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[ヘルスケアニュース] 2023/02/17[金]

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「働くことは生きること。よい制度を目指して当事者の意見に耳を傾けて」

 難病患者さんが日々の生活を送る上で悩みを抱えている大きな問題のひとつとして「就労」があります。日本難病・疾病団体協議会は2022年11月、都内・Webのハイブリッド方式で「難病・慢性疾患全国フォーラム2022」を開き、難病患者さんの就労支援をテーマに、当事者と厚生労働省の担当官らが、パネルディスカッションを行いました。

 パネルディスカッションでは、難病患者さんが雇用される数は上昇しているというデータがある一方で、難病患者さんは就労に困難を感じている現状が改めて浮き彫りになりました。難病患者さんが就労について相談したいと思っても、ワンストップで支援を受けられる体制整備が不十分という課題の解決に向けて、厚労省がハローワークに設置している「難病患者就職サポーター」の拡充や、地域の難病相談支援センターと難病支援に携わる関係者の連携強化が重要との意見が一致しました。

 難病患者さんの就労支援の一環として障害者雇用促進法では、企業などに対し一定の割合以上で障害者を雇用することを義務づけています。雇用者数は19年連続で過去最高を更新しており、2022年6月現在では身体障害者35.8万人、知的障害者14.6万人、精神障害者11万人が雇用されています。法律で定められ雇用率を達成している企業の割合は、48.3%です1)

 2021年度のハローワークでの障害者の新規求職申込件数は約22万4000件、障害者手帳を持っていない難病患者さんの新規求職申込件数は約7300件と年々増加傾向にあります。しかし障害者の就職件数は約9万6000件、障害者手帳を持っていない難病患者さんの就職件数は約2600件で2)3)、近年は増加しているとはいえない状況が続いています。

 34歳で脊髄小脳変性症の確定診断を受けたという岩崎恵介さん(認定NPO法人全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会)はパネルディスカッションで、難病患者さんが抱える就労の問題について「障害者雇用枠の給料の低さから、結婚を考えることは難しい」「体調維持のためにリハビリに励んでいるがゆえに身体障害者手帳の取得が遅れるというジレンマがある」と指摘しました。

 自身の就労経験については「オファーがきたところに応募しても連戦連敗だった」と振り返り、「ハローワークの支援に期待をしていたので、裏切られた気持ちだ」と吐露しました。2020年には民間の転職エージェントを介して障害者雇用枠で正社員として就職をしたものの、「仕事や人間関係には問題なかったが、通勤やパソコンなどの持ち運び、オフィス内での移動など環境面が懸念となり、離職した」(岩崎さん)。難病患者さんの就労支援に課題が多くあることに理解を示した上で、「難病患者はハローワークを頼りにしたい」として、制度の改善を求めました。

 炎症性腸疾患(IBD)を抱える仲島雄大さん(NPO法人IBDネットワーク/埼玉IBDの会)も難病患者さん当事者の立場から、「人手不足が叫ばれていても、難病患者は就職できないのが現状だ」と強調。「働くことは生きること。働ける喜びを感じて、明日を笑顔で過ごしたい。よい制度にしていくためには当事者の意見にも耳を傾けてほしい」と国に対して訴えました。また、ワンストップで就労支援を受けられない現状を課題にあげ、難病患者就職サポーターを配置しているハローワークが各県で1か所(東京、大阪では2か所)にとどまっていることについて、「数は足りているのか」と疑問を呈しました。

難病患者就職サポーター「今後拡充をしていきたい」

 難病患者就職サポーターは、難病相談支援センターなど地域の関係機関と連携をしながら、難病患者さんの希望や配慮事項を踏まえた職業相談・紹介、定着支援を行っています。

 仲島さんの指摘に対し、厚労省職業安定局障害者雇用対策課の小野寺徳子さんは、「十分に対応できていないという指摘を受け止めたい」とした上で、「難病患者就職サポーターの制度は2017年度に開始し、できる範囲の中で勤務日数を増やしてきた。難病患者就職サポーターが配置されていないハローワークでもオンラインを活用するなど、支援できる体制をとっている」と説明。今後拡充をしていきたいとの考えも示しました。

 群馬大学医学部附属病院の難病相談支援センターで難病相談支援員として勤める川尻洋美さんは、群馬県では難病患者就職サポーターの勤務が週2~3日に限られており、「タイムリーに連絡がとれないことに困難を感じている」と問題視。一方で、「難病について専門知識が豊富で頼りがいがある。難病相談支援センターとの連携は年々、前に進んでいる」との認識を示しました。

難病相談支援センターと難病支援に携わる関係者の連携強化が重要

 難病相談支援センターとは、難病患者さんの生活をサポートする目的で都道府県・指定都市に設置されている施設です。

 厚労省健康局難病対策課の簑原哲弘さんは、難病相談支援センターについて、自治体が直接運営しているケースや患者会・医療機関に委託しているケースなど運営形態がさまざまなことに触れ、「それぞれ特色があり、よい部分もあるが、対応可能な相談内容が標準化されていない面がある」と問題視。ワンストップで難病患者さんの相談に応じられる体制を整備するために、「それぞれの地域のサービスの内容や、難病患者さんの就労に関わるステークホルダーの情報を難病相談支援センターが把握できるよう、連携していく必要がある」との認識を示しました。

難病法改正、登録証の発行で「就労支援の負担軽減に期待」

 同日のフォーラムでは、難病患者さんに対する医療の確保や療養生活の維持・向上を目的としている「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)と慢性の病気を抱える子どものサポートについて盛り込まれている「児童福祉法」の法改正の動きに関連して、日本難病・疾病団体協議会の吉川祐一代表理事も講演しました。

 2022年12月に成立した改正法では、医療費の助成開始日を重症と診断された日にさかのぼることが認められました(原則1か月、最大3か月)。国が定める指定難病と小児慢性特定疾病の患者さんが医療費の助成を受ける場合の助成開始日はこれまで、診断書など必要な書類をそろえた上で自治体に申請を行った日でした。

 このほか、自治体は医療費の助成の対象とならない指定難病患者さんも含めて取得することのできる「登録者証」を発行することとなりました。これにより、患者さんの療養生活を支援する制度が利用しやすくなると期待されています。また、研究・治療を推し進めるためのデータベースの充実と利活用についても盛り込まれました。

 吉川さんは、改正法で医療費助成開始日としてさかのぼることのできる期間を原則1か月、特例として3か月としていることについて、「特例の判断基準が自治体によって変わらないよう、運用の公平化が重要だ」と指摘。登録者証の発行については、「今まで就労支援や福祉サービスを受ける際には毎回診断書を提出しなければならなかった。患者さんの負担が軽くなり、サービスを受けやすくなるのではないか」と期待を示しました。データベースの利活用では、「患者さんが不利な状況に追い込まれることがないよう、配慮が必要だ」として、情報漏洩の防止を徹底するよう求めました。

 難病は一定の確率で誰しも発症する可能性があります。社会全体で関心を持って、誰もが働きやすいと感じ、豊かな生活を送ることのできる環境を整えていきたいものですね。(QLife編集部)

1)厚生労働省:令和4年 障害者雇用状況の集計結果.
2)厚生労働省:令和3年度障害者職業紹介状況等.
3)厚生労働省:厚生労働統計⼀覧(平成24〜令和3年度).

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