出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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乾癬性関節炎
かんせんせいかんせつえん

乾癬性関節炎とは?

どんな病気か

 基本は乾癬という特徴的な皮膚症状があり、さらに関節リウマチ(RA、リウマチ)に似ていたり、いわゆるリウマトイド因子陰性の脊椎関節症に似ていたり、もしくはその両者が混在したかのようなバラエティーに富んだ関節症状を呈します。

原因は何か

 一見、リウマチと同じような病気にみえますが、遺伝やX線検査所見などからは独立した病気と考えられています。乾癬そのものには明らかに遺伝的背景があるとされています。

 関節症状を示す本症も、遺伝学的に白血球の遺伝型であるHLAのうちB型の特殊な型との関連があります。また、反応性関節炎と呼ばれる病気と似ている点が多く、感染症、たとえば溶連菌やブドウ球菌といった、ごくありふれた菌の感染症が発病に共通して関連していると想定されています。

 診断に役立つ皮膚症状の乾癬は約70%の患者さんで先行します。15%では皮膚と関節症状が同時に発症し、残りの15%で逆に関節症状が先行することがあります。皮膚症状が遅れて出てくるタイプの診断は困難で、子どもに多いとされています。

 隠れた部位、たとえば頭皮、へそ周囲、肛門周辺などの乾癬を見落とさないことが大切です。リウマチとは異なり、発病がとくに女性に多いということはなく、男性女性同じくらいです。

症状の現れ方

①関節症状

 関節症状の現れ方は大きく3つのタイプに分かれます。

①反応性関節炎という病気に似て腱付着炎(筋肉の端で関節につながり、関節を動かす役目をもつ腱のつけ根が痛くなる。代表的なものはアキレス腱が痛くなる)を伴い、かつ、ひとつないし少数の関節が痛くなる型(全体の30~50%)。

②リウマチに似て全身の多数の関節が痛くなる型(30~50%)。

③主に体軸障害型といわれ、強直性脊椎炎という病気に似て背骨が痛くなったり、骨盤にある仙腸関節が痛くなったり、時に股、肩の関節が痛くなるタイプ(残りの5%)です。

 そのなかでも関節症状に関しては、全体でも25%に遠位指節間(DIP)関節(指のいちばん先端の関節、通常リウマチでは痛くならないといった特徴があり、鑑別に役立つ)に病変を認め、5%はムチランス型といわれる指が短くなり力が入らなくなる高度の変形となることもあるとされています。背骨の痛み(本症では脊椎炎による)や仙腸関節炎は、どの病型でも各30~35%に認められるとされています。

 病型間の移行もあり、症状は一定しないと考える必要があります。

②関節外症状

 腱ないし靭帯の付着部炎(症)は、とくにアキレス腱および踵の腱の付着部によくみられます。結膜炎など眼の症状を伴うこともあります。逆に強直性脊椎炎に認められる大動脈弁閉鎖不全(心臓の弁膜症)、ぶどう膜炎(眼の内部の炎症で、放置すると視力が低下する)、肺線維症(肺が硬くなる)などはまれです。

③皮膚症状

 乾癬はまわりとの境がはっきりした紅斑です。銀白色の鱗屑(ふけのようなもの)を伴います。病変は肘、膝の伸側および頭皮、耳および仙骨上部に認められることが多いとされます。大きさは1~数cmに及び、かくと点状の出血がみられます。爪は表面にくぼみができたり、浮いてはがれそうになったりします。DIP関節病変のある爪に多数(20以上)のくぼみがあれば、本症に特徴的と考えられます。

検査と診断

①X線検査

 X線写真での変化は手、足、仙腸関節にみられます。関節の骨が壊れて削られている部分と、逆に骨が増殖し白く厚みを帯びた変化の両方が同時に認められるといった特徴があります。

 これはリウマチや強直性脊椎炎ではみられない現象です。指の関節のすきまは極端に狭くなり、とくに指の先端の関節はペンシル・イン・キャップ変形と呼ばれる、鉛筆にキャップをつけたような特徴的な変形になります。

②血液検査

 一般にリウマトイド因子は陰性です。関節炎があるため、いわゆる赤沈やCRPなどの炎症反応は陽性になります。この点で反応性関節炎とよばれる病気との区別が困難な時があるので、主治医によく相談してください。

