会員限定この記事を読むと10pt 進呈!!

新規会員登録(無料) ログイン

[医療人] 2014/08/01[金]

いいね!つぶやく はてなブックマーク

大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第164回
医療法人社団中島医院
中島美知子院長

がんの痛みに苦しむ人との出会いが人生を変えた

 父が皮膚の病気を抱えており、その病気について研究し、治したいという気持ちから医師を目指しました。皮膚科医への道を進むことに迷いはなかったのですが、国家試験も無事合格し研修先も決まった時になって、ふと「待てよ」と考えたのです。この先もし、電車や町中などで急病人と遭遇し「どなたかお医者様はいらっしゃいませんか」と言われたとき、自分は皮膚科医だから診られません」でいいのだろうか、と。そのため救急医療を学ぶつもりで内科研修に入り、そのまますっかり居ついてしまいました。その理由は、がん末期の患者さんを診るようになったことでした。
 当時はまだ、「緩和ケア」などという概念もない時代。痛みはがんの症状のひとつだから我慢するしかないという考えが普通で、痛みに対する治療やケアはまったくといっていいほどありませんでした。そのため、末期がんの患者さんはみな激痛に耐えるしかなく、その様子は本当に悲惨なものでした。
 研修医2年目の時、23歳の若い女性患者さんの担当になったのですが、彼女は脳腫瘍で顔面の激痛がひどく、診察のために部屋に入ると「助けて」と私の白衣をつかんで離してくれないような状態でした。痛み止めもあるにはありましたが、1日2~3回しか使うことができず、1本注射をして少し楽になっても2~3時間ですぐ痛みがぶり返してしまうのです。そばで見ていてもつらくて、彼女の病室に入る前には、「今日はどう言葉をかけて、どう対応しようか」と、ドアの前で考えこむこともありました。
 そんな時、麻酔科の研修で習った神経をブロックする手術を思い出し、麻酔科の先生にその手術をしてくださいと頼みに行きました。前例もなく、非常に難しい手術でしたがやってみようということになり、見事成功。それまでの激痛がウソのように完全に消えたのです!その後、痛みのために受けられなかった放射線治療を受けられるようになり、寛解しました。
 後日、彼女が明るい笑顔で病棟へ挨拶に来てくださった時の、医師としての幸せな気持ちは筆舌に尽くしがたいものでした。その経験が、今の私の医療の原点となっています。痛みの治療がいかに大切かということが私の心に焼き付いたのです。

最初の往診で痛みをとる、という決意

 内科医時代に、国内で始めて、ブロンプトンカクテルという経口モルヒネを定期的に末期がんの痛みに使う処方を確立し、学会で発表しました。1978年のことです。日本で「がんの痛みはこわくない」という時代の先陣を切れたのではないかと自負しています。ただ私自身はその後、さらに痛みの治療についての研究を深めたいとアメリカ合衆国に留学しました。帰国後、「入院型」ホスピスでの医療に5~6年携わりましたが、在宅医療を求める患者さんたちの思いを実感し、公私ともに人生のパートナーである夫、中島修平牧師・神学博士とともに、日本初の「在宅型」のホスピスを中心とした、今日でいう在宅療養支援診療所を開設しました。1995年でした。
 中島医院は、医師の往診と訪問看護などによる在宅医療を24時間提供する診療所ですが、週に4日、午前中だけ外来診療もしています。それ以外の日は往診で飛び回っています。在宅総合医療、在宅ホスピスを利用されている患者さんも、がんや認知症、糖尿病や高血圧、心筋梗塞、呼吸器の病気、脳の病気などさまざまで、筋委縮性側索硬化症(ALS)など難病の方もいらっしゃいます。
 診察のとき、患者さんにはまず「今いちばん何がつらいですか?」と聞きます。多くの方は痛みがつらい、息が苦しいといった体のことをおっしゃいます。ですから、まずはその苦痛を取り除く治療をおこないます。「最初の往診で決める」をモットーに、1回目の治療で痛みや苦しさを緩和することを目指しています。そうすると、患者さんとの信頼関係が深まるのです。
 まずは体のつらさを取り、次にアプローチするのが心のケア。やはり、末期がんの患者さんはみなさん「これから自分はどうなってしまうのだろう」などの不安を抱えます。それは当然のことですよね。もちろん私も看護師もお話を聞きますが、そちらは専門家である牧師先生がしっかりフォローしてくれます。
 あるがん患者さんは、ありとあらゆる治療をし「もうここまでだ。これ以上何をしても効果はない」と悟り、「もう治す治療は一切しなくていい。苦痛を緩和する治療だけで、あとは薬も飲みたくない。ただ牧師様と話がしたい」とおっしゃいました。中島牧師と話をして心の準備ができたようで、お孫さんの弾くピアノに合わせて家族が歌う讃美歌を聞きながら、家族全員に看取られて亡くなりました。患者さんご本人が非常に穏やかだったので、幼いお孫さんたちも死というものを怖がっていなくて、不謹慎な意味ではなく、本当に明るいお別れのときでした。体と心の痛みを取り除くことで、ご本人もご家族もこんなにも安心して人間らしく、幸せな時間を過ごせるのですね。
 もちろん患者さんご本人だけでなく、そばでいつも患者さんを支えるご家族のケアも忘れてはいけません。末期がんであっても、体と心の苦痛が緩和されると患者さんは本当に安心し、穏やかに過ごすことができるようになります。そして、患者さんが安定するとご家族も安心し、最後まで患者さんを看取りきることができるのです。
 体の苦痛は主として私や看護師が、心の不安は主に牧師・医療カウンセラーが受け持ちのようになっていますが、患者さんとご家族を支えきるためにはチーム医療が必須です。週に何度も患者さん宅を訪問し、きめ細やかにケアを続ける看護師や薬の説明に訪問もする薬剤師、外来や当直を分担してくれる医師の先生方、検査技師や介護スタッフなど、中島医院としての「チーム」が一丸となって患者さんとご家族のケアとサポートにあたっています。

