[クリニックインタビュー] 2014/03/14[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第159回
吉祥寺中医クリニック
長瀬眞彦院長

臨床経験から西洋医学に疑問を抱くように

 もともとは内科でJR東京総合病院、また放射線科の勤務医として母校の順天堂大学医学部附属病院で働いていました。漢方を学びたいと思ったきっかけのひとつは、研修医のときに針刺し事故で急性C型肝炎になってしまったこと。すぐに入院し治療を受けたのですが、薬の副作用が強くて、髪が抜けたり、体力がなくなったり。発熱も続いて、解熱剤を飲みながら勤務したこともあり、もう少し体に優しい治療法がないかと考えるようになりました。
 また、内科医として病棟に勤務していた時にも、西洋医学的な治療に疑問を持つことがありました。例えば、喘息ひとつとっても、発作が起こる要因は人それぞれ。天気が悪くなることで起こる人、冷たい空気に触れて起こる人、女性なら生理のときに起こる人など、個人差があるのに、治療法はステロイド剤の吸入がスタンダードというように、ガイドラインで標準治療が確立されている。そこに違和感を持ち、漢方を学びたいと考えるようになりました。
 中国流の漢方や鍼灸などの治療を主とする「中医学」で有名な、谷美智士先生の書籍に感銘を受け、谷先生が院長をつとめるタニクリニックで中医学を勉強することに。そこで2年間学ぶうちに、今度は鍼灸の勉強もしたくなり、東洋医学と西洋医学を合わせた治療をおこなっている鉄砲洲診療所に5年間勤務。その後、吉祥寺中医クリニックにお誘いいただき、院長をつとめさせていただくことになりました。

中医学ならではのアプローチで患者さんと向き合う

 現在、クリニックでは小さなお子さんからご高齢の方まで、幅広い年齢の患者さんを診ています。関東近郊から静岡、山梨、遠くは北海道や九州からいらっしゃる患者さんもいます。対応する疾患も、アレルギーや腰痛、肩こりなど整形外科系の病気、更年期障害や不妊など婦人科系の病気、がん、精神的な病気など多様で、「ほかの病院で診てもらったけど治らない」という患者さんが多いのが特徴。ですから、とにかく「治したい」「よくしたい」という思いで患者さんと向き合っています。
 中医学と西洋医学では、病気の見方や患者さんへのアプローチの仕方が異なります。例えば、ストレスについて言えば、西洋医学では「ストレス解消を」とストレスを避けることを考えますが、中医学では「ストレスはあるのが当然。あってもいいから、考え方や体を柔軟に変えることで体調がよくなるようにコントロールしよう」と考えます。
 治療においては、病気や悪い部分を局所的に診るのではなく、その人全体を診ます。「この症状があるから、その症状を解消するための薬」ではなく、症状と、舌診や脈診などから「体のこの部分(臓腑)が弱っているから、そこをよくするために作用する薬」を選ぶのです。
 ですから、問診票はとても細かくて、とくに初診のときには時間をかけて問診をおこないます。睡眠や食事などの生活習慣から、仕事、ストレス、環境、体質、「どんな時に症状が悪化するか」ということまで、さまざまなことをお聞きします。中医学では、心と体を分けて考えません。体も心も、生活背景なども含めて「その人すべて」をよく見ることで診断し、治療法を決めていくのです。
 クリニックでは漢方だけでなく鍼灸も取り入れています。また、「五臓六腑で言うところの『肝』が弱っているから、こういうものを食べるといいですよ」「今の季節はこういうものを食べましょう」など、食事や生活のアドバイスをすることもあります。もちろん、西洋医学的な治療が必要な人には、そちらの薬も処方します。患者さんに応じて、西洋医学と中医学をうまくミックスして治療法を選択しています。

