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[クリニックインタビュー] 2010/07/09[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第73回
プライマリ整形外科 麻布十番クリニック
寺尾友宏先生

ドラマチックに治っていく、それが整形外科の魅力

 僕は、物心ついたときから「将来は医者になるんだ」と思っていました。幼稚園の卒園文集にはすでにそう書いてありましたね。祖父や父が医者で、親戚にも医者が多かったので、自然と考えがそのようになったのでしょう。
 とはいえ、祖父は内科で開業医、父は老年科の勤務医、僕は整形外科と、専門はそれぞれ違います。僕が整形外科を選んだ理由は、「治ったときの反応」がすごくはっきりしているから。臨床実習ではすべての科を回るのですが、そのなかで、例えば立つこともできなかった人が、人工関節の手術を受けて歩けるようになるのを目の当たりにしました。動かなかったものが動く、できなかったことができるようになる、そのドラマチックな変化に、とても魅力を感じたんです。
 大学を卒業して2年間は医局に所属しましたが、そこではあまり手術の機会がありませんでした。僕はスキルを上げたかったので、積極的に手術を任せてくれる場所として警察病院に移ったんです。外来に始まり、さまざまな手続きや、日程を組んで術後のプログラムを組むなど、自分一人で最初から最後まで患者さんを診ることは、とても勉強になりましたね。

電気機器を並べる治療には、与しない


明るい日差しが入り込み、スパやサロンにいるような気分に。

 僕がやりたい医療は、きわめてシンプル。「患者さんの痛みやつらさを、楽にする」ことです。整形外科に来る患者さんにとって、問題は二つ。一つは、「痛い」という異常知覚、もう一つは、「思うように動かせない」という機能不全です。多くの方は、患部が「痛いから」動かすことができず、その状態が続くことによって本当に動かせなくなってしまうのです。
 だから、僕はまず患者さんの痛みを、徹底的に緩和することから始めます。そのためには西洋医学はもちろん、漢方や針といった東洋医学など、効くと思われる治療法は何でも利用します。とにかく最初にすべての技術を注いで痛みを極力ゼロに持っていく、せめて実感として楽になるくらいまで緩和します。だって、痛みを感じたままでは、患者さんは治療を続けたくないですよね。そのうえで、機能回復を目指して治療していきます。
 一般に保険内で行われているリハビリテーションは、保険の点数が低いこともあり、どちらかと言えば鎮痛を目的としていて、機能回復まで手が回らないのが現状だと思います。身体の機能を維持していくためには、リハビリで機能を回復したあとも継続的にトレーニングを行うことが必要ですが、保険での制約があるために、継続してリハビリを行っていくことができないのです。継続してトレーニングをするため、クリニックに併設してフィットネス・ジムを作っている所もありますが、診察の内容とトレーニングの内容を上手くリンクさせるのが難しいと言われています。
 僕は勤務医時代、「もっとクリニックと機能回復のための施設が近くにあって、個々の患者さんにしっかり合わせた治療をやりたい」と常々思っていました。同じ腰痛でも原因が違う、弱っている筋肉が違う。だからしっかりと個人を診て、そのうえでリハビリプログラムを作り、機能回復を手厚く行う。それが、僕のやりたい医療だったんです。
 でも、大きい病院ではこうした意見を言っても、反映してもらうまでにすごく時間がかかります。変えたいことがあっても、とてもまだるっこしい手続きが必要になり、すぐにはできない。それにより、患者さんがより適した治療を受けられない期間ができてしまいます。
 また、整形外科の世界では、昔から言われている「売り上げを安定させる鉄壁のパターン」があります。それは電気治療の機械を並べ、一日何十人、何百人もの患者さんをベルトコンベアのように診ること。確かにこれを行えば、売り上げは安定するでしょうね。
 でも僕は、そんなのは医療でも何でもないと思っていました。だから開業するときも、それをやる気は、さらさらありませんでしたね。しかし周りからは、「鉄壁のパターンがあるのに、なぜ、それをやりたがらないの」と言われ、なかなか理解してもらえませんでしたが。

回復させることこそ、本来の目的

 もちろん、電気治療やマッサージの機械によって、一時的にでも痛みがなくなるのはいいことです。人間の脳は、痛みが減ったと感じることで、トータルの痛みを減らす作用がある。その意味では、痛みを抑え込むことも、間違いではありません。でも、どちらかといえば、それはメインでなくサブの治療。本来は、体の機能回復が目的なのです。
 人は年を取っていくにつれ身体機能が落ちていきますが、メンテナンスしていけば落ちにくくなる。すると後々が楽になり、またその積み重ねによる差は大きなものになります。
 ただ、そのメンテナンスにも、患者さんの症状に沿った方法が必要です。最近ではようやく、整形外科の世界でも「ロコモーティブシンドロームの予防」が提唱され始めました。「老後、運動機能に障害をきたさないようにするため、できるだけ体を動かしましょう」というものです。でも、まだ体操レベルなんですね。すでに痛みや機能不全を抱えている場合は、パーソナルトレーニングじゃないと効かないし、自己流でやると逆に痛めてしまうおそれがあります。
 残念なことに、なかにはベルトコンベア式の治療や、「腰が悪いなら骨盤を引っ張っておけばいい」といったマニュアル治療を行う所もあります。一番患者さんが気の毒なパターンは、痛くなったから病院へ行ったのに治らず、次から次へ転々とすること。その労力はすごく大きなものです。どう考えても、患者さん主体の医療とは言えません。
 当院は、患者さんのためにできる治療を全部用意して、もし効かなかったらそれをフィードバックし、別の治療法を提案するようにしています。そのほうが治療の質が上がり、患者さんの病気に関する情報を多く手に入れることができる。つまり、その患者さんに何が必要かを知ることができるんです。

