[クリニックインタビュー] 2009/01/30[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第6回
松原皮フ科
松岡芳隆院長

データがすべてではないと思い知った

matsubara_doc200 私が高校生の頃、知り合いにアトピーを患っている子がいました。その時のつらそうな様子をみて「なんとかしたいなあ」と強く思ったのが、皮膚科医を目指したきっかけです。
「皮膚科医なら、アトピーを治せる。それは病理学的に治し方が判明しているからだ」。私は医学部に進んだ当時、そう考えていました。でも実際はもっと複合的な要素が皮膚疾患には絡んでいて、病理学的に処置をするのみでは治らない領域も存在します。臨床データの数値を確認し、正しいとされる治療を施すだけでは、皮膚科医でもアトピーを治せないことがある――。私はそれを知って驚き、患者さんとじっくり接する皮膚科医になろうと決めました。
 そして病理学・接触アレルギー学の大家にそれぞれ師事しながら、夜間診療でスタートした当院も15年目を迎えました。皮膚科専門医院としては、今後の目標はさらなる設備の充実です。新しい手術や治療法も増えてきていますし、それらをすべて行える医院にしていきたいと思っています。
本来は初診から完治まで患者さんに時間的負担をかけずに行えるのが理想なので、いずれ治療のプロセスを一箇所で完結できるような医院にリニューアルして、ますます地域に貢献していけたらと願っています。

大切なのは、「治療は共同作業」と思う心

matsubara_01 皮膚疾患は一つとってみても、人によって発症の原因が異なります。背景には強いストレスや間違った化粧法、また食生活の乱れなどがあり、ピンポイントに因果関係が明確であるケースはあまりありません。
 治癒を妨げる複数の要素を取り除くには、医師の治療ばかりでなく、患者さん自身の努力も必要です。食事・睡眠・化粧のどれかが間違っているとわかったら、まずそれらを改める。ほかにも悩みごとが疾患に大きく関わっているなら、できるだけ解決するようもっていく。こうした二人三脚でもって、時間をかけて根治や体質改善を達成することが肝要です。医師が原因を指摘するだけで終わってもいけないし、患者さんも聞きっぱなしではいけないわけです。
 そして治癒に向けた共同作業を開始するには、原因究明のための個別相談を最初に行いますが、相談でうまく情報を引き出せるかどうかについては、医師と患者の信頼関係がネックになってきます。
 皮膚を診せに来ているのに、「どんな食べ物をよく口にしますか」といった質問ならまだしも、「どんな悩みがありますか」などと訊かれても、答えるのに抵抗を感じますよね。そこをきちんと答えてもらって双方で問題の在り処を共有するためにも、皮膚科医は「心を許せる相手」として、患者さんの前に佇みます。それが治療の第一歩です。
 このように、他のデータ重視の科とは異なり、治療に傾聴が必須の現場なので、皮膚科医は感性を発揮して患者さんを知ろうとする点から、人文系の側面が強いと言えます。私が「患者さんにじっくり接する医師」を目指している理由もこういうところにあるんです。

太宰治と皮膚の、秘めた関係

 皮膚を患った女性の心情については、太宰治がおどろくほど的確かつ繊細に描写しています。太宰が30歳の時に、雑誌『文學界』に発表した『皮膚と心』という短編小説で、これを読むと皮膚の病変が心に与える影響の深さを思い知らされます。
 肌は人の目に触れますし、皮膚疾患は内臓の異変と異なり、自分でも異常が視認できてしまいます。それだけに、病理的には「大したことない」レベルであっても、本人が「変だ」「嫌だ」と傷ついてしまうと、その不安をぬぐうのは一苦労。ただでさえショックなのに、周りの人が冷やかしたりしたら、心の傷がいっそう深く残ります。特に思春期から二十歳くらいの女性ですと、初めて皮膚を患った際に強いショックを受けるのが普通でしょう。ニキビひとつでも、初めてのことだと泣き出すくらい混乱してしまうケースもあります。
 それだけ皮膚は、心情と深く結びついているのです。ストレスがゼロなら治るかといったらそんなことはありませんが、ストレスにさらされると悪化していく傾向があります。
 しかし周囲はそこまで気が回らないことが少なくありません。「気にしちゃダメ」と家族が言っても、一旦気にしだしたらどんどんそのことばかり考えてしまい、それがストレスになって、さらに悪化してしまいかねません。時間がある程度経つまでは、疾患を受け入れたり、傷に慣れたりするのは難しいものです。家族や友人、先生にあたる人たちには、そんな患者さんを否定せず、協力姿勢を示してあげてほしいと思います。思いやりの気持ちが伝われば、少なくともストレスの増大で悪循環に陥るのは防げることでしょう。

アナログオーディオに魅せられて

 皮膚疾患にはストレスが関与しますし、ストレス解消につとめることはとても大切です。それには趣味を持つのがいいですね。
 私の趣味はクラシックレコードの鑑賞と蒐集です。アナログのレコードプレイヤーと、真空管アンプにもこだわっています。CDよりアナログのほうが、とても良く聴こえるので、感性が刺激されます。レコードは昔は1枚2500円でしたけど、今は中古のトレードセンターでは100円程度で、入手しやすくなりましたね。吉祥寺とか神田に行くと、いいのが見つかるんです。レコードを集めたり、それを堪能したりするのはとても楽しいですね。
 体力維持のためには、好きなテニスを毎週やっているんですけど、下手です(笑)。あと、ジムに通ってウォーキングマシーンを使うのも気に入っています。

取材・文/戸谷妃湖(とたに ひこ)
広告代理店のコピーライターを経て、現在フリーライターとしてロンドン・北京・東京の三都市を基点に活動。被虐待児童におけるトラウマティック・ストレス学、および漢方による精神疾患アプローチに関する研究をライフワークにしている。

松原皮フ科医院

医院ホームページ:http://www.tcda.jp/matsubara-hifu/
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京王線「明大前」駅、京王線・東急世田谷線「下高井戸」駅からいずれも徒歩5分。
診察室まで土足で入るシステムとは思えない清潔。
詳しくは医院ホームページから。

診療科目

皮膚科
[保険対象]生活習慣指導/アレルギー検査(パッチテスト)/スキンケア指導/医療用紫外線治療器による白斑・乾癬・掌せき膿疱症・アトピー性皮膚炎・顔面の白斑治療/炭酸ガスレーザーによる腫瘍手術
[自費]ルビーレーザー治療/医療レーザー脱毛
※各種保険取扱医療機関
※近隣地域には往診有り
※東邦大学大橋病院・関東中央病院と病診連携

松岡芳隆(まつおか・よしたか)院長略歴
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(専門:皮膚科)
1983年 埼玉医科大学卒業/東邦大学大橋病院皮膚科入局
1984年 公立学校共済組合関東中央病院皮膚科医員
1985年 東邦大学大橋病院皮膚科助手・医局長・病棟医長兼務
1987年 皮膚科専門医取得
1993年 東京・世田谷区に「松原皮フ科医院」開設/現在に至る
2000年 東京都皮膚科医会理事就任

■所属学会
東京都皮膚科医会(TCDA)・日本皮膚科学会・日本臨床皮膚科医会(JOCD)・城南皮膚病勉強会(副会長)・東邦大学大橋病院皮膚科同門会(会長)


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