[患者さんの相談事例] 2011/02/18[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

受診が困難な夫。精神科のドクターなのに、なぜわかってくれないのでしょうか。(52歳・女性)

 夫が重いうつ病を患っています。1ヵ月ほど前から様子がおかしいと思っていたのですが、10日前に「会社に行けない」と言い出しました。実は約20年前、30代前半のときに夫は一度うつ病にかかっています。そのときの状態や経過、今回の様子など、事前にドクターに伝えておきたいと思い、先に私だけ受診しようと思いました。
 5年前に夫の転勤で今の住まいに引越してきたので、20年前にかかっていた精神科は遠くて受診することができません。そこで、インターネットでいろいろと調べ、外出の負担が大きい夫でも行けそうな距離にある精神科クリニックを探しました。そして、電話をかけて、事前に家族受診したいと依頼しました。すると、受付の人から院長に電話が取り次がれ、「患者さん本人のいないところで患者さんの話はできません。ご本人と一緒にいらしてください」と言われたのです。
 そこで仕方なく、1週間前に夫と一緒に受診しました。案の定、夫は自ら20年前のことは詳しく伝えなかったのですが、本人の前で当時のことを詳細に私が伝えるのも夫にとっては苦痛だろうと思い、私が口をはさむのは差し控えました。院長から「とりあえず1週間分の薬を出しますので様子をみて、今後の薬の種類と量を考えていきましょう」と言われ、そのときは帰宅しました。
 そして、今日の午前中、2回目の診察に出向きました。さほど好転していない夫の様子を見た院長から「やはり会社はしばらく休職したほうがいいですね。薬ももう少し強くしましょう」と言われました。
 帰宅してから、会社に休職の連絡をしたところ、夫の上司から診断書の提出が必要だと言われました。そこで、すぐにクリニックに再度出向き、会社に提出する診断書を書いてほしいとお願いしたのです。ところが、院長が「本人以外に診断書を渡すことはできません。それに、どういう診断書が必要なのかもわからない」と言うのです。週に一度の受診だけでも夫にとっては大変なエネルギーを要するのに、そんなに何度も通うことはできません。精神科のドクターなのに、なぜわかってくれないのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 外出もままならない夫の負担を減らし、適切な治療を受けるための情報を伝えたいという考えがドクターに通じず、歯がゆい思いをされたことと思います。事前に「患者本人のいないところで話はできない」というのは、患者さんの個人情報に関係しているからかもしれません。個人情報やプライバシーの保護が厳しく問われるようになり、たとえ家族であっても、本人の意向があれば患者不在の折に勝手に説明することはできないのです。
 ただ、精神科の場合、本人が受診できない(しようとしない)こともあるので、“家族受診”は比較的よく行なわれているはずです。それだけに、どのような理由でダメだと院長が考えているのか、もう一歩踏み込んで尋ねてみてはどうでしょうか。
 また、診断書も、簡易なものから詳細なものまで種類がさまざまです。どのような項目が記載されている診断書が必要で、いつまでに提出しないといけないのかを会社に確認したうえで、再度院長に依頼してみてはいかがでしょう。
 理由を教えてくれなかったり、理由に納得がいかなかったり、今後の関係性の構築が不可能と思われたら、別の精神科を探すこともひとつの方法だと思います。
より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 電話相談を聴いていると、医療者は「話はできません」「診断書を出せません」と結論だけ伝えがちだと感じます。しかし、医療者の方にとって“当然”の理由や根拠が、患者側には理解できないことが多いのです。それに、できないことだけを強調されると、全否定された気持ちになってしまうものだと思います。なぜできないのか、なぜそう考えるのか、ぜひとも説明を加える努力をしていただきたいと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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