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[注目疾患!] 2019/06/03[月]

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内田先生
千葉徳洲会病院脳神経外科部長 内田賢一先生

脳卒中を起こした後に、まひが残り、リハビリテーション(リハビリ)をしているという話や、リハビリ中の有名人のニュースなどをときどき耳にすることがあると思います。千葉徳洲会病院脳神経外科部長の内田賢一先生におうかがいする「脳卒中最前線」連載4回目の今回は、脳卒中後にリハビリを始めるタイミング、リハビリの方法、リハビリ中や退院後に気を付けるべき点などについて、詳しく教えていただきました。

――脳卒中後のリハビリは、どのタイミングから始まるのでしょうか?

リハビリは、日常生活への自立復帰を目的として行います。そのため、脳卒中後のリハビリでは特に、「脳に生じた機能障害により身体機能が落ちないこと」を目指します。つまり、「脳の機能障害が生じてしまった部分とは違う部分に、体を動かすための新しい通り道を作る作業」が、脳卒中後のリハビリです。脳は「一度壊れた部分は元に戻らない」という宿命あるので、壊れた道を補修することができないかわりに、今まで使っていなかった別の道を使えるようにする、これがリハビリの意義です。

さて、リハビリを始める時期ですが、近年のリハビリに関した医学研究結果により、早期に始めることで患者さんの予後が良好になることが、明らかになってきています。では早期とは、どのくらいの時期を指すのでしょうか?欧米では、脳卒中の手術後、および、発症直後(急性期増悪)から2~5日が早期とされています。また、脳卒中で動けなくなった場合には、2日(48時間)以内に筋肉が衰え始めるため、リハビリはこれらの有害事象が起こる前に始めるべきとされています。極端な例を挙げれば、人口呼吸器を装着している患者さんも、動けなくなる前にリハビリを始めるべきと考えられます。

風邪などで数日寝込んだ後に動こうとした際、思いのほか体がフラフラして力が入りにくかった、という経験がある人は多いのではないでしょうか。脳卒中後のリハビリも同じで、何日もベッドに横になる前に始めるに越したことはありません。つまり、“The sooner, the better!”(早ければ早い方が良い)なのです。

――リハビリにはどのような方法があるのでしょうか?

脳卒中後のリハビリは、おおまかに理学療法士 (PT:Physical Therapist)、作業療法士 (OT:Occupational Therapist)、言語聴覚士 ( ST:Speech Therapist)によって行われ、それぞれ内容と目的が異なります。

PTの行う理学療法は、立つ、座る、歩くなど、「基本的な動作の回復」を目指して行います。理学療法には、運動療法と物理療法(電気療法や温熱療法など)がありますが、一般の方がリハビリとしてイメージする治療に一番近いのが、この理学療法かもしれません。

OTの行う作業療法は、「日常生活への復帰」を目的として行います。具体的には服を着る、トイレに行く、箸を使うなどの訓練を行います。「PTが回復させた運動機能を、OTが日常生活への復帰まで引き上げる」とイメージしていただくと、わかりやすいかもしれません。

STの行う言語療法は、さらにもう一段階進んだリハビリとして、「言語(聞く、話す、読む、書く)や嚥下機能(飲み込む)の回復」を目的として行います。「言葉で意思疎通を図る」「経口で栄養を摂取する」などは、人間が生きていくうえでとても大切な機能で、自宅退院できるかどうかを決める重要な要素のひとつにもなります。例えば、口から栄養が取れない状態で退院した場合、サポートする家族の負担はとても大きくなります。

リハビリの世界でも、テクノロジーによる技術革新が起こっています。自宅での生活に戻れても、まだまだリハビリの継続が必要という患者さんは多くいます。このような、ある程度の自立が保たれている患者さんに対し、継続してリハビリを行うツールとして「遠隔リハビリ」「VRリハビリ」「AIリハビリ」などの研究が進められており、一部実用化も始まっています。