患者さんとご家族、スタッフたちとの交流が癒し

 この仕事は、1年365日1日24時間、患者さんにいつどんな変化が起こるかわかりませんから、常に気が抜けないといえます。でも続けていられるのは患者さんやご家族、スタッフや牧師との心の交流ができているからだと思います。
 日曜日の午前中にはチャペルで礼拝があり、スタッフや患者さん、ご家族も参加されます。そこで説教を聞いたり讃美歌を歌ったりして、その後は皆さん持ち寄りでの食事会に突入。そこでみなさんと話をすることがとても楽しいのです。教会では季節ごとに音楽会などもおこなっていて、医院のスタッフやボランティアが聖歌隊となって讃美歌を歌ったり、さまざまな音楽家を招いてみんなで音楽を楽しんだりします。もちろん、私も歌います。
 やはり、楽しみや喜びというものは大切で、それがないと身近にある深刻な病気や死に蝕まれてしまいそうになります。音楽やおしゃべりを楽しんだり、苦痛から解放された患者さんの顔が明るく変わったりすると、ご家族も患者さんもみんなうれしい。そのうれしい顔を見ると、疲れなんて吹き飛んでしまうのです。
 教会のイベントにはたくさんの患者さんやご家族が集まります。10年以上参加し続けてくださっているご遺族もいますし、以前は看取った側のご家族が今度は患者さんとして来てくださることも。おつきあいが長くなると、もう「患者さん」というよりは自分たちの親戚とか家族のような気持ちになるんですよね。そういう大切な人たちのためにと思ってしてきたことで、逆に自分たちが癒されていると実感しています。クリスマスの季節、ご希望の在宅患者さん宅を讃美歌を歌ってぐるぐる回る際、ボランティアのご婦人が詠みました。「キャロリング 癒すつもりが 癒されて」。
 これからもずっと、患者さんとご家族に寄り添う医療を続けていくつもりですが、そのためには後進の育成も重要と考えています。現在も各医療機関から研修医を受け入れていますが、昨年、プライマリ・ケア連合学会の認定指導医の資格を取得したので、今後は医院オリジナルの総合診療(家庭医)専門医育成プログラムも立ち上げ、私たちの後に続く総合診療医を育てることにも注力していきたいと考えています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

医療法人社団ホスピティウム聖十字会 中島医院

医院ホームページ:http://www.hospice-nakajima.com/index.html

西武池袋線・有楽町線・副都心線「清瀬」駅から徒歩1分。北口ロータリーの一角。
建物を入ったらエレベーターで3階に上がると受付があります。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

内科、呼吸器科、心療内科、糖尿病科、アレルギー科、リハビリテーション科、緩和ケア内科

中島美知子(なかじま・みちこ)院長略歴
1973年 国立信州大学医学部卒業、国立名古屋大学医学部にて研修、同内科所属
1976年 現・独立行政法人国立病院機構東京病院内科医師、経口モルヒネ「ブロンプトンカクテル」導入
1981年 米国・南カリフォルニア大学医学部、ニューホープ疼痛総合研究所に留学
1989年 救世軍清瀬病院ホスピス長就任
1995年 医療法人社団ホスピティウム聖十字会中島医院開設、院長、理事長


■所属・資格他
日本内科学会認定内科医、東京都ターミナルケア検討委員、国際疼痛学会、プライマリ・ケア連合学会認定指導医


記事を読んでポイント獲得!

10pt 進呈!!

この記事を読んで
簡単なアンケートに回答すると、
"Amazonギフト券に交換できる"
QLifeポイントを獲得できます!

おすすめの記事

この記事を読んだ人は他にこんな記事も読んでいます。
記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。