[医師が語る動脈硬化] 2011/10/28[金]

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サイレントキラー、動脈硬化は自分では気付けない


野原隆司先生

 動脈は、頭の先から足の先まで、身体中に栄養と酸素を運んでいる大事な血管。皮膚と同じように、赤ちゃんのときは弾力性があってイキイキとしていますが、歳をとるにつれて血管の壁が厚く硬く血液の流れが悪くなります。多かれ少なかれだれにでも起こる老化現象です。
 この血管の変化の中心に、血中のコレステロールが過剰な状態が長く続くことがあります。具体的には、動脈の血管の内側の壁にプラークと呼ばれる大きなこぶができ、これにより血液の通り道が狭くなってスムーズに血液が流れなくなります。これが『動脈硬化』といわれる病気のこわさです。
 動脈硬化は血液の流れが悪くなるだけでなく、血管が詰まると、突然倒れたり、最悪の場合死にいたることもあります。さらに厄介なことに、動脈硬化の進行には自覚症状がありません。それゆえ「サイレントキラー」とも、考えられます。


出典:日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版

 動脈硬化が進みやすい危険因子(リスクファクター)は、いくつかあります。高血圧、脂質異常(高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症)、糖尿病、喫煙、年齢(男性45歳以上、女性閉経後)、心疾患の家族歴(遺伝)などがあげられますが、持っているリスクの数が多いほど動脈硬化は進行しやすくなります(表1)。特に、生活習慣病にかかっている人は注意が必要です。


動脈硬化が引き起こす心筋梗塞・脳梗塞

 血液中の余分なコレステロールが血管の内壁に溜まってできたプラークは、大きくなって血液の流れを悪くするだけではなく、突然破裂してしまうこともあります。この破裂したときが大問題で、破れたところに血栓ができて血管を一気に詰まらせてしまうのです。


(クリックすると画像が拡大します)

 脳に行く動脈が詰まると、脳血栓、脳梗塞、脳内出血などの脳血管疾患をおこします。心臓の周りの冠動脈が狭くなって血液が通りにくくなると、狭心症がおこります。完全に詰まってしまうと心筋梗塞。大動脈瘤や腎不全も、動脈硬化が原因でおこる怖い疾患です。
 心筋梗塞などの心疾患、脳梗塞などの脳血管疾患は日本人の死因の2位と3位です。命が助かったとしても、重い後遺症を抱えて生きていかなくてはならない、なんてこともあります。そうならないためにも「動脈硬化の予防」が重要なのです。


動脈硬化性疾患の予防にはコレステロール値の管理が重要

 動脈硬化性疾患を予防するには、動脈硬化をおこしやすい危険因子を取り除くことが重要です(表1)。年齢や遺伝などの自分でどうすることもできないファクター以外は、努力次第で少なくすることができる可能性があります。自分が持っている危険因子を知って対策を立てましょう。特に、脂質異常や糖尿病、高血圧の人は、積極的に治療をして、その危険因子を取り除く必要があります。
 基本は、コレステロール値が高い状態を放置しておかないこと。このコレステロールの中でも、動脈硬化の原因となるのは、悪玉コレステロールといわれている、LDLコレステロール。動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、脂質異常症の診断基準をLDLコレステロール値140ml/dl以上と定めています(表2)。LDLコレステロールの値が高いと、動脈硬化になりやすくなります。
 一方、コレステロールには善玉コレステロールといわれているHDLコレステロールもあります。このHDLコレステロールはLDLコレステロールと逆の働きをしており、全身の血管壁から過剰なコレステロールを抜き取って肝臓に運ぶ役割をしています。
 大事なのはLDLコレステロールを下げること。そして、LDLとHDLのバランス(LH比)に注目しながらコレステロール値を管理していくことです。


出典:日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版


出典:日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版
※トリグリセライド値が400mg/dL未満の場合に適応(400mg/dL以上の場合は直接測定法にてLDLコレステロール値を求めることが勧められます)
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