VOL.1 乾癬治療の「これまで」と「これから」~生物学的製剤が変えた乾癬治療
[乾癬治療を変える生物学的製剤] 2012/02/17[金]
乾癬は患者さんのQOLも大きく低下させてしまう
乾癬は、皮膚の角質の増殖が早くなってしまう疾患です。通常、肌は4週間程度かけて新しい皮膚に変わるのですが、乾癬に罹患するとそのサイクルがわずか4~5日となります。そのため皮膚の表面が、赤く盛り上がったり、フケのように剥がれおちたりします。皮膚がごわごわしたような感じになってくるので、外見的な悩みを抱えている患者さんが多くいます。
日本においては、1000人に1人が発症すると考えられ、およそ12~13万人の患者さんがいるとされている病気で、原因としては遺伝的な要素以外に様々な環境因子が重なり合って発症します。高カロリーで脂肪分の多い食事などが影響していることも分ってきており、メタボリックシンドロームや肥満症などと併発することも多いです。
乾癬では、主に頭部や爪、足のすねなどで、周囲から見える部分に皮疹が生じることも多く、「人の多い場所に出かけづらい」「温泉の大浴場に入れない」など、患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を大きく損なう場合があります。
乾癬のタイプと症状の度合い
乾癬は症状に応じて「尋常性乾癬」「関節症性乾癬」「乾癬性紅皮症」「膿疱性乾癬」の4つのタイプに分かれています。最も多いのが尋常性乾癬で、およそ95%の方がこの尋常性乾癬に該当します。また、関節の痛みなど関節症状を併発する関節症性乾癬の患者さんも増えています。
さらに乾癬の症状は、発疹の程度により軽症、中等症、重症に分けられます。それぞれの患者さんの割合は軽症が全体の約6割、中等症は約3割、重症は約1割です。医師は複数の評価方法を用いて総合的に重症度を判定しますが、患者さん自身が目安として判定できる方法として、手のひらを使って、皮疹の出ている面積を計算するやり方があります。手のひら(指の部分は除く)の大きさが、全身の皮膚面積のおよそ1%に相当すると考えられているので、これがいくつ分あるかによってご自身の症状の重さを測ることができます。5%以下なら軽症、5~10%なら中等症、それ以上だと重症と判断します。
患者さんに大きな負担となった「これまで」の乾癬治療
以前までの乾癬治療は、重症度に応じて、塗り薬、飲み薬、紫外線を皮疹に照射する光線療法などを使い分けていました。基本は外用療法で、主にステロイドを含む外用剤とビタミンD3を含む外用剤を症状に応じて使い分けたり、両剤を併用して、皮膚が厚くなるのを防いでいます。軽症の場合は、外用薬で治療が可能なことも多いのですが、それでも毎日しっかりと塗り続けることは患者さんにとって大変なことだと思います。特に症状の面積が大きい患者さんは、外用薬を塗るだけで数十分を要することもあります。
外用療法で症状の改善が十分でなければ、内服薬や光線療法が選択されます。これらの治療法はいずれも短期的には高い効果を示します。しかしながら、内服薬の場合は、長期間服用する場合には、腎機能障害など副作用などの安全性の問題があります。また、光線療法は、十分な効果を得るためには週2回ほどの通院が必要となり、患者さんに大きな負担がかかってしまうのが「これまで」の乾癬治療の現状でした。
生物学的製剤の登場で変わる乾癬治療の「これから」
最近乾癬の治療薬として注目を集めている生物学的製剤。これは、体内に存在する特定の物質を標的とした薬剤になります。乾癬の患者さんでは、TNF-α(ティー・エヌ・エフ-アルファ)やIL12/23といったサイトカインと呼ばれる物質が多く存在することが確認されており、乾癬の発症に深く関与していると考えられています。
このTNF-αを標的とした生物学的製剤は、当初、関節リウマチの治療薬として全世界で広く使用されていましたが、近年では乾癬の治療にも使用されるようになってきました。これは、関節リウマチと乾癬は同じTNF-αという物質が病気の発症に深く関与していることが背景にあります。
現在、日本で乾癬に対して使用できる生物学的製剤は3種類。製剤によって若干の差はあるものの、どの薬剤も非常に高い効果を上げています。だいたい投与後3~4ヶ月くらいで発疹がなくなり、投与を続けることで発疹のない状態を2年以上維持できている方もいらっしゃいます。
加えて、爪や頭皮といった従来の治療では難しかった部位や、関節症状に対しても高い効果を示しています。全体的に副作用の心配も少ないのが特長で、当院でも通院する約200名の乾癬患者さんのうち、約4割の方が生物学的製剤の治療を受けていらっしゃいます。
QOLの改善だけでなく、治療にかかる時間的負担も軽減
生物学的製剤は従来の治療法では良くならなかった乾癬に対しても効果が期待できる画期的な治療法です。私は特に3つの点に期待をしています。ひとつは、皮疹の全くない状態を維持することができるということ、2つ目は爪や頭皮といった治療の難しかった部位の治療が可能だということ、そして特にTNF-αを標的とする生物学的製剤は関節痛を伴う関節症性乾癬の治療にも効果があるということです。
実際、当院でも多くの患者さんがその効果に満足され「温泉にいけるようになった」「仕事を見つけることができた」「治療にかかる時間が減った」と非常に満足されています。また2週間に一度の自己注射が可能なものもあり、QOLだけでなく投薬そのものも楽になり、通院のストレスが軽減したと喜ぶ患者さんも少なくありません。
生物学的製剤は学会指定の専門医による管理のもと処方されるため、現在、処方できる施設は限られていますが、なによりその有効性により多くの患者様が喜ばれています。乾癬はアトピー性皮膚炎と違いまだまだ知名度が低く、発疹ができていても医療機関を受診されていない患者さんも少なくないかと思います。
現在、乾癬治療で悩んでいる方、発疹がなかなか治らないけど受診をしていないという方はぜひ一度近くの専門医に相談してみてください。
足立 真(あだち・まこと)先生
1984年3月 | 私立灘高等学校卒業 |
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1984年4月 | 東京大学教養学部理科3類入学 |
1990年3月 | 東京大学医学部医学科卒業 |
1990年7月 | 東京大学附属病院皮膚科助手 その後、東大病院、三井記念病院、東大分院、NTT東日本関東病院にて研修後、 |
1996年2月 | 東京大学附属病院皮膚科助手 |
1997年4月 | 東京大学分院皮膚科医局長 |
1999年~2001年 | 留学、ニューヨーク大学医療センター客員研究員 2001年に帰国後、帝京大学附属病院を経て |
2003年4月 | 関東労災病院皮膚科副部長 |
2005年4月 | 同 部長 |
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