治療の方法

 今までは、リウマチに比べると関節の症状はやや軽いとされてきました。しかし、実際にはムチランス型の高度の変形となってしまうこともあるので軽く考えないことが必要です。

 一般的な治療は、①まずリウマチの治療に似た薬を使い、それでも効果が上がらない時は、②生物学的製剤といわれる比較的新しい注射療法を考えます。

①従来の薬物療法

 関節症状にはまず運動療法を行い、関節が拘縮(硬くなり、曲げたり伸ばしたりできなくなる)しないようにすることが大事です。さらに症状によっては、非ステロイド性抗炎症薬を飲む必要があります。

 これでも症状が治まらない時は、リウマチの時と同様いわゆる抗リウマチ薬が必要になります。とくに、アザルフィジンやリウマトレックスが比較的よく効くといわれています。リウマトレックスは皮膚の症状にも有効のことが多いようです。

②生物学的製剤

 残念ながら、従来の方法では満足のいく治療効果がえられるとはいい切れません。最近、リウマチでも注目されているのが生物学的製剤を用いた治療です。関節炎の症状を悪くしているのは、血液や関節液のなかのサイトカインといわれる炎症を引き起こす物質、とくにTNF-αと呼ばれるものが悪さをしていることが明らかになりました。そのTNF-αを直接抑えるのが生物学的製剤で、そのなかでとくにTNF-αブロッカーと呼ばれるレミケード、エンブレル、ヒューミュラが有効といわれています。

 これらの薬剤は、リウマチ以上に効くことが明らかになってきています。しかし、最近リウマチを治療していると有害事象として新たに乾癬が出現するとの警告が出ています。さらに、高額であること、注射(点滴もしくは自分で注射する)の難しさ、副作用としての重い感染症(とくに結核など)の心配があるため、生物学的製剤を使うかどうかは主治医とよく相談してください。

乾癬性関節炎と関連する症状・病気

(執筆者:東京都立多摩総合医療センター副院長 稲田 進一)

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関節炎に関連する可能性がある薬

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コラムライター症候群

藤田保健衛生大学医学部リウマチ感染症内科教授 吉田俊治

 ライター症候群は、欧米では反応性関節炎と呼ばれ、「HLA-B27や脊椎関節症を伴った微生物が関与した関節炎」と定義されています。

 尿道炎のあとに発症する型と、細菌性の下痢のあとに起こる型とに分けられます。どちらの型も無菌性尿道炎、結膜炎、無菌性下痢、関節炎を起こします。病気に関係する微生物としては、クラミジア、サルモネラ菌、赤痢菌、エルシニア菌、カンピロバクターなどがあります。

 尿道炎あるいは下痢が起こってから1~3週間後に関節炎が現れます。これは数週間から6カ月間続き、一時的に治りますが、しばしば再発します。若い男性で、亜急性の膝関節炎や足底部・アキレス腱の痛みを伴い、仙腸関節の圧痛が認められる場合は、この病気を疑います。

 皮膚粘膜の症状としては、無菌性尿道炎・前立腺炎、無痛性の連環状亀頭炎、膿漏性角化症などが起こります。また無菌性の結膜炎や、虹彩炎のため、まぶしさを訴えることもあります。

 合併症として、大動脈弁閉鎖不全、心臓の伝導障害、IgA腎症、アミロイドーシスなどがあります。

 血液検査では、リウマトイド因子陰性、多くは抗核抗体陰性になります。60~80%はHLA-B27陽性になります。尿検査や便検査などでは、培養、核酸の証明、抗体価検索などによって、起炎微生物を突きとめます。X線検査では、仙腸関節や脊椎の変化を調べます。

 治療については、感染がきっかけになる自己免疫疾患のため、抗菌薬は原則的に効きません。ただしクラミジア感染の場合は再発を繰り返すため、テトラサイクリン系薬剤をセックス・パートナーとともに2週間投与します。関節炎の治療は急性期には非ステロイド性抗炎症薬、ステロイドの関節注入、少量・短期間のステロイド内服があります。病気が長引いている場合にはサラゾスルファピリジン、メトトレキサートなどを、皮膚症状にはステロイドの外用を行います。

 通常は、自然に治りますが、約20%の人は慢性持続性の関節炎、脊椎炎に移行します。

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