[クリニックインタビュー] 2011/03/11[金]

いいね!つぶやく はてなブックマーク

大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第106回
パークサイド広尾レディスクリニック
宗田 聡院長

医学部卒でも医者になるつもりはなかった

 もともとは小学生のときに非常に影響を受けた先生方と出会ったことと、人と接する仕事がしたいと思っていたことがきっかけで、小学校教師をめざしていました。ところが大学受験の際のセンター試験の出来が思いのほかよく、医学部も受験できそうな点数が取れてしまった。それで、教師と同じように医者も人と接する仕事だからめざしてみようかなと思い、医学部を受験しました。
 ただし根本的な問題として、じつは血を見るのがあまり好きでなく、正直、医学の道へ進もうかどうかは悩みました。改めて自分の進路について考える中で、医学部進学への背中を押してくれたのが、好きな作家のひとりで、映画「ジェラシックパーク」や人気テレビドラマシリーズ「ER」の原作者であるマイケル・クライントン氏の経歴でした。彼は、医学部卒の経歴を持った小説家だったのです。
 ならば彼のように、医学部に入ったからといって医者にならなくてもいい、卒業後は大学で学んだ知識を生かして医療系や理学系の出版社でライターをめざしてもいいかなと思うようになったのです。当時の日本は医学部卒業=開業医というコースが当たり前でしたから、医学生の中では異色だったかもしれませんね。長年悩みのタネだった血は、大学での最初の解剖実習が問題なくこなせたことで克服できました。ただし、いまだに人体は大丈夫なのですが、魚やカエルなどの両生類、小動物は苦手ですね。

開業したことで長年やりたかったことが実現

 もともとの希望学科は産婦人科と泌尿器科でした。なぜなら、このふたつの科だけが自分たちで手術もして薬を使った治療もできるから。いろいろなことをトータルでやってみたいという欲張りな自分には合っていると思いました。最終的には産婦人科の中でも産科を選びましたが、じつは不妊治療に携わりたいと思っていた時期もありましたね。結局、勉強するチャンスがなく遠ざかってしまったのですが。
 その後、大学を卒業して大学院に行くまでは、いろいろな病院を転々としながら各先生のもとで手術や当直の手伝いなどをして、経験と知識を身につけました。大学院卒業後は、アメリカに留学。そして、水戸済生会総合病院主任部長・周産期センター長を経て、2006年8月に広尾に開業しました。勤務医時代は、24時間体制で月に20日以上の当直は当たり前。とても人間的な生活じゃない上に、つねに危険と隣り合わせ。学会などに参加することも勉強もできなく、ストレスも相当なものでしたね。
 開業してみると勤務医時代とはうって変わって、日中は非常に忙しいのですが、入院患者さんがいないので診療時間後は自由な時間を持てました。その時間を使って、今までできなかったいろいろな学会や勉強会に顔を出しています。医学の世界は非常に狭いので、異業種の交流会などに顔を出して、いろいろな業界の方と交流を持つようにしています。小学校教師やライターなどの仕事をやってみたかったという最初の話に戻りますが、もともといろいろな人と話をしたり接したりするのが好きなので、今それがやっと実現できるようになり日々がとても楽しく充実しています。現在地にクリニックを移転した際、空調にアロマディフューザー(噴霧器)を導入できたのは、交流会で知り合った方のサポートがあって実現できたことです。また、セキュリティや予約、会計システムなど、他業種であれば当たり前のようにあるシステムが医療業界ではまだ導入されていない。そうしたことを学べるいい時間でもあります。

