出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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歯肉がん
しにくがん

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歯肉がんとは?

どんな病気か

 歯肉がんは、上下顎の歯肉および歯槽粘膜に発生するがんで、口腔がんの約15%を占めます。歯肉がんの3分の2は下顎にみられ(図22図22 下顎歯肉がん)、また臼歯部に好発します。男性に多く、50歳以上の中高年齢者に多く発症します。組織学的には、そのほとんどが扁平上皮がんです。

原因は何か

 原因は不明ですが、誘因としては喫煙、飲酒、むし歯および不適合補綴物などがあげられています。また、白板症などの前がん病変との関係も重要視されています。

症状の現れ方

 初期には無症状に経過します。腫瘍が増大するにつれ、歯肉の腫脹、潰瘍、疼痛、歯の動揺・脱落などを来し、出血しやすくなります。腫瘍が外側へ進展すると顔面腫脹が、後方へ進展すると開口障害が生じます。顎骨内に深く浸潤すると、歯痛や三叉神経痛のような疼痛あるいは知覚鈍麻が現れます。さらには病的骨折を来すこともあります。

 頸部リンパ節への転移は25%に認められ、下顎歯肉がんに多くみられます。リンパ節転移は顎下リンパ節や上内頸静脈リンパ節の腫脹として触れます。

検査と診断

 確定診断のためには生検(病変の一部を採取して顕微鏡で調べる)を行います。顎骨浸潤の有無と程度が治療法を左右するため、X線、CT、MRI、骨シンチグラフィなどの画像診断が重要です。

 鑑別すべき疾患とその方法は、以下のとおりです。外傷性潰瘍では原因を除去すれば、2週間後には潰瘍は縮小あるいは消失します。アフタ性口内炎では疼痛があり、また症状に改善の兆候がみられます。乳頭腫や白板症では骨破壊はありません。また、歯周炎では骨の吸収が歯の周囲のみに限られ、骨髄炎では骨の破壊像はがんと酷似することがありますが、症状の消長(よくなったり悪くなったりする)が認められます。

治療の方法

 がんの進行状況に応じた顎骨切除(上顎:上顎部分切除、上顎亜全摘出、上顎全摘出、下顎:下顎骨辺縁切除、下顎骨区域切除、下顎骨半側切除、下顎骨亜全摘出)を行います。術前に放射線治療や化学療法を行うこともあります。頸部リンパ節への転移が認められる症例では、頸部郭清術(リンパ節を清掃する手術)も併せて行います。

 がん切除後の顎骨欠損に対しては、下顎では骨移植あるいはチタンプレートによる下顎の再建を同時に行います。その後、インプラントなどにより咬合再建を図ります。上顎でも骨移植を行うことはありますが、多くは顎補綴で対応します。また、頬部や口底などの広範囲切除例には皮弁(移植用の皮膚)による再建を行います。

 5年生存率は約70%と比較的良好ですが、リンパ節への転移例では予後は不良となります。

病気に気づいたらどうする

 前述した疑わしい病変に気づいたら、ただちに口腔外科などの専門医を受診して、検査や治療を受ける必要があります。また日ごろから歯みがき時の異常出血などに気をつけておくと、早期発見につながります。

歯肉がんと関連する症状・病気

(執筆者:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎口腔外科学教授 小村 健)

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