[クリニックインタビュー] 2014/01/10[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第158回
池上レディースクリニック
池上芳美院長

産婦人科医として結婚、出産を経てクリニックを開業


(写真提供:池上レディースクリニック)

 父は内科・小児科クリニックの開業医でしたが、私自身は医師になりたいとか家を継ぐ、という気持ちは当初ありませんでした。しかし、高校生のころ心理学に興味を持ち、なんとなく「心のケアをする仕事ができたらいいな」と考えはじめ、そこから心理学や精神医療を学びたい気持ちが芽生え、医学部に入りました。
 医学部の5年生から臨床実習が始まり、小さなグループで各診療科を回りました。その中で他科はどうだろうと迷っているときに産婦人科の実習に入り、5歳年上の優秀な先生の下で勉強させていただくことになりました。
 その先生は女性でしたが、ふつうの診察も手術もして、もちろん出産で赤ちゃんも取り上げる。バリバリ仕事しながら、合間に家に電話して「お母さん、冷蔵庫にハンバーグ作ってあるから子どもたちに食べさせてね」などと言う姿を見て、「すっごく素敵!」と思ったのです。その先生の姿やそこでの実習がとても印象に残ったことと、もともと女性である自分の“からだ”をよく知りたいという気持ちもあったことから、思い切って産婦人科の世界に飛び込みました。
 卒業後は、大学の関連病院を回って研修と勤務を続け、結婚後はパイロットである夫の転勤のために福岡に6年滞在。その間に出産して2人の子どもに恵まれながら仕事を続け、こちらに戻って、2008年に父のクリニックのあった実家に、女性のための婦人科専門クリニックを開業しました。
 立派な理念などは掲げていませんが、女性がささいなことでも気軽に相談しに来られる、身近なクリニックになれれば、と考えています。実は姉が事務長兼薬剤師として、妹が看護師として近くの病院に勤務していて、姉妹3人医療従事者として働いています。

「ささいな不安」を取り除くことが女性には重要


(写真提供:池上レディースクリニック)

 クリニックには、1日にだいたい80人ぐらいの患者さんがいらっしゃいます。主婦の方、更年期世代の方が多い傾向がありますが、最近は小学生から高校生、妊娠希望の方や閉経後老年期の方など、さまざまな年代の女性がご相談や治療、検診などに来院されます。
 クリニックに来られる患者さんは、みなさん多かれ少なかれ不安を抱えているので、まずはその不安を取り除いて差し上げることを心がけています。私も大学病院に勤務していたことがありますが、そういう大きな病院で見てもらって「たいしたことないよ」のひと言で片付けられてしまったり、理由がわからなかったりすることは多々あります。それで納得できず、あるいは不安をより強くして、クリニックにいらっしゃる患者さんも少なくありません。でも、そういう「たいしたことない」と思われるような、教科書には載っていないようなささいなことが、女性にとっては重要な問題だったりします。
 例えば、生理痛がひどいと感じ診察を受けたのに、大学病院では「筋腫も貧血もないし、手術を希望しないならこのまま様子をみましょう」と言われたり、お産の後の傷がなかなか治らず痛くてつらくても、「ああ、これは大丈夫」で終わってしまうこともあります。でも、医師として、できることはまだたくさんあると思うのです。クリニックでは、「生理痛は、冷えや便秘が原因でひどくなることもあるから解消しましょう」と生活上のアドバイスをしたり、体にやさしい漢方薬を処方することもあります。また、実際に治療をしなくても、「痛いよね。心配だよね。でも、これは病気ではないから大丈夫。痛みが長引いているけど、そのうち必ず治るから」と丁寧に説明するだけで、安心して帰っていただけることもあります。
 自分が女性ということもあると思うのですが、クリニックを作るときも、日々の診療でも、つねに「自分だったら」と考えている気がします。同じ女性として、自分が患者さんだったら、こういうのはイヤだな、とか、これは安心できるな、など。今、私自身もちょうど更年期にさしかかり、昔は感じなかった自分の体の変化を感じたりします。女性には、10代には10代の、30代には30代の、50代には50代の、年代に応じたホルモンのステージがあり、それぞれで心身の状態が変わります。女性の一生を通じて、ライフスタイルに合わせたアドバイスができたらと考えています。

