第171回 タマネギの皮をむくように自分も涙しながら、症状を改善していく
[クリニックインタビュー] 2014/12/12[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第171回
成田記念病院 麻酔科・ペインクリニック内科
大沼哲朗部長
苦しんでいる人を助けたいという思いから医療の道へ

父親がサラリーマンで、サラリーマンの生活を見ていて大変そうだなと思っていました。中学くらいの時に父親が狭心症で倒れたのですが、苦しんでいるのに自分は何も出来ませんでした。家庭の医学のような本を見て、症状について調べました。でも何も出来なくて、なんとかしたいと思ったのが医師を目指したきっかけです。
目の前で倒れた人をなんとかしたいと思ったんです。だから救急医になろうと。当時、救急科や救急部がある大学は少なくて、各科でやっていました。うちの大学にもまだ無かったので、一番近い麻酔科を選びました。
大学に進んで、研修医の時は麻酔が専門でした。麻酔一筋に一生懸命やって、麻酔科の医師になって、ペインクリニックを合わせてやるうちに漢方を始めて今に至ります。
最初はやっぱりいろんな科の手術が見られますし、いいかなと思っていたんですが、救急からは少しずつ離れていきました。今は急性期より慢性期の患者さんの方にいっています。
カウンセリングを通じて患者さんと真摯に向き合う

ペインクリニックは、もともと麻酔科の先生がやり始めたところがあって、僕も大学で少し学びました。いわゆる麻酔と両方やるというのが主流で、麻酔の先生がそれぞれ週1回程度担当して、好きな先生は一生懸命やっているし、そうでもない先生は適当にやってという感じで、当時はまだあまり分かれていませんでした。最近はペインクリニックで専門の科として成り立っているところもありますが、まだ麻酔科とペインクリニックを両方やっているところもたくさんあるのではないでしょうか。
患者さんの訴えでは不眠が多いです。痛みには必ず付随してくると言ってもいいでしょう。痛くて眠れない人もいれば、痛みが続くことによって不安で眠れないとか、いろいろな症状があります。
やはり痛いから何もする気がしない、気分が落ち込んでくるという、抑うつというのもあります。痛みがあると、それだけでどんどん憂うつになってきます。こじれた中でこちらが関与することで、どんどん精神的にも肉体の痛みに関しても、軽くなっていくのを見るのが嬉しいです。少しずつ玉ねぎをむくかのように、こちらも涙しながら、少しずつです。
半分以上は心療内科かなというぐらいのつもりでやっています。内科でも整形外科でも時間がなく、診察する時間が短いから、じっくり話を聞けません。症状だけ聞いて、その科に当てはまらないものは除外していくぐらいです。そこで相手をしていると、1人あたりの時間を取られてしまって・・・だから難しいです。カウンセリング的な側面もあるので、時間がかかってしまいます。
カウンセリングの勉強会にはしょっちゅう行っています。自分で本を読んだり、学会レベルの内容とそんなに外れていないかなという範囲を確認しながらやっています。
僕はマラソンをやるんですが、しかも普通のマラソンではなくて100kmマラソンです。とにかく精神的に自分を追い込みます。痛いとか苦しいのが続いた時に、人間はどういうふうに反応するのか、そこでどういうふうにしたら楽になるのかを、いろいろ考えながら100km走ります。途中で本当に体も心も辛くて止めたくなったとき、どういうふうに考えれば楽になるか、自分がどうすることによって痛みが減らせるか、考えながら走り続けることで、精神的に修行しているところもあります。苦しい体験をたくさんして、気持ちも共感できるという立場になるのが大事なのかなと思っているんです。
目標のために一日一日を積み重ねていく

休みの日は研究会や勉強をすることが多いです。あとは体力づくりに走りに行ったりします。気分転換は走ることと、音楽が好きなので、ちょこちょことやっています。バンドでドラムをやっていて、それがストレス発散になっています。ジャンルとしてはロックですかね、ボーカルの好みでミスチルをやることもあります。年に一回だけライブをやるので、それに向けて練習する感じです。
体力的に余裕を作るために普段からトレーニングしています。仕事終わってダラっとしてしまうと、またすぐ次の日が来て、だんだん余裕がなくなってきてしまいます。1日30分ぐらいずつでも走っていると体力は付きますから、仕事の後の時間が有意義に使えるんです。
仕事については、もっと勉強して技術を身につけ、80歳になった時に漢方の名人になるというか、名医になっていたいと思います。それくらい漢方は奥が深い。そしてその時に開業したいなと。普通は50歳でも開業するのに遅いくらいですが、利益はまったく考えずにやりたいんです。
もう一つは、80歳でも100km走るというのが夢です。年を取って調子が悪くなるのは若い時みたいに働いてないから「動き」が減るからなんです。動いていればみんな元気なんです。ランナーの仲間でも、70歳の人が僕より早かったりするんです。年だから無理しちゃいけないとか、自分でいろいろ勝手に決めて、動きに制限をつけてしまうんです。だから当然機能として落ちてきます。年の衰えによって弱ってくる部分もあるけれども、動きを維持していれば、充分保てます。
だけどそれには目標がないと、やっぱり無理です。健康のためにとやっていると、どんどん機能も落ちていってしまいます。ある程度レベルを保つために、僕の場合は「80歳で100km走る」と目標を立てました。三浦さんみたいに80歳でエベレストみたいな、目標があるから維持できる。それを持っていれば大概の人は動きを維持できると思います。それがあるか無いかだけの違いだと思っています。もちろんそこまで生きなくちゃいけないから、現実にできるかどうかはわからないです。ですが、目標として、夢としてはあります。そのためには、一生懸命1日1日を積み重ねていかないと達成できない。だからこそ今を大事にしています。
ライター・翻訳・脚本制作・構成作家。ジャンルを問わず紙媒体からWebまで、文字のあるところなら何処へでも、呼ばれて出向いて活動中。兼業ライター時代に培ったリサーチ力とフットワークの軽さを活かして、取材と執筆を行う。
成田記念病院
医院ホームページ:http://www.meiyokai.or.jp/narita/sp/20subject-2

診療科目
麻酔科、ペインクリニック内科
大沼哲朗(おおぬま・てつろう)麻酔科部長略歴

1994年 浜松医科大学大学院卒業
■所属・資格他
医学博士、日本麻酔科学会指導医・専門医
日本東洋医学会認定医、AHA BLS インストラクター
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