経験や医師としての「感覚」も大事

  漢方を用いた治療のいちばんの良い点は、西洋医学では「原因がわからない」「なかなか治らない」という症状を治せる可能性があることと思っています。今日も、3歳の男の子が受診したのですが、その子は不明熱で、あちこちの病院に通っても原因がわかりませんでした。大学病院に入院して検査をしても、何も引っかからない。でも熱が下がらないという状態が3~4カ月続いていました。
 でも、中医学的にみると問題はあったのです。舌診や脈診をし、目の下のクマや表情などを見て、自律神経系の問題や「この臓腑が弱っている」ということがわかり、そこをよくする治療を続けることで少しずつよくなっています。やはり、患者さんが元気にニッコリ笑って帰って行くことに勝る喜びはないですね。
 一方で、なかなかよくならない患者さんもいます。そういう場合はもう一度よく患者さんの全体を診て、薬の種類を変えたり、鍼灸を併用したりと別のアプローチを検討します。
 漢方を用いた治療では、患者さんのつらい症状が解消されること、よくなることが最大の成果。痛い、つらいというのは患者さんの主観なので、客観的指標がない、つまり検査の数値など、よくなったことが目に見えてわかる指標が得にくいことが大変なところと言えます。脈診計のようなものを作った先生もいますし、当院でも気や血液の通り道である経絡の測定器を使っていたこともありますが、時間もかかるし、それよりは患者さんの症状と自分の手や目で触れ、見たほうが早い。学問的な知識はもちろん、技術や経験、感覚も重要だと考えています。

後輩の育成にも力を入れたい

 私はこの仕事が好きで、楽しいと思って日々患者さんと向き合っているので、自分自身がストレスを感じたり、大変だと思うことはあまりありません。それでも、ずっと仕事だけをしていると視野が狭くなってしまう気がするので、自分の好きなことを楽しむ時間も大切にしています。
 趣味はフットサル。学生時代はずっとサッカーを続けていて、今はフットサルを月に1~2回はしています。あとはクラシック音楽を聴くこと、友達と他愛ないことをしゃべり、笑うこと。体を動かすこともそうですが、何より「しゃべって笑うこと」は大事だと思いますね。患者さんにも、よく「自分が好きで熱中できることをしてください」とお話ししています。自律神経のバランスを崩している人などは、自由に自分の好きなことを楽しむ余裕がなかったり、無意識のうちに考えグセがついてしまっている人も多い気がします。また、東洋医学的には、ある感情とある臓腑はつながっていると考えられ、小さなことで思い悩む人は消化器系の症状が起こりやすい、などということがあります。ですから、趣味や遊びなど、好きなことに没頭して楽しい時間を持つことは、体の健康を保つためにも大切だと思いますね。私自身も、時々、仕事とは別のところに身を置いてリフレッシュすることで、また新鮮な気持ちで仕事とも向き合えると思っています。
 仕事については、いつも考えていますが、もっともっと知識も技術も向上させて、より多くの人を治したい。とくに、がんの患者さんの、だるい、疲れやすい、うつ状態になってしまうといったつらい症状を改善することに注力したいと考えています。今も、膀胱がんや尿管がんで、漢方を使いながらうまくがんと共存できている患者さんもいるので、そういう患者さんのQOL(生活の質)向上を目指していきたいですね。
 将来的には、後任を育てたいとも思っています。今も各地で講演をしたり、「吉祥寺漢方研究会」「鍼灸学セミナー」などの勉強会を催したりしているのですが、若い先生方にも興味を持ってもらい、中医学のさらなる普及と向上に貢献していければと考えています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

吉祥寺中医クリニック

医院ホームページ:http://www.h3.dion.ne.jp/~chuui/frame/medical_f.html

「吉祥寺」駅より徒歩3分。駅からすぐなので通いやすく、待合室ではクリニック特製の健康茶のサービスも。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

内科、小児科、皮膚科、リハビリテーション科

長瀬眞彦(ながせ・まひこ)院長略歴
1994年 順天堂大学医学部卒業 JR東京総合病院にて内科研修
1996年 同大学医学部附属順天堂医院放射線科入局
1999年 タニクリニック
2001年 鉄砲洲診療所
2006年 吉祥寺中医クリニック院長就任


■所属・資格他
日本東洋医学会漢方専門医、日本東方医学会中医専門医、日本内科学会、日本胎盤臨床医学会理事長

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