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[クリニックインタビュー] 2009/10/30[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第40回
小菅医院
小菅孝明院長

70%の治療を95%にするために

kosuge_clinic01.jpg 初代の小菅医院は祖父が大正11年に、中区本郷町に設立しました。そして戦後になって、この場所に2つめの医院を開設し、大叔母が院長となりました。私の父を含め、祖父の4人の息子はみんな医者です。そういう環境で育ちましたから、私も小さい頃からごく自然に医者になることを決めていました。
 医学部に入った当初は外科にも興味がありましたが、私は手先が不器用なんです(笑)。細かい手術などは自分には無理だと思って諦めました。専門として血液内科を選んだ理由は、外科が介入できない分野だからです。今思うと外科に対するコンプレックスがあったんでしょうね。内科で発見された病気でも、実際の治療は外科で行われることが多いのですが、白血病や悪性リンパ腫などをはじめとした血液の病気は、骨髄移植の手術も含め、治療の最初から最後まで内科で受け持つことができるんです。

CAVIによる動脈硬化測定装置。
CAVIによる動脈硬化測定装置。
CAVIによる動脈硬化測定装置

 大学院での研究テーマは血小板と血管の関係です。当時は血小板というのは、白血球やリンパ球に比べて、あまり注目されておらず、動脈硬化や成人病との関係もまだ分かっていませんでした。昼間は病院で臨床に携わり、夜は研究という日々が続きました。この動脈硬化の研究の繋がりで、PWVという動脈硬化の測定装置を開発した、臨床生理機能学研究室の長谷川元治教授と出会います。この頃の研究は今でもとても役立っていますね。
 平成11年に私のいた東邦大学医学部第一内科の白井達男教授が退官され、横浜のあるクリニックの院長に就任されました。その縁で、私も週に一回、外来を受け持つことになります。そこに漢方外来があったため、本格的に漢方の研究と治療を始めることになったんです。私はずっと大学で研究を続けるつもりでいましたが、さまざまな事情から、そのクリニックの院長に就任することになり、さらにその2年後の平成13年には、大叔母からこの小菅医院を譲られることになりました。
 私が医者として目指すのは「壮大なる総合医」です。人が生まれてから死ぬまで、すべてを引き受けたいと思っています。具体的には大学病院の外来部門を丸ごと移動してくるイメージですね。体調をくずしたら、まずここにきて、必要があれば専門の病院に紹介し、紹介したあともまかせっきりにするのではなく、ダブル主治医のような形で、しっかり患者さんの治療に関わる。それが医者の本来の役割じゃないでしょうか。ただし、それは私ひとりの力でできることではありません。今、当院には私以外に15名の医師がいます。それぞれが内科、小児科、整形外科、消化器科など、さまざまな分野の専門家です。お互いに協力し、学びあうことによって、ひとりひとりの持っている力以上に治癒率を高めることができると考えています。

漢方医学の挫折と再開

 私が漢方に出会ったのは大学時代です。2年生のときに、解剖学の実習中に当時の教授だった幡井勉先生に、後で話があると声をかけらました。何か怒られるんだろうか、もしかして留年とでも言われるんじゃないだろうかと、ビクビクしながら幡井先生の部屋に行くと、用件というのは夏休みに一緒にインドネシアに研究旅行に行かないか、という話でした。幡井先生は解剖学の教授であると同時に、東邦伝統医学研究会を設立された方で、実際にシルクロードをたどりながらアーユルヴェーダなどの伝統医学を研究していました。インドネシアではジャムゥという民間生薬を研究しました。
 また同じく東邦大学解剖学教室の助教授だった村木毅先生にも漢方医学を学びます。伝統中国医学の古典である傷寒論の解説書(『ステップアップ傷寒論』源草社)を出版されたり、現代漢方医の第一人者とされる方でしたが、学生に対しては決して漢方の研究を強要することはありませんでした。私が進路のことで相談をしたときも、最先端の医学検査を学ぶことを強く勧められました。
 こうした出会いによって漢方医療にとても興味を持つようになりました。しかし日本では明治16年に西洋医学を学んだもの以外は医者として認めないという規則ができ、漢方は一気に衰退します。明治43年、和田啓十朗が『医界の鉄槌』で漢方がいかに優れているかを書き、漢方医学の復興がありましたが、私の大学時代には、まだまだ漢方に対する偏見が根強くありましたね。たとえば骨髄移植後の体力回復のために漢方を処方したときなど、周囲の医師からは「菌が入って感染したらどうする」「カビが混じってたらどうする」などと、大変な非難をあびました。
 それなら漢方の効果を実証しようと思い、実験を始めたのですが、これがまったく上手くいきませんでした。冠不全や狭心症によく使われる輸入の薬を調べたのですが、アンプルに使われるガラスの質が悪くて、開けるときに破片が飛び散ったり、薬に不純物が混じっていたりして、まともなデータを集めることができなかったんです。薬効の検証以前に問題がありすぎました。こんなことでは漢方の効果を証明することなんてできるわけがないと、漢方治療からはきっぱり離れることにしたんです。
 それから何年もたって、また漢方治療に関わることになったときには感慨深いものがありました。最近では漢方に対する偏見もなくなってきていますから、良いめぐり合わせだったと思います。

