会~見えない痛みに耳を傾け隠れている弱さに手を差し伸べる~」というヴィジョンを掲げ、まずは会員1000人を目標にさまざまな活動をしていきたいと意気込みを述べました。

日本視神経脊髄炎患者会

最近まで別の病気の一種だと考えられていた視神経脊髄炎

イベントでは、福島県立医科大学医学部教授の藤原一男先生から、視神経脊髄炎の病態や治療法、多発性硬化症との違いなどの講演がありました。

中枢神経に炎症の起こる疾患である多発性硬化症と視神経脊髄炎は、かつては同じカテゴリーの病気と考えられていました。しかし最近になって「アクアポリン4抗体」という自己抗体の発見により、まったく違う病気であることがわかりました2)。視神経脊髄炎は特に視神経に炎症が起こりやすく、脊髄全体に病変が広がるという特徴があります。主な症状は、視神経損傷による視力低下や、脊髄損傷に伴う痛みやしびれ、手足の脱力など(図)です。

図 視神経脊髄炎の主な症状(藤原先生資料より作成)

視神経脊髄炎には、症状を抑えるための治療と再発予防の治療があります。症状を抑える治療にはステロイドパルス療法と血漿交換療法があり、特に血漿交換療法は発症から5日以内に治療を開始することでより高い効果が見込めるという報告があります3)。ですので、早期の診断と治療開始が重要であるとのことです。再発予防治療としては、ステロイドなどの免疫抑制療法や、サトラリズマブなどのモノクローナル抗体が検討されます。再発を繰り返すと徐々に症状が悪化してしまう病気のため、再発を防ぐことが大切だと強調されました。

藤原先生は、治療方針を決める際には、医学的な事項はもちろんのこと、患者さんのライフスタイルも考慮する必要がある、と講演を締めくくりました。

藤原先生

治療生活は季節の変わり目のつらい症状や再発への不安とのたたかい

トークセッションに登壇した視神経脊髄炎患者である布目まり野さんは、ご自身の病状について語ってくれました。10歳で発症し、2015年に再発した際は、インフルエンザのような症状が治らないまま1か月ほど経過したときに目に異常が現れたとのこと。連休が重なったことや視神経脊髄炎とすぐに診断がつかず治療が遅れてしまった、と当時を振り返りました。坂井田さんは、自身はまだ再発を経験していないものの、めまいがあったりすると再発かもしれないと思ってしまう、と不安を口にされました。

現在の闘病生活について聞かれると、坂井田さんと布目さんは「気圧の変化や季節の変わり目がつらい」と口を揃え、冬から春にかけての時期は特に疲れがひどく、無性に眠たくなったり、たとえるなら日々の記憶がなくなってしまうほどだ、などとお互いの経験を語り合いました。

布目さん(中央)、坂井田さん(右)

イベント最後には、視神経脊髄炎の研究支援と患者支援を行っているアメリカの「ガシー・ジャクソン慈善財団」からのビデオメッセージが紹介されました。「視神経脊髄炎の根治を目指す」とするこの財団では、人間まるごとのケア=ホリスティックケアを重視し、患者さんのQOL(生活の質)向上や社会復帰に貢献するさまざまな取り組みを行っているそうです。

坂井田さんは、日本視神経脊髄炎患者会のミッションとして「社会と医療業界への啓発活動、当事者への啓発活動、当事者のケア」を挙げ、視神経脊髄炎を取り巻く社会に明かりを灯したい、と熱く語りました。今後は医療関係者も巻き込み、患者さんに役立つ情報発信をしていく予定とのことです。

(QLife編集部)

日本視神経脊髄炎患者会

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