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[注目疾患!] 2019/04/18[木]

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 千葉県脳神経外科 内田賢一先生

「脳卒中で倒れ、救急車で運ばれた」というような会話を、多くの人が一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ある日突然襲われるイメージのある脳卒中ですが、その背後にある高血圧や動脈硬化は、生活習慣の改善で予防が可能です。そこで今回、千葉県脳神経外科病院の内田賢一先生に、脳卒中について、予防から治療まで、普段気になるさまざまな点について質問し、お答えいただきました。連載第1回目は、「脳卒中とは、どのような病気なのか」について、詳しくお話をうかがいました。

――脳卒中とは、どのような病気なのでしょうか?

「脳卒中」という言葉は、頭の血管に関する病気の総称です。この中に、脳梗塞、脳内出血、クモ膜下出血などがあります。

脳梗塞は、頭の血管が詰まることにより生じる病気で、詰まる血管やメカニズムにより、治療法や予防法が異なります。この病気は、治療法や予防的に飲むお薬などが、近年目覚ましく進歩している一方で、高齢化に伴い、患者数は増加傾向にあります。

脳内出血は、高血圧が原因となり生じる場合がほとんどです。近年高血圧の治療が行き届いたことにより、患者数は減少傾向にあります。

クモ膜下出血は原因のほとんどが「動脈瘤」と呼ばれる血管のコブの破裂により生じます。そのため、事前に発症する可能性がわかる脳卒中といえます。治療法も、近年目まぐるしく進歩しており、特に「カテーテル治療」と呼ばれる治療法が進んでいます。患者数に増減の傾向はみられません。

――脳卒中の患者さんは、日本にどれくらいいるのでしょうか?

厚生労働省の統計(人口動態月報年計)によると、日本には、脳卒中の患者さんが約118万人おり、それが原因で亡くなる方は、年間約11万人います。病気別では「がん」、「心臓病」に次ぎ、3番目に多い病気で、年々増えています。また、寝たきりや要介護になる原因として最も多いのも脳卒中で、全体の3~4割です。その中でも、最も多いのは脳梗塞で、全体の7~8割にもなります。

高齢化が進む中で、脳梗塞などの生活習慣病が社会全体に及ぼす影響は、医療費の面でも深刻です。厚生労働省の「平成25年度国民医療費の概況」によると、脳梗塞を含む生活習慣病にかかる医療費は、がん治療の2倍にものぼります。このまま患者が増え続けることがないよう、国民に予防を呼び掛けたり、最新治療について知ってもらったりすることも、私たち医療者の重要な責務のひとつと考えています。そのために、具体的には、病院で患者さんを対象としたセミナーを開催したり、情報番組などの依頼に応じて予防や治療に関する説明を行ったりしています。

――脳卒中の発症に、遺伝的要因は関与するのでしょうか?

脳卒中に、生活習慣や環境因子が大きく影響することは明らかです。近年、遺伝に関する研究が急速に進み、脳卒中を発症する遺伝的な病気の存在も明らかになってきています。その一例として、「CADASIL(キャダシル:皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)」が挙げられます。この病気は、名前にも一部含まれているように、「常染色体優性遺伝」という遺伝形式を特徴とします。つまり、この病気は、親から病気の遺伝子を受け継ぐ確率は50%で、受け継いだ場合には、必ず発症します。しかし、この病気の遺伝子を持っている人はとても少なく、実際に日本人でCADASILと診断されている患者さんは200人程度です。

脳卒中に直結する遺伝病がある一方で、「脳卒中になりやすい傾向」に関連する遺伝子もいくつかわかってきています。日本人を含むさまざまな人種を対象に行われた遺伝学的研究の結果が、2018年に報告されていますが、この報告では、脳卒中の既往がある6万7,000人を含む52万人の遺伝子を解析した結果、32もの遺伝子が脳卒中に関連することが明らかになりました。この32の遺伝子には、生活習慣病である、心房細動、虚血性心疾患、静脈塞栓症、高血圧、脂質異常症などに関連する遺伝子も含まれており、今後さまざまな治療薬の開発に応用されることが期待されます。さらに将来的には、脳卒中になりやすい傾向を個別に診断し、オーダーメイドの予防が可能になるかもしれません。

また、脳卒中になりやすい遺伝背景を持つ人でも、後天的なさまざまな要因で、発症率に差が出ることも明らかになってきました。例えば、「心肺持久力の高い人」は脳卒中の発症率が低いので、日頃の運動により、脳卒中になりやすい遺伝的素因を変えられる可能性があるわけです。

――「すぐに救急車を呼ぶ」レベルの自覚症状や、第三者から見た判断基準があれば教えてください

急にめまいがしてうずくまってしまった、あるいは目の前の人が同じ状態になった場合、すぐに救急車を呼んだ方が良いのか、症状が落ち着くまで待つべきか。あるいは、車でかかりつけ医に連れていけばいいのか?とっさの判断に迷うことがあるかと思います。

脳卒中では、人間の機能のコントロールセンターである脳にトラブルが起きるため、その症状も多種多様です。では、どのように判断したらよいのでしょうか。

1つの目安として、「マリア病院前脳卒中スケール(Maria Prehospital Stroke Scale:MPSS)」という、日本で作られた評価法をご紹介したいと思います。MPSSでは、顔のまひ(正常0点、まひあり1点)、腕のまひ(正常0点、内側に巻き込まれている1点、上がらない2点)、発語・言葉(正常0点、不明瞭1点、発語なし2点)で評価します。合計3点以上だったら、迷わず救急車を呼んでください。実際に、救急車で運ばれてきた人にtPA(血栓を溶かす薬)を使うのは、3点以上の人がほとんどで、0~2点の人は極めてまれです。この評価法は、医療者のために作られていますが、ぜひ一般の方にも覚えておいていただきたいと思います。私たち医療者は、24時間365日患者さんに必ず対応することが責務と考えています。「普段と明らかに違う」と思ったら、すぐに医療機関に相談していただければ、全力で対応します。

MPSS、ぜひ覚えておきたいですね。次回は、脳卒中の予防について、お話をうかがいます。(QLife編集部)

【内田賢一先生プロフィール】

千葉脳神経外科病院勤務。脳神経外科専門医、脳神経血管内治療学会専門医、脳卒中の外科学会技術認定医、神経内視鏡技術認定医、臨床研修指導医。2002年に福井医科大学を卒業後、福井赤十字病院、東京警察病院を経て、2013年より中東遠総合医療センター脳神経外科部長。2018年12月より現職。内田先生の個人ブログはこちら

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