ひとりひとりの力を合わせるために

kosuge_clinic04.jpg 漢方外来として設けた「横浜朱雀漢方医学センター」は寺師睦宗(日本漢方振興会理事長・銀座玄和堂診療所名誉院長・三考塾塾長)先生に名付けてもらいました。また息子さんの寺師碩甫先生(銀座玄和堂診療所院長)は当院の顧問としてお世話になっています。小菅医院も含め、当院の医師はみんな漢方の研究に力を入れていて、向かいのビルにある研修センターでは定期的に勉強会を開いてます。診療が終わるのが夜の8時くらいで、それから開始するので、終わるのは10時過ぎ、時には11時を回ることもありますね。漢方治療以外でも、別の専門の先生に教えられることはたくさんありますよ。私も他の先生に叱られることがあります(笑)。
 医師だけではなく検査技師や看護師も含めて、すべてのスタッフに「プロの集団であってほしい」と話しています。資格を取るための費用を出すなど、勉強のためならできるかぎりの応援しています。私がよく言うのは「西洋医学で70%の病気が治るとしたら、残りの30%のうちの20%は漢方で治せる。それぞれの専門家が協力することによって、さらに5%の病気が治せる」ということです。残念ながら100%の病気を治すことはできませんが、70%を95%にするために、ひとりひとりの力が必要なんです。熱心なスタッフが揃っているおかげで、医院全体がとても上手くまわっていると思いますね。

3階の検査センターではレントゲンや超音波などの機械による検査が可能。3階の検査センターではレントゲンや超音波などの機械による検査が
可能

 医院での診療がないときにも、学会の仕事などで忙しく、趣味というと年に3、4回ゴルフを楽しむ程度。健康のためには、動脈硬化の予防として漢方を服用しています。当院には私も開発に関わったCAVI(動脈硬化を測定する指標)の測定器があるので、定期的に血管年齢をチェックするようにしています。高血圧や肥満などの生活習慣病が動脈硬化を引き起こし、それが心筋梗塞、脳卒中という死因に繋がるわけですから、逆に言えば動脈硬化にさえならなければ、生活習慣病を怖がる必要はないんですよ。
 楽しみは、その日の担当の先生と飲みに行くこと。ほぼ毎日行きますね。お酒が好きですし、飲みながらディスカッションするのが楽しいんです。話題は患者さんの治療のことや、論文の相談など医療にかかわることばかりです。私は楽天的な性格なのでストレスを感じることは特にないんですが、そういう風に毎日他の先生との会話によって刺激をうけることで、ストレスの発散になっているのかもしれません。


取材・文/松本春子(まつもと はるこ)
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。

小菅医院

医院ホームページ:http://www.kosuge-med.com/kosuge/index.html
kosuge_clinic_b01.jpg kosuge_clinic_b02.jpg kosuge_clinic_b03.jpg
JR京浜東北線・横浜線、石川町駅から徒歩2分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科・消化器科・循環器科・小児科・外科・整形外科・麻酔科

小菅孝明(こすげ・たかあき)院長略歴
小菅孝明院長
昭和61年 東邦大学医学部卒。
同大学第一内科にて血液学および動脈硬化の臨床・研究に励む。
平成元年、東邦大学医学部大学院修了、医学博士。
現在東邦大学 理学部非常勤講師、横浜市立大学附属市民総合医療センター総合診療科・漢方外来、社会保険横浜中央病院循環器科、上海中医薬大学付属日本関校客員教授を兼務。

■資格・所属学会他
日本東洋医学会専門医・指導医、他。



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