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[クリニックインタビュー] 2009/10/23[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第39回
風メンタルクリニック本郷
森大輔院長

精神科は人間の人生そのものを立て直す

mori_clinic01.jpg 親が医者で親戚にも多かったので、子供の頃から路線がひかれていたという感じでした。自分が医者になりたいと思いつく前に、周囲から無言のプレッシャーがありましたね。高校生のときはそういう状況に対して「自分には他の職業を選ぶ権利はないのか」というような反発も覚えましたよ。でも、かと言って他に何になりたいかという希望もなく、流れのままに医大に進んでしまったんです。
 当時は今と違って卒業すると同時に何科に行くと決めますから、5年6年の臨床実習がポイントだったんです。精神科のほかに外科にも憧れていたので、ずいぶん悩みました。外科というのは結果がはっきりしていて、患者さんに喜ばれるという形が出やすいというイメージだったんです。それと科によって所属する先生方の性格もずいぶん違っていて、僕は外科の先生に一番シンパシーを感じたんですね。ただ、外科は手術が中心になるので、立ちっぱなし。僕はずっと立ってると腰が痛くなるんです。実習で手術の見学をしたときに、ちょっと屈伸したら先生に「動くな!」と言ってメスを投げられまして(笑)、外科は身体的に無理だと思って諦めました。
 精神科に興味を持ったのは、ひとりの人間の人生そのものを立て直す――人そのものを診るというところです。でも卒業するときは、「とりあえず」という気持ちに近かったですね。医者のライセンスを取得して、実際に自分が医師として患者さんに応対したときには、ものすごく緊張したし、疲れるし、自分みたいなものでいいんだろうかと悩みながらでした。
 最初の患者さんのことはよく覚えています。今で言う統合失調症の方でした。幻聴、被害妄想があって、しかも本人は自分が病気だという自覚がなかったんです。家族が騙すような形で病院に連れてきて、薬で眠らせているうちに強制入院していただくことになりました。患者さん本人はまったくわけがわからない状態ですから、病院のベッドで目を覚ましたときには、ものすごく怒って、安全のために体を抑制していたベッドが浮き上がるくらい激しく暴れるんです。そばにいて怖いというか、どうしたらいいんだろうというか、身がすくむような気持ちでした。
 でもその方は典型な症例だったので、お薬や注射でどんどん良くなっていったんです。興奮や妄想が治まると、その人本来のピュアで純粋な性質が表に出てくるようになりました。僕が本当の意味で医者としての道を歩き出したのは、そうしてじかに患者さんと接する機会を得てからでした。

悩みやストレスはみんな平等に持っている

 僕らが入局した25年前っていうのは、精神科の開業医は本当に少なくて、患者さん自体も少なかったと思います。それがだんだん流れが変わってきて、僕も自分の治療を自分の場所でできたら、それはそれで大学病院にいるのとは違うやりがいがあるだろうなと思うようになり、平成12年にこのクリニックを開設しました。大学病院だと外来が週に2日とか時間が決められているので、その時間に行かれなければ、患者さんは主治医に会えないわけです。また、診察するためにどうしても1日がかりになってしまうので、会社員の人などはなかなか来れませんよね。僕個人のクリニックなら、ほぼ毎日診察できますし、会社帰りに寄ってもらうこともできるので、そういう点はメリットだと思います。
 このクリニックは普通の人が気軽にこられるようにしたくて、外にも大きな看板は出さないようにしたんです。頭が良くてちゃんと仕事をしている人でも、悩みや将来の不安やストレスはみんな平等に持っているわけですから、そういう人たちがふらっと相談に来られる場所をイメージしたんです。診察の待ち時間を少しでも落ち着いた気分で過ごしてほしいので、待合室はできるだけ広くしました。こんな小さなクリニックで、広い待合室はいらないっていう意見もあったんだけど、たった1人でも広々してたら気持ちいいじゃないですか。それに僕は海が好きなので青を基調にして、有線で波の音の入ったBGMをかけています。待っている間に眠ってしまうという人もいますよ。
 患者さんはうつ病やパニック障害の方が多いです。これらは脳の病気なので、お薬で調子を整えることができるんです。それを気合だ根性だという精神論にすりかえてしまうと、ますます患者さんは辛くなってしまいます。かと言って、薬だけでも駄目で、たとえ短くてもカウンセリングの時間をとるように努めています。会話では上手く伝えられない人には、メモに書いてもらいますし、自分から手紙を書いて持ってきてくれる患者さんもいますので、そういったものはきちんと目を通します。

待合室で印象的なのが波を描いたような青いパネル。内装業者が手作りしてくれたそうだ。 診察室の机には患者さんからプレゼントされた海をイメージした小物が並んでいる。
待合室で印象的なのが波を描いたような青いパネル。内装業者が手作りしてくれたそうだ。
診察室の机には患者さんからプレゼントされた海をイメージした小物が並んでいる

