[クリニックインタビュー] 2014/12/05[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第170回
山下司内科クリニック
山下 司院長

「社会や人に貢献したい」という思いから医師へ

 医師になろうと思った理由はありきたりですが、人を支えたり助ける仕事をやりたい、そして、そういうことに直接携わる仕事は魅力的だ、と思ったからです。それが思いのなかで大きな部分を占めていました。あとは、もともと生物学的なことに興味があったので、そういった面からも医師という仕事が1つの魅力ある仕事と感じました。はっきり医師になろうと思ったのは、高校生からでしょうか。高校生ぐらいの頃はいろんなことを考えますから。

一人ひとりと膝を突き合わせた医療を実践したい

 開業前はもちろん勤務医だったわけですけれど、勤務医には勤務医なりのいろんな魅力があります。その頃は、重症患者や急患などの診療にたくさん携わっていました。しかし、勤務医というのは、なかなか長く同じ病院に勤めることがありません。転勤があったり、同じ人をずっと診るといっても時間が限られていたり。どちらかというと重症患者を中心に診るような感じになります。ですから一人ひとりと膝を突き合わせて長く診たくても、それができません。私は学生の頃から、患者を長い時間軸で見た、膝を突き合わせた医療、さらには予防医学的なことまで広げた診療をやりたいと思っていました。予防の対極にあるのが救命救急です。確かにそれは非常に大事なのですが、そこに至るまでに、いろんな過程を経ているわけです。ならば、ずっと前までさかのぼって、その時点から予防的な事柄を考えていれば、その人は今よりもいい健康状態を保てたのではないか、そういう発想が学生のときからありました。ですから長く患者さんと関われる開業医のほうがいいんじゃないかと思ったのです。

「ドクターG」になりたくて

 開業してからは、日本内科学会認定総合内科専門医という資格を取りました。これは、内科一般を総合的、全人的に診る、『木を見て森を見ず』ということにならない医療を意味します。もともと私は糖尿病が専門ですが、基本的に開業医というのはどんな病気も診ます。この病気は診るけれども、こっちは無理とは言えません。それに1人の人がいろんな病気を持っていることもあります。ですから、さまざまな角度から全身診られるというのが、まず基本です。もちろん糖尿病疾患を一番多く診ていますが、プライマリーケアが開業医の基本と考えています。
 医療人としてのポリシーは、患者さんに信頼される、かかりつけ医になること。共に同じ方向を向き、同じ目線で、共に考えていける医療であり、パートナー、サポーターとしての役割をもつことを大切にしています。
 他にも、最新の医学知識をもって対処、かつ個性を重視したオーダーメイド医療をしたいと考えています。そのうえで、患者さんに対してはすべて情報を公開しています。また情報管理の質の向上、効率化を目指して、診療情報の電子化(デジタル化)を推進しています。

ありきたりの指導はしない


デジタルX線読み込み装置(クリニック提供画像)

 糖尿病の患者さんを多く診ていますが、オフィス街にあるクリニックなので、サラリーマンや近所で働くOLさんの方などが多く来院します。ただ、きちんと食事、運動療法ができて、簡単に病気をコントロールできる人というのは、そんなに多くありません。それに、時間もない方が多いので、短時間でできるだけポイントをついて指導しなければなりません。ポイントを探り当てるのも大切です。患者さんの状態を否定せず、社会的あるいは、心理的背景などを探っていき、できない理由のポイントを見つけ出すようにします。そうすると、この方は夜勤が多くて、生活リズムが無くなっているのが原因だとか、何かの精神的ストレスによって悪化しているのだなどという理由がわかってきます。そうであれば、あまり無理なことは言わず、「間食だけやめて、あとは今まで通りいいですよ」などと話し、何もかも止めるようには言いません。来られるたびに、ワンポイントずつ、可能な範囲でできるように励ましています。
 だから、皆さん同じように指導できないんですよね。これはなかなか簡単そうで難しいことです。しかし自分で言うのもなんですが、経験がものを言うので、そういう部分の自負はあります。これは、糖尿病だけではなく、生活習慣病全般に当てはまると思います。糖尿病は若年化していますし、実際には病院に来ない人や病気だとわかっていても全く放置している人もたくさんいます。また、病院にかかってもすぐドロップアウトしてしまう方もいらっしゃいます。それは大きな社会問題です。そういう人にどうやって受診してもらい治療を続けてもらうかは指導の仕方にもよると思います。私は、誰が来ても同じことを言う、いわゆるありきたりの指導はしません。メンタルの部分も大きいですし、それが膝を突き合わせた医療になると思うんです。もちろん、明らかに精神疾患がみられる場合には、心療内科や精神科も受診してもらいますが、通常のストレス反応が強いような場合は、心療内科的要素まで含めて治療していきたいと思っています。
 また、当院では2年前から電子カルテを採用しています。カルテをパソコンで一緒に見てもらいながら、処方箋の内容や血液検査、レントゲンなどのデータを一つひとつ説明し、把握してもらいます。「以前はどうだった」とか、「初診時のデータと比べてみましょう」とか。そうすると、説得力がありますよね。まさに、『百聞は一見にしかず』です。患者さんのモチベーションも変わってきます。特に自覚のない病気に関しては、データをしっかり見せないとわからないことも多いため、ヘモグロビンA1Cの値とか、体重とかもグラフを見せて、印刷して渡しています。とにかく見せる、ビジュアル化したものを渡す、そして説得力を上げるというのが非常に有効です。勤務医なら、十何年間もフォローアップしてどうなるのかというのはなかなか診られないですけど、そんな人をたくさん診ていると、今までわからなかったこともわかるようになります。これはクリニックならではの醍醐味だと思います。

同じことをしていてもレベルが下がるだけ。変えることを恐れない


X線発生装置(クリニック提供写真)

 今後もマンネリ化しないように、前向きにテンションを上げておくようにしたいと思っています。同じことだけをしていると、自然にレベルが下がってしまいます。だから、常に新しいものを意識して取り入れてやらないとダメだと思うんです。開業医は1人でやっているので、誰も何も言いません。自分の積極性が無くなったら、レベルは下がってしまう可能性があります。ですから、保守的にならないように、次々と変えていくのを恐れないようにしないといけません。もちろん医療は保守的なものです。とんでもない治療をしたら、患者さんは困ります。しかし、システムか方法などには常に前向きでないと後退します。常に新しい治療、最新の治療ができることは大事なことです。新薬も、きちんと使いこなせるようにならないといけません。そういう知識も得ておかないといけないと思います。
 さらに、再生医療などはだいぶ先のことのようにも思えますが、そういった最先端医療も、そう遠くない将来にクリニックレベルで何か関与できる時代が来るかもしれません。比較的若い人に対しては、最先端医療に関与できる部分があればいいなという感じです。また、高齢化も進むので、高齢の患者さんのケアや介護なども大事になってくるでしょう。うちは高齢の患者さんも多いため、超高齢者に対しては終末期を意識した対応も大切だと思っています。

休日はできるだけ運動を

 私自