第165回 ひとりひとりそれぞれの「最善」を考える
[クリニックインタビュー] 2014/09/05[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第165回
山下診療所 大塚
山下 巌理事長
プライマリケア医として

小学生のころは宇宙飛行士に憧れたこともありましたが、両親ともに医師という環境で育ったためか、自然と医師を目指すようになりました。とくに父の背中を見て、それを追ったところが大きかったと思います。父は大学の口腔外科に在籍し「医学に位置づけられた歯学。歯学は医学のなかの一部である」が持論で、新しい学問を作ろうと奮闘していたため、自分もそのプロジェクトに参画したいと考え医師を目指すことにしました。
もともとは父と同じ口腔外科医を目指していましたが、まずは一般外科から入ろうと外科、頭頸部外科へ。外科の「自分の力で治せる」ところに惹かれ、修練しながら技を磨き、それが結実する、つまり患者さんを治せることは何事にも代えがたい魅力だと思っていました。
しかしその後、父が亡くなるなどいくつかの転機があり「大学病院でも開業しても、できることには限りがある。自分の今ある環境で何ができるかやってみよう」と思うようになり、母が開業していた当院に勤務するようになりました。
現在では理事長兼院長として、臨床に従事しています。当院は、歯科と医科を併設したクリニックで、大塚と自由が丘に診療所があります。大塚の医科では、1日の患者さんはだいたい80人前後。プライマリケア医として、できることはなんでもしようという気持ちでいるので、風邪や、糖尿病など生活習慣病の治療から耳鼻科的な処置、がんの早期診断、乳幼児の病気の治療や予防接種など、さまざまな病気や症状に対応しています。大学院では免疫学を学んでいたため、アレルギーの減感作療法にも取り組んでいます。
駅前ということでサラリーマンなど働き盛りの年齢の方が多いですが、お子さんからご高齢の方まで幅広い年齢の患者さんが来院されます。不思議なことに、0歳の赤ちゃんに好かれるようで「微笑みの交流」ができると自負しています(笑)。予防接種で泣かずに終わるとうれしいですし、お母さんも安心してくださいます。どうしてでしょう、自分でもよくわかりませんが、かわいいと思う気持ちが伝わるのかもしれませんね。
どこまで「患者さんの立場に立てるか」が勝負

私自身は、患者さんひとりひとりに合う最善の治療とは何か、ということを真剣に考えていく必要があると思っています。例えば、末期がんでも「積極的に治療をしたい」「自分は闘う」と思う方にはそのための精一杯の援助をしますし、「静かに過ごしたい」という方にはそのための方法を検討したい。どちらか決めかねている方には、自分なりの人生観も含めて、じっくりと話をする中で一緒に選んでいければと考えています。
まずは患者さんが何をいちばん望んでいるか、病気はもちろんのこと、これまでの人生や性格、考え方、環境などさまざまなバックグラウンドも含めてしっかり向き合い、知ること、話をすることです。それをせずに、ただ自分の考える治療を患者さんに押し付けるだけでは、医療のプロフェッショナルとは言えないと思うのです。
患者さんと接していて、一見、すごくわがままだなと感じることがあっても「待てよ」と考える。自分がもしその患者さんの立場だったら、イライラしたり、そういう主張をしたくなることも百歩譲ればあるのではないか。それなら百歩譲ってみようと思いますし、何歩譲れるか、どこまで相手の立場に寄り添って立つことができるか、言い換えれば私自身のエゴをどこまで排除できるか。そういう試行錯誤を繰り返す中で、最初は気難しかった方が、ニコニコ笑ってくださるようになったりすると、とてもうれしいし励みになります。それがこの仕事の醍醐味といえるかもしれません。
患者さんの症状や体質などによって漢方薬を併用することも

