患者相談事例-130「事情があり紹介状なしで受診した大病院。診察中に体調悪化したため別の科にもかかれないか相談したところ『紹介状が必要』と言われてしまい…」
[患者さんの相談事例] 2015/02/20[金]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
事情があり紹介状なしで受診した大病院。診察中に体調悪化したため別の科にもかかれないか相談したところ「紹介状が必要」と言われてしまい…。(48歳・女性)
79歳の義父は年に1回、必ず人間ドックを受けています。先日受けた今年の人間ドックでは、再検査を要すると指摘された項目がいくつかありました。その中でも、前立腺がんの可能性が高くなるという腫瘍マーカーPSAの数値が特に高かったので、急を要するのではないかと思い、私(長男の妻)が付き添って、近くの大きな病院を受診しました。
そのときは、人間ドックの結果だけを持って、紹介状を持たずに泌尿器科を受診しました。数値を見たドクターは、「確かに前立腺がんの疑いが高い数値です。ただ、詳しく更に検査を進めるとすれば、それに耐えうる体力があるかどうかの判断が必要です。もし日ごろかかりつけにしているドクターがいれば、紹介状を持ってきてください」と言われました。
義父は以前から血圧が高くて薬を飲んでいるので、3人のドクターがいる小さな病院をかかりつけにしています。その病院では、ほとんど検査がなく、ほぼ問診だけで薬を出しているのです。そのことが私たち夫婦には心配だったので、これまで全身状態のチェックのために毎年、人間ドックを受けるように勧めてきました。それだけに、きちんとした紹介状を書いてもらえるのだろうかと不安を抱きつつも、紹介状を求めて病院を訪ねました。すると、担当のドクターが体調を崩して休暇を取っていると言うのです。残りの2人のドクターは、「いつも診ているわけではないので、責任を持った紹介状は書けない」と言われてしまいました。
仕方なく大きな病院の泌尿器科医に事情を話して、病院で必要な検査をしながら精密検査を進めてもらうことにしました。ところが、その間に父の全身状態が悪化してきて、咳が止まらなくなってしまったのです。泌尿器科の受診の際に、外来のナースに「この後、呼吸器内科にかかりたいのですが」と相談すると、「そのためには、かかりつけ医からの紹介状が必要です」と言われました。患者の状態をよくするよりも、手続きを優先しているようで、対応に温かみが感じられません。仕方がないことなのでしょうか。

最近は医療機関の“機能分化”といって、それぞれの医療機関がどのような患者さんを対象に診るか役割分担が進んでいます。そのため、慢性疾患など落ち着いた状態の患者さんは診療所や地域の小さな病院がかかりつけ機能を発揮し、大きな病院での積極的・専門的治療が必要になれば紹介する。そして、その治療が一段落すると、“逆紹介”といって再び診療所や小さな病院に戻ってもらうことが推奨されています。そのため、積極的・専門的な治療をおこなう“急性期病院”は、初診の患者さんに占める紹介状を持っている人の割合(紹介率)を高めないと、経営的にマイナスになる診療報酬の仕組みになっているのです。
紹介状については、書いてもらえないご事情があるわけですから、そのことをナースに伝え、その場合はどうすればいいのか、再度相談してみましょう。

紹介率を高めないといけない事情はわかりますが、そのために木で鼻を括ったような対応になったのでは、患者の信頼を得ることはできないと思います。まずは患者側に紹介状を持ってくることの意味を説明し、可能かどうかを確認したうえで、場合によっては臨機応変な対応が必要だと思います。そして、何よりも患者のいまの状態に配慮する言葉かけが大切ではないでしょうか。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

認定NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
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