――リハビリ中に、気を付けるべきことがあれば教えてください

リハビリ中に、医療者側が気を付けるべきことは、転倒やバイタルサイン(血圧、脈拍など)の確認など、数多くあります。

一方、患者さん自身が最も気を付けるべきことは、「リハビリを途中でやめずに続ける」ということです。脳卒中の後、自分の身体が思い通りに動かないことに対するストレスは、非常に大きなものです。特に、重い後遺障害が残った場合は、なおさらです。このようなストレスが原因で、リハビリを継続することが難しくなった患者さんを、私たち治療者は大勢見てきています。

リハビリを途中でやめてしまう大きな原因のひとつとして、「モチベーションを維持することの難しさ」が挙げられます。モチベーションを維持してリハビリを継続するには、「必ず家へ帰る」という強い意志を持ち続けることが一番大切です。最初にお話しした通り、リハビリの目的は、「日常生活への自立復帰」です。例えば、自宅へ戻り、手すりなどを使ってトイレへ自力で行く姿や、食事を自分で取る姿を想像するなど、日常生活に復帰した自身のイメージを重ねていくことで、リハビリは必ず継続できるものと私たち医療者は考えています。

――退院後の生活で、気を付けるべきことがあれば教えてください

脳卒中の患者さんは、全員が「退院=自宅」というわけではありません。リハビリ病院を経由しての自宅退院や、自宅へ準じた施設への転院など、病状や患者さんの家庭環境などによりさまざまです。ここでは、自宅へ退院された場合を想定してお話しします。

まず、運動量の低下に気を付けましょう。一般的に、病院にいたときと同じリハビリを行うことにこだわるあまり、「頑張らなくては」というプレッシャーを強く感じ、結果として運動量が減ってしまう人は少なくありません。しかし、自宅でのリハビリは、必ずしも特別なことをしなくても、日常生活の延長として行うことができるのです。例えば、掃除を念入りに行えば、それなりの運動量が維持できて、リハビリとしての効果を発揮します。家がピカピカになり、リハビリにもなれば、一石二鳥ですね。

一方で、リハビリのメニューを自身で考え、積極的にリハビリに取り組む患者さんの中には、過労でダウンし、リハビリを継続できなくなってしまう方もおられます。年を重ねるほど、回復にも時間がかかります。焦る気持ちはわかりますが、あまり焦らず、自分の体力に合った無理のないリハビリの継続を心がけましょう。

毎日同じリハビリメニューを繰り返すのではなく、負荷をかける筋肉を変化させた複数のメニューを用意して順番に行うようにすると、各筋肉への負荷にインターバルを置くことができます。このような工夫も、リハビリを継続して機能回復に向かうために重要と考えています。

――最後に、先生から脳卒中でリハビリ中の方々に、一言お願いいたします

脳卒中を患い、リハビリを受ける患者さんの不安は、計りしれないものがあります。また、リハビリによる回復度にも大きな個人差があります。これらに対して、私たち脳外科医ができることは、画像評価などから明確な目標を設定し、より科学的なリハビリを行い、回復の見通しを示すことだと考えています。これは患者さんだけなく、そのご家族のモチベーションの維持のためにも必要なことで、われわれも努力を続けていかなければと、日々考えています。

焦らずに、自身に合った方法でリハビリを「継続」していくことが、回復に向かうために、とても重要だとわかりました。また、遠隔リハビリ、VRリハビリ、AIリハビリなど、科学技術を応用したリハビリの普及もそう遠い未来の話ではなさそうです。こうした先生たちの努力や医療の進歩の恩恵にあやかりつつも、まずは脳卒中を起こさないために、健康的な生活習慣を心がけて、日々過ごしていきたいですね。(QLife編集部)

【内田賢一先生プロフィール】

千葉徳洲会病院脳神経外科部長。脳神経外科専門医、脳神経血管内治療学会専門医、脳卒中の外科学会技術認定医、神経内視鏡技術認定医、臨床研修指導医。2002年に福井医科大学を卒業後、福井赤十字病院、東京警察病院を経て、2013年より中東遠総合医療センター脳神経外科部長。2018年より千葉脳神経外科病院勤務、2019年6月より現職。内田先生の個人ブログはこちら

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