当院では、西洋医学と漢方医学を併用した治療もおこなっています。以前、医師会が催した漢方の勉強会で、その道では有名な青山稲木クリニックの稲木一元先生の話を聞きました。私たちが学んできた西洋医学の常識をベースにした上で漢方薬を上手に使う姿勢に、「これはいいのではないか」と思い、先生のクリニックに勉強させてもらいに行きました。
漢方薬を取り入れることで、対応できる症状や状況が広がりました。例えば、女性の更年期障害でほてりがひどい、だるいなどの症状がみられた場合、西洋医学では、婦人科や皮膚科への受診をお願いすることになります。しかし、漢方薬を用いることで患者さんが他の病院を受診する負担を減らすことができますし、正しく使えば効果も実感できて患者さんに喜んでいただけます。今では当院の治療に漢方薬は欠かせないものとなっています。
風邪でも、ウイルス性の風邪では抗生物質は効きませんし、すべての患者さんに症状をやわらげる複合感冒薬とうがい薬を処方すればいいとは思いません。風邪のひきはじめか、かなり悪化しているかなどの状況に加え、患者さんの症状や体質などをみて、漢方薬をファーストチョイスすることも多くあります。
「西洋医学ではどうにもならない部分に漢方を使う」というだけではなく、西洋医学的な診断をして、西洋医学で使える薬があっても、その患者さんの症状や体質には漢方の方がいいのではないかと判断して使うこともあります。風邪や婦人科の病気、胃炎、頭痛、便秘、低血圧、膝の痛みなど、さまざまな病気に漢方を用いた治療をおこなっています。
医療でもプライベートでも「新し物好き」でいたい
忙しい毎日ですが、いちばんリラックスできる時間は家で家族と過ごしているときですね。ただ、休みの日に家でゆっくりするというのは苦手で、予定もなくダラダラしてしまうと、せっかく1週間がんばって仕事をしたのに、大事な休日が無為に過ぎていくのか、となんとも残念な気持ちになります。休みの日は出かける予定などを入れて、1日充実させたいですね。最近では、改修工事に入る国立競技場の最後の日のイベントに、たまたま当日券がとれて行ってきました。新しくできたスポットとか、話題のスポットにも興味があり、早く行ってみたいタイプですね。スカイツリーができた時も、翌日に行ってソラマチなどを見て回ってきました。
医療においても、常に新しい情報や知識を取り入れたいと考えていますし、新しい医療のかたちを作り出したいという目標もあります。当院は、歯科と医科を併設した診療所ですが、どちらかに依存した形態にはしたくありません。将来的には、医科と歯科の両面から診るクリニックだからこそできる医療を作り出していきたいと考えています。
法律の世界にリーガルマインドがあるように、医療の世界にはメディカルマインドというものがあります。ただし、医科と歯科では教育環境が異なるため、メディカルマインドも異なります。料理の世界では、「和と洋」「中華とフレンチ」など、異なる領域の料理を融合させ、別の新しい形の料理として食べる者を楽しませることができますよね。それと同じように、医科と歯科のマインド、双方のいいところを共有し、当院でしかできないような医療を提供できるようになること。それが今後の目標です。
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。
医療法人社団宝山会 山下診療所 大塚
医院ホームページ:http://hozankai.com/ootuka-ika/

JR山手線「大塚」駅北口、都電荒川線「大塚駅前」駅北口より徒歩0分。駅のすぐ隣なので通院に便利です。ゆったり座れるソファが置かれた明るい待合室で、待ち時間もリラックスして過ごすことができます。
詳しくは、医院ホームページから。
診療科目
内科、耳鼻咽喉科、小児科、アレルギー科、歯科、歯科口腔外科、小児歯科、矯正歯科
山下巖(やました・いわお)理事長略歴

1990年 東京専売病院麻酔科、山下診療所勤務
1993年 東京大学大学院修了・医学博士 癌研究会附属病院頭頸科
2008年 山下診療所 理事長に就任
■所属・資格他
日本プライマリケア連合学会認定医・指導医、日本東洋医学会認定漢方専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、臨床研修指導医、日本耳鼻咽喉科学会、日本アレルギー学会、日本免疫学会、日本口腔科学会、日本歯周病学会、日本口腔インプラント学会等
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