女性専門の「かかりつけ医」をめざす

 開業するときから、婦人科に特化するのではなく、女性の健康に関わるすべてのこと、身体だけではなくメンタルや内科的なものもトータルで診ることができるようなクリニックを作ろうと思っていました。これはアメリカに留学したことがきっかけでもあります。むこうでは、今私がやっているようなトータルで診る医療が10年前からすでにありました。ウィメンズホスピタルという女性の総合病院があったほどです。そこでは女性特有の病気はもちろん、泌尿器、循環器、血管系など男女差で異なる病気のほかにも、思春期における過食症や拒食症、成人になってからパニックや不安、産後鬱、更年期、老年期など、女性の生涯を通して起こるメンタルの問題も診ていました。女性の場合、メンタルの問題が身体の異常とリンクしているケースが少なくありません。そこで私も専門外ではありますが心療内科などに興味を持つようになり、女性の心身を診るスペシャリストを集めてクリニックにしてみようと思ったのです。
 そのため当院では、私の専門外の心療内科のほかに特定検診や禁煙外来、軽度の花粉症への対応やインフルエンザの予防接種なども行っています。昔でいうところの「町医者」や「かかりつけ医」、要するに「駆け込み寺」的な存在です。ですから、まず異常がないかどうかをここでひととおり検査して、患者さんの不安を聞く。その上でもし自分のクリニックではできない治療が必要ならば、その段階で専門医を紹介しています。意外なことに、東京には当院のように女性の健康のこと(ウィメンズ・ヘルス)をトータルで診る「かかりつけ医」は少なくて大きな総合病院に行くしかなく、患者さんは困っていたようです。

「トータルヘルスプランナー」としてできること

 今は病気がひどくならないと病院では診てもらえないシステムができていますが、もっと早く、軽度の段階から相談できる病院がもっとたくさんあってもいいと思うのです。発見が早ければ薬を使わなくても治すことができますし、メンタルの場合であれば、話を聞いたり生活を変えたり食事に気をつけるだけでよくなることも多々あります。ですから将来的には、当院のような「駆け込み寺」的なクリニックをもっと増やしていきたいと思っています。
 私は自分のことを「トータルヘルスプランナー」といっているのですが、開業したいけれどどうしていいかわからないという医師に、私の考えや今日までのノウハウを盛り込んだクリニックを与えて、院長をやってもらえたらいいなと思っています。私がひとりでできること、診ることができる患者さんの数は限られていますし、私よりも優秀な医師はたくさんいます。だからこそ、自分の考えに共感してくれる優秀な医師を探して、駆け込み寺的なクリニックをたくさん作っていきたいと思っています。
 そうすることで、たくさんの女性が治療を受けられるようになり、ひとりでも多くの女性を助けることができると思うのです。今後は早期治療や予防医学の大切さを伝える啓蒙活動にも力を入れて、患者さん自身の健康意識をより高めることができればとも思っています。

取材・文/酒井久美子(Kumiko Sakai)
出版社、編集プロダクション勤務を経て、フリーランスのライターに。新聞社や出版社の各種雑誌や書籍、ウェブサイトの企画編集、執筆や取材などを行う。

パークサイド広尾レディスクリニック

医院ホームページ:http://www.ladies-clinic.or.jp/

写真左: 広尾駅から徒歩2分というアクセスのよい立地。
写真中央:広々とした待合室でゆったりと待つことができる。
写真右:FeliCaポケット搭載の診察券は、おサイフケータイ®でも対応可能。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

婦人科・産婦人科、心療内科、乳腺外来、各種健康診断など

宗田聡(そうだ・さとし)院長略歴
1988年 筑波大学卒業
1997年 筑波大学産婦人科講師
2000年 Tufts大学(ボストン)遺伝医学特別研究員
2003年 水戸済生会総合病院主任部長・周産期センター長
(兼任)筑波大学産婦人科臨床助教授
2006年 パークサイド広尾レディスクリニック開院
2011年 現在地に移転


■所属学会
日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児学会、日本生命倫理学会、日本人類遺伝学会、日本遺伝カウンセリング学会、日本プライマリ・ケア連合学会、the American College of Human Genetics (ACHG) 学会、International Society for Prenatal Diagnosis (ISPD) 学会、International Society of Ultrasound in Obstetrics and Gynecology学会、the American Society of Human Genetics (ASHG) 学会


この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。