必要な“答え”は、患者さんのなかにある

 個々の患者さんのニーズに近づくためには、医師としてのコミュニケーションスキルを磨くことが、僕の最重要課題ですね。どんな治療をするにしても、コミュニケーションが不足していると、その人のニーズすら知ることができません。最終的なゴールは「その人が何やりたいか」です。日常生活ができればいいという人と、90歳を過ぎているけれど、どうしてもマラソンを続けたいという人では、痛みの管理や機能回復のしかたが異なってきます。その人がどんな気持ちで、何を求めてきたのかを知るためには、よく患者さんと話をし、必要な情報をピックアップしていく。またその結果、患者さんも「思いの丈を話した」と、すっきりして頂けることが大事ですね。
 僕から患者さんに申し上げたいのは、「運動器のトラブルを、決して諦めないで下さい」ということです。痛みを抱える人は「ずっとこのままなのかしら」と不安かもしれませんが、治療を行えば楽になる手段は残っています。「痛いから動かさない」のではなく、治療しながら患部を使っていくことも不可能ではないのです。だから「痛いところを放っておかず、一緒に治療していきましょう」と伝えたいですね。

メジャーではないものにこそ、ヒントがある

 平日は朝9時から夜9時まで医院で治療し、休みの日には事務作業や調べ物をするので、普段、ほとんど趣味に使える時間はありません。昔は大学の友達と、「年に一回、今までやったことのないスポーツをやろう」と決め、面白そうなスポーツを探しては参加していました。なかでもカイトボードは楽しかったですね。何メーターもあるカイトを上げ、それを動力にして行うウェイクボードです。風が吹かないと待ちぼうけを食うこともありますが、いざ風が吹くと、それに引っ張られている感じ、自然と遊んでいる感じが楽しい。僕は都会大好きっ子で、自然派ではないのですが(笑)、たまにはそういうのもいいですね。
 また、カイトボードは、カイトと腰が繋がるようになります。風のゆるやかな力で腰が引っ張られると、とても楽になるんですよ。コントロールも腰で行うので体幹も使いますし、なかなか腰にいいスポーツだと思います。もちろん、もともと腰痛のある方は、先に治療する必要がありますが。
 僕は再生医療の勉強をするため、京都に四年間いたことがあります。そのときはずっと杖道(じょうどう)をやっていました。その名のとおり、杖を使う武道です。よく、警察官が警察署の前で棒を持って立っていますよね。あれは警察杖道と呼ばれ、杖道のうち警察に派生したものです。杖道は、つば付きの木刀を持った相手と行います。その木刀がことごとく体に当たるので、痛いのなんの。でも、思いっきり腕を動かすので、肩にいいんです。こういった、メジャーじゃないスポーツがけっこう好きですね。メジャーじゃないところに、体に関するいろんなヒントがある気がします。

取材・文/瀬尾ゆかり(せお ゆかり)
フリーライター・編集者。編集プロダクション勤務を経て独立。医学雑誌や書籍、サイトの編集・記事執筆を多数手掛ける。ほかに著名人・文化人へのインタビューや、映画・音楽・歴史に関する記事執筆など、ライターとして幅広く活動している。

プライマリ整形外科 麻布十番クリニック

医院ホームページ:http://www.po-ac.jp/

まるでスタジオのような雰囲気の院内。西洋医学や漢方、鍼灸といった東洋医学など、様々な治療を受けることができる。
地下鉄大江戸線・南北線麻布十番駅から徒歩5分。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

整形外科、リハビリテーション、鍼灸治療

寺尾 友宏(てらお・ともひろ)院長略歴
寺尾 友宏院長
1997年 東京医科大学医学部卒業
1997年 東京医科大学整形外科講座
1999年 東京警察病院整形外科勤務
2003年 洛陽病院勤務
2007年 京都大学大学院医学系研究科修了
2007年 東京ミッドタウンクリニック 整形外科長就任
2009年 プライマリ整形外科麻布十番クリニックを開業。


■資格・所属学会他
日本整形外科学会認定 専門医 、日本整形外科学会認定 スポーツ医 、日本医師会認定 健康スポーツ医 、日本体育協会公認 スポーツドクター 、NPO法人芸術家のくすり箱に参加



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