僕は絶対にあなたを見捨てません

mori_clinic04.jpg 診察のときは優しく、緊張させないように接することを心がけています。患者さんだって信頼する相手じゃなかったらプライベートなんて話したくないじゃないですか。そのために柔らかい雰囲気を大切にしています。患者さんが望んでいれば、厳しく叱ることもありますが、基本的には怒らない。主治医は何があってもあなたの味方です、他の誰が見捨てても僕は絶対にあなたを見捨てませんよというスタンスです。
 たとえば、長い間苦しんで、ようやくある薬の処方で良い方向に向かっている患者さんがいるとします。ところが内科などで「肝臓の数値が悪いのは、こんな薬を飲んでいるからだ」と言われて、薬を飲むのをやめてしまうことがあるんです。また家族や友人に「睡眠薬を飲んでいるとやめられなくなっちゃう」とか「安定剤を飲んでいると、よけいに変になる」と言われて、やめてしまう人もいる。それでせっかく良くなってきていたのが、またボロボロになってしまうのは、本当にもったいないです。薬によっては副作用があるのも事実ですが、その人の人生で、今は何が一番必要なのかを考えなければいけないと思うんですね。そういう意味でも精神科の医師と患者の信頼関係というのは大事なんです。
 昔にくらべて精神科を訪れる人の数は増えましたが、典型的なうつ病は増えていないという意見があります。「非定形うつ病」「なんちゃってうつ病」と呼ばれる症状の人が増えているのは事実ですが、「そんなのはたいしたことないよ」などと言ってしまっては、勇気を出して精神科に来た若い人の何かを潰してしまうことになります。少しでもその人の救いになりたいという姿勢はどんな人に対してもまったく一緒です。なにしろ追い込まれて、希望をなくして自殺に向かってしまうのが一番怖いんです。だから患者さんが「ここだけは自分を救ってくれる」という最後の場所になれるくらいの気持ちは持って接しています。
 「実は数日後に自殺をすることを決めていました。でも先生とお話して、それじゃいけないのかな?と、死ぬのをやめて、今日生きてここにきています。ありがとうございました」と言われたときは、ホームランを打ったくらいに嬉しかったです。でもホームランばかりではなくても、先週も先々週も悲惨な顔つきをして希望も何もないと言っていた方が、だいぶ気分がよくなったということは良くあるんです。「先週よりは良くなった」「先月よりは楽になった」というだけでも十分に嬉しいですし、やりがいを感じます。

同級生に「天職を見つけてよかったな」と

mori_clinic05.jpg クリニックの休診日も企業での診察があったり、他にも仕事が入ってくるので、僕の休日は日曜日です。毎日夜の8時くらいまで診察して、それから片付けやチェックをしていると、家に帰って食事をするのが10時から10時半くらいになるんですね。休日に起きるとたいがい昼過ぎです。学生時代はバンドでキーボードをやったり、いっぱい趣味があったんですが、どんどん制限されてきてしまいましたね。自分自身が健康でなくてはいけないので、ストレスを溜めないようにしています。気分転換のためには、手軽なところで映画ですね。プロレスはかなり好きでした。今もTVの格闘技の番組はけっこう見ています。音楽も聞くのは今でも大好きですし、あとは晩酌が楽しみですね(笑)。第一にビール、次が焼酎、あとはオールマイティでいけます。家でも外でも飲みますよ。
 子供は3人いて一番上の息子が大学生で、下の息子が高校一年生で、一番下の娘が小四。娘はまだ小さいのでよく一緒に遊びに行きます。息子は今年、医学部に入りました。入ったばかりなので、まだどの科に進むとかは決まっていないと思いますよ。本人も話しませんし、僕からもあれこれ言いません。プレッシャーをかけたくないですからね。本人の好きなようにやってくれればいいと思っています。
 精神科医になったことで自分の性格が変わったということはないですね。昔からこんな感じでしたから、「天職を見つけてよかったな」と言ってくれる同級生もいます。今にして思うと学生のときにいろいろな科をまわって、そのなかで精神科に惹かれたのは、僕の性格に合っていたということなんでしょうね。

取材・文/松本春子(まつもと はるこ)
編集者として10年間出版社に勤務した後、独立。フリーライター・フォトグラファーとして、心身の健康をテーマに活動中。理想的なライフスタイルの追究をテーマに執筆を手がけている。

風メンタルクリニック本郷

医院ホームページ:http://www.karada.ne.jp/user10/tokyo/bunkyo_ku/fumetal/
mori_clinic_b01.jpg mori_clinic_b02.jpg mori_clinic_b03.jpg
壁の色や灯りはナチュラルな色合いなので、インテリアに青を多用していても温かみのある雰囲気。
東京メトロ丸ノ内線「本郷三丁目」駅から徒歩4分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

精神科・神経科・心療内科

森大輔(もり・だいすけ)院長略歴
森大輔院長
昭和59年3月 順天堂大学医学部卒業
昭和59年5月 順天堂大学医学部付属順天堂医院 精神神経科臨床研修医
昭和62年9月 川越同仁会病院勤務
平成2年4月 順天堂大学医学部精神医学教室 助手
平成5年4月 (株)日立製作所産業医(非常勤、現在まで)
平成8年1月 順天堂大学医学部精神医学教室 臨床講師
平成10年2月 順天堂大学医学部精神医学教室 講師(医局長)
平成12年7月 風メンタルクリニック本郷開設

■資格・所属学会他
医学博士、順天堂大学精神医学部非常勤講師、精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医、日本医師会認定産業医
■学会活動
日本精神神経学会、日本臨床神経生理学会、日本てんかん学会、日本薬物脳波学会、日本老年精神医学会、東京精神医学会、第2回日中てんかん・神経免疫・感染シンポジウム副会長(平成10年10月・北京)



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