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[クリニックインタビュー] 2011/08/19[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第120回
ながのクリニック
永野靖彦院長

小学生の頃からなりたい職業だった

 子どもの頃に心室中隔欠損という先天性の心臓の病気があり、検査のために病院によく行っていました。病気は自然治癒するのですが、子どもながらに医師と接することが多くて、きっと先生方が優しかったんだと思います。病院が嫌いな子どもは少なくないのですが、僕の場合、病院に行くことが嫌じゃなかった。たぶん、こうした子どもの頃の体験から、おのずと医師になりたいと思っていたんだと思います。
 実際に小学生の卒業文集には『医師になりたい』と書いていました。病気は知らず知らずのうちに自然治癒していたのですが、自分が病気を持っていたということも医師をめざすきっかけだったと思います。

手術の「現場」にこだわり、心臓外科医を断念

 医師をめざし大学でいろいろと勉強をしていくなかで、自分は頭を使うより手を動かすタイプだという明確なビジョンがあったこと。そして、手術をすることに興味があったので外科系の科目に行こうと決めていました。自分が心臓の病気を持っていたこともあったので、心臓外科になりたいという思いはありました。
 ところが、大学卒業を前に心臓外科だけに専門を絞りきれない自分がいました。それは外科系全般を見てみたいという思いが強くあったのと、手術のうまい下手という技術力で勝負する外科医の道に進むからには、心臓のことだけに限らず多くの手術経験を積んでみたいと思ったから。そこで僕は大学病院の医局ではなく関東逓信病院の研修医となり、心臓外科も含め、いろいろな外科系の科をまわりながらトレーニングを積みました。
 実際にトレーニングをしていくと、外科の手術というのは簡単な手術から難しい手術まで内容がじつに多彩で、大学卒業したての若い頃からできる手術もたくさんあることを知りました。たとえば虫垂炎の簡単な手術などは若い頃から自分で執刀ができて、治っていく患者さんを目の当たりするにできるのです。また、当時はまったく興味がなかった消化器科などの手術も、実際にやってみたら非常にやりがいがあった。もともと僕は手術に興味があったので、手術のこうした素晴らしさ、面白さにどんどん魅了されていきました。
 しかし、心臓外科は難しい手術が多く、10年間ほど経験を積まないと自分で執刀することはできません。また、手術件数も他の科に比べると少ない。そこで考えました。心臓外科以外の科であれば若い頃から自分で執刀して手術ができるのに、10年間も執刀できない時間を過ごすのは、手術がしたくて外科に入った自分にはガマンできないなと。実際に、子どもの頃からなりたかった心臓外科に3ヶ月ほど所属したこともあったのですが、自分には向いていないと思いましたし。

「最先端」ではなく「最前線」に立場を変える

 開業するにあたりいくつかの理由があるのですが、今、当院では手術をしていますが、じつは開業したら手術はもうしなくていいと思っていました。自分が納得できる手術もできるようになりましたし、後輩への技術の継承もできていて、大学での役目はある程度終わったかなという自分の中での達成感がありました。ならば、開業という新しい世界にチャレンジしてもいいかなと思いました。
 また、大学病院のように最先端の治療や手術ができるところであっても限界があります。いくらいい治療をしても医師が努力をしても亡くなってしまう人はいて、大学病院に来るときにすでに末期の状態で来る人が多く、それを無理やり治そうとしても、どうしても限界があるのです。ならば、誰でも簡単な手術で治るくらいの早期の状態で見つけてあげるほうが、日本全体の治療成績はグッと上がる。ですが、こうした早期発見は、最先端の大学病院の役目ではなく最前線である開業医の役目。ならば窓口的な存在としてなるべく早く病気を見つけていい治療につなげていくっていうことが、ガンをはじめとする病気の治療成績を上げるために一番大切なことなのではないかと思うようになりました。
 これは予防医学に繋がることですが、予防医学の重要性を地域の方に伝えていくのも開業医の役目だろうと思っています。そのためには地域住民の人たちと最前線で向き合い、その地域の健康意識を高めていくということも含めて、コミュニケーションがとれるようにしていきたいなと思うようになったのも、開業した理由のひとつです。開業してまだ10ヶ月とまだ苦労している段階ですが、当院で健康教室を開催したり、地域ケアプラザなどで話をする機会を今以上に増やして、地域にどんどんと顔を出していきたいですね。

