[僕と私の難病情報] 2022/11/24[木]

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第2回 明日の会の活動とピア・サポートの役割

強皮症患者向けLINEオープンチャットの事例を紹介する全4回シリーズの第2回となる今回は、桃井さんが世話人をしている強皮症患者会「明日の会」の活動とピア・サポートの役割についてお話しいただきました。

桃井里美氏
強皮症患者会「明日の会」世話人。2012年に強皮症と診断され、入院、休職の後、退職。2013年ピア・サポートと出会い、2015年に難病ピア・サポーター養成研修を受講。2016年に群馬大学医学部附属病院皮膚科の強皮症患者会「明日の会」立ち上げに携わり、ピア・サポーターとしての活動を始める。以後、世話人として患者の話を聞く面談を続け、2020年10月より明日の会オンラインサロンを開設。2021年9月から2023年4月までLINEの強皮症患者オープンチャット共同管理者を務める。

伊藤智樹先生
愛媛県生まれ。2020年4月より富山大学学術研究部人文科学系 人文学部社会文化コース(社会学)教授。難病支援におけるナラティヴ・アプローチを研究。主な著書に『ピア・サポートの社会学』(編著、晃洋書房、2013)、『開かれた身体との対話 : ALSと自己物語の社会学』(晃洋書房、2021)などがある。

患者会の存在意義~患者さんの悩みを聞く受け皿としての存在

強皮症患者会「明日の会」は、患者同士が語り合える場を作りたい、と私が思っていたタイミングでお話をいただき、まさに「渡りに船」でした。また、ピア・サポーター養成研修2年目の始まりと同時に発足したので、研修で学んだ制度や社会保障などの基礎知識をダイレクトに役立てることができました。

仕事をなくした私にとって、「明日の会」は仕事に代わる自己実現の場になりました。発足が決まったときは、目の前に広がる白銀の世界に自分が最初の足跡を刻むのだという高揚感があり「私が強皮症になった意味はこれだったんだ」と思いました。患者会の活動にはこれまで培ってきた仕事の経験も活かせており、私は面談室という新たな居場所を得て、自分の役割を取り戻したのです。

面談室は患者さんの「聞いてほしい」の受け皿でありたいと思っています。難病患者さんの多くは、病気の不安を誰かに話したくても耳を傾けてくれる人はなかなかおらず、聞いてくれる人がいたとしても当事者ではないので共感は得られない、という状況にあります。特に診断直後は、日常が一変します。周りの人との間に透明な壁ができて別世界にいるような孤立感と、わからないことだらけで治療の見通しが立たない不安がずっと続くと思ってしまいがちです。そこで、経験者として患者さんの力になれる場を明日の会が作っています。また、私自身が「難病でも自分らしく前を向いて生きていける」というメッセージでありたいとも思っています。

医療への貢献~治療は医療者と患者の協働作業

明日の会は、患者参画型医療への貢献、という側面も持っています。患者の声を医療に反映し、患者を「弱者」という位置づけから変えていくために、多くの患者さんの代弁者でありたいと思っています。ある研修の際に、「患者さんにはぼやかして話すより、はっきり言った方がいいんですか?」と聞かれました。自分の体に起きていることを正確に知らなくては、病気とつきあうことはできません。わからないことが不安をかきたてるので、「患者には言えることはきちんと伝えてほしい」と話しました。治療は医師が行うものという認識があるかもしれませんが、実際は医師と患者の協働作業です。慢性疾患の場合、患者が病気や自分自身の状態を理解して日常生活を送る必要があります。大前提として医師とのコミュニケーションが重要なのですが、患者が気後れしたり緊張したりで、「変わりはありませんか」「はい」「では同じお薬を出しますね」という通り一辺倒の会話になりがちです。

そこで明日の会では、受診の際のスキルアップに取り組んでいます。気になる症状や心配事をメモして伝え、質問もするようにすすめ、医師とのコミュニケーションができるようになると、患者さんが治療に前向きになっていきます。並行して、細々とした日常生活の管理方法もお伝えしています。強皮症は「冷え」が悪化要因のひとつなので、手首を温めるなどの工夫が必要です。具体的で細々とした自己管理方法を患者会で情報共有していったところ、群馬大学医学部附属病院皮膚科では皮膚潰瘍が減ってきたそうです。

このように治療を医師任せにせず、仲間と共に主体的に病気や治療に向き合うことがよりよい治療効果につながります。患者が自分を知り、主体性をもって医療従事者と向き合える環境を作っていきたいと思って活動しています。

先輩患者として寄り添うピア・サポーター

患者さんに「自分だけじゃなかった」と思ってもらえるのは、ピア・サポーターならではだと思います。初めて自分と同じ強皮症患者に会った患者さんが「孤立感が一気に吹き飛んだ」と一様におっしゃいます。

難病は「治らない。治療法がない」と言われてしまいます。かなりショックな言葉です。私たちは成長の過程で、家庭、学校、職場などに同じ立場の人や教えてくれる先輩がいるわけですが、難病の場合はそれがなく、真っ暗闇にいるような感じです。その暗闇の一歩先を明るく照らしてくれる存在がピア(先輩患者)です。

明日の会で面談をしていると、患者さんたちは異口同音に「これまで話せる場所も聞いてくれる人もいなかった」「今までひとりぼっちだった。わかってもらえる仲間ができて気持ちが楽になった」と話してくれます。共感できる相手の存在に救われるのだと思います。

難病になっても家庭や仕事、学校などの自分の役割は続きます。外見ではわかりにくい病気の説明は困難ですし、話したとしても職場や家庭でつらさを理解してもらえず、やり場のない気持ちを抱えて葛藤する患者さんは少なくありません。しかも、どんな病気なのかわからず、経験したことのない症状に苦しんだりします。こういった状態が積み重なっていくと大きなストレスになり耐えがたい苦しみになってしまうので、精神的なケアが必要です。そうした精神的な苦しみをじっくり聞いて、わからないことに応えたり、一緒に考えたりできるのは「患者ならでは」だと思います。たとえば「どうして私が難病になったんだろう」とずっと病気を受け入れられなかった人が、「なっちゃったものは仕方ないよ」という健康な人から言われたら反発してしまいそうな言葉が、同じ病気の人から言われると「ああそうか」とストンと腑に落ちるということはよくあります。

ピア・サポートは、患者さんの心と体を医療以外の側面からケアできる、さまざまな可能性を秘めているのです。

伊藤先生コメント

社会的な患者救済の支援制度がある程度整ってきた今、ピア・サポートの必要性が高まっていると思います。支援制度の谷間や手が届いていないところはないか、いい制度があっても患者さんがすぐに使える状態にならないケースはどういうときなのか、といったことを気にすべき時代に入っています。患者の立場から、何かを発信、あるいはコミュニケートしていく必要性が出てきたということです。医療者側の視点に立っても、医療で解決できない部分を補うような存在が必要であるという認識がもたれるようになりました。

そのような形で、ピア・サポートの意義や必要性はもう高まってきている時代であり、今後もなくならない、むしろ重要性がさらに高まっていくだろうと推測できます。支援の文脈でいえば、医療者の手の届かない部分のケアができていく、それが治療にも役立っていく、というのがピア・サポーターの理想の形だと考えます。

患者と家族のためのオンラインラウンジ
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