長く続けるために、今は自分と子どもの生活も大切に

  もともと仕事は大好きなので、できればもっと診療時間を長くしたいし、診療の範囲も広げていきたいというのが本音です。今は夕方5時までの診療受付で、日曜や祝日は休みなので。でも、やりたいだけやろうと思ったら、きっと夜も休日もなくなってしまうし、出産も取り扱いたい、子宮筋腫など外科的な手術もしたい、レーザーなどの設備も導入したいと、どんどん広がっていってキリがないと思うのです。実際には私ひとりで、体はひとつしかないし、まだ手のかかる子どももいる。できることには限りがあって、長く働くためには自分や子どもの生活を守ることも大切だと思うので、あえてライン引きして、「今はここまで」と決めて仕事をしています。
 健康を保つためにしていることは、よく食べてよく寝ること。贅沢じゃなくても美味しいと思うものを食べて、しっかり眠る。これは、人が元気でいるためにとても大切なことだと実感しています。ですから、クリニックに来る患者さんにも、必ず「ちゃんと食事してる? 睡眠はとれてる?」と聞くようにしています。
 スポーツが好きなので、開業当時は合気道をしたりスポーツジムに通ったりしたこともありましたが、今は中学2年生と小学6年生の息子たちが野球チームに入っているので、休日はほぼ野球のお手伝い。ですからいつも真っ黒に日焼けしていて、どこかに遊びに行ったのかと思われることもあるようですが、全然遊んでいません(笑)。

女性の年齢やライフスタイルに応じた「かかりつけ医」になりたい

 クリニックは待ち時間を減らすために予約優先制ですが、予約以外の患者さんも受け付けています。目下の悩みは、患者さんの数が増えて待ち時間が長くなっていることです。もう少し待ち時間を短縮して患者さんがかかりやすいクリニックにできる工夫を考えたいのですが、なかなか難しいですね。ひとりひとりにしっかり向き合って、たくさん話を聞いて、話をして治療をしたいけど、そうするとどうしても治療時間が長くなってしまう。長く通っていて、すでにしっかり理解しあえている患者さんの場合は、短い診察時間でもコミュニケーションが取れて、心配なことだけピックアップできるのですが、そういう患者さんばかりではありませんから。今後の課題です。
 また、思春期世代など若い女性に、体や病気について知ってもらうことにも力を入れていきたいと考えています。時々、高校などに健康講話として講演に行くこともありますが、残念なことに、自分のからだのことを知らない子、知ろうとしない子が多く、避妊率の低さや性感染症の多さに危機感を抱いています。外国では、初潮を迎える前から婦人科のかかりつけ医を持ったほうがいいと言われているところもあり、私自身も若い世代にこそ、婦人科のかかりつけ医は必要だと感じています。体や病気のことをきちんと知ることで病気などを防ぐことにもつながりますし、身近な存在としてコミュニケーションできていれば、何か困ったことがあったらすぐに相談してもらえるはず。「病気になったから行く」ではなく、早いうちから身近な存在として相談でき、病気を未然に防ぐサポートができる、そんなかかりつけ医を目指していきたいと思っています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

池上レディースクリニック

医院ホームページ:http://ikegami-lady.com/

東武伊勢崎線「竹ノ塚」駅より見沼代親水公園駅行きバス 入谷舎人循環・新里循環「聖一之橋」下車、徒歩2分。
居心地の良い待合室、洗面台が2つあってゆったり使えるバリアフリートイレなど、女性がリラックスして過ごせる配慮が随所にちりばめられているクリニックです。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

婦人科

池上芳美(いけがみ・よしみ)院長略歴
1989年 日本大学医学部卒業、日本大学医学部産婦人科学教室入局
1990年 山梨県立中央病院
1992年 横須賀市立市民病院
1996年 川口市立医療センター
1997年 社会保険横浜中央病院
1999年 IVF詠田クリニック、愛成会東野産婦人科、福岡中央保健所、非常勤勤務
2008年 池上レディースクリニック開設


■所属・資格他
日本産婦人科学会認定 産婦人科専門医、母体保護法指定医、日本抗加齢学会専門医、日本医師会認定産業医


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