『器用貧乏』は貧乏じゃない

 最近の傾向として専門に特化したクリニックが多いと思うのですが、当院はいろいろな診療科目があるせいか、開業して最初の頃は『先生は何人いらっしゃるんですか?』と聞かれることも多かったです。開業時に自分はどういう医者として大学病院でやってきたのかを省みたとき、僕は肝臓やすい臓の先生でもあり、胃腸や肛門の先生でもあったんだと気づいて、悩んだのですが今のような診療科目を標榜しています。
 外科って非常に幅広い科で、甲状腺、乳がんなども外科。肺や痔などの手術ももちろん外科でやりますし、怪我による傷などの処置もします。最近は、自分の専門の手術しかしないという医師も少なくないですが、関東逓信病院でトレーニングを受けていたときの恩師は非常に手術が上手で、さまざまな手術ができる先生でした。内科や泌尿器科の先生がその先生に手術が頼むこともあるほどです。そういう恩師を見てきましたし、さまざまなことに興味を持ってしまう性格なので、その都度勉強して、気づけばいろいろな専門医になっていったという感じです。
 大学の先生方には「器用貧乏」といわれていましたね。そのため、いろいろなことに興味を持ったり、頼まれるとついやってしまう自分の性格をネガティブな特徴だと思って悩んだこともありました。しかし逆手にとってみると、ひとりの医師で、これだけの診療科目があるクリニックは他にはないので、ならばそれを強みにして、自分が身につけたことの中で、トップレベルの水準が維持できる治療や手術は全部やってみようと思いました。

時間をかけて信頼関係を築いていきたい

 開業前も開業後も一番大事にしていることは、インフォームドコンセント(説明をうけた上での同意の意)や患者さんの立場に立ったレベルの高い治療を提供することです。当たり前のことですが、そのときはなるべく専門用語は使わず、わかりやすい言葉で丁寧に説明することを心がけています。また、患者さんとの対話も大切にしています。なんでも納得してくれる患者さんばかりではありませんが、時間をかけるしかないですから。信頼関係は、時間をかけて築いていくしかないです。
 大学病院では、すぐにでも手術が必要な病気で困っている人、ガンなど手術をしたものが再発した人など、ある意味で限られた患者さんや重症な患者さんを診ていましたが、開業してからは、いろいろなタイプの患者さんを診ることが多くなりました。その分、ニーズも多様化しています。患者さんとの距離は非常に近くなったと思うので、まれにプライベート上でのトラブルなどが話題になることもあります。しかし、こうした問題を抱えていることが原因で不調を引き起こすこともあるからこそ、患者さんときちんと向かい合って話をするようにはしています。
 開業してから考えるようになったことですが、患者さんの「訴えたいこと」や「こうしてほしいこと」を瞬時に掴んで、地域医療に貢献していくことが町医者の役割、かつ、永遠のテーマなんじゃないかなと思うようになりました。まだまだ手探り中ではありますが、患者さんのニーズを的確に捉えて、それにきちんとお応えできるようになれたらいいなと思っています。不満を持ったまま帰らせてしまうのではなく、満足して「このクリニックに来てよかったな」「またこのクリニックに来たいな」と思って、帰っていただけるようにしていきたいですね。

取材・文/酒井久美子(さかい・くみこ)
出版社、編集プロダクション勤務を経て、フリーランスのライターに。新聞社や出版社の各種雑誌や書籍、ウェブサイトの企画編集、執筆や取材などを行う。

ながのクリニック

医院ホームページ:http://www.nagano-clinic.net/

写真左:駅から近く、バス通りに面したオフィスビルの1階にある。
写真中央:入口からさらに奥にクリニックがあり、外からは見えないようになっている。
写真右:明るく優しい色味で統一された院内。待合室は受付の奥にある。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

外科、胃腸内科、肛門内科、内科

永野靖彦(ながの・やすひこ)院長略歴
1991年 山形大学医学部卒業
1996年 関東逓信病院(現NTT関東病院)ジュニア・シニアレジデント修了
2000年 横浜市立大学付属病院 第二外科助手
2002年 横浜市民病院外科・副医長 IBD治療に従事
2003年 横浜市立大学附属市民総合医療センター・消化器病センター 助手
2005年 アメリカ MDアンダーソン癌センター留学
2007年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 准教授・医局長
(2008年より松島病院大腸肛門病センター非常勤)
2010年 ながのクリニック開業


■資格・所属学会
消化器内視鏡学会専門医、大腸肛門病学会専門医、肝臓学会専門医、消化器病学会専門医・指導医、消化器がん治療認定医、食道学会会員、胃癌学会会員、外科学会専門医・指導医、消化器外科学会専門医・指導医・評議員、肝胆膵外科学会高度技能指導医・評議員、内視鏡外科学会技術認定医・評議員、臨床腫瘍学会暫定指導医、ヘルニア学会会員、乳がん学会会員、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、臨床栄養協会認定サプリメントアドヴァイザー

※記事内で使用している写真は、ながのクリニック様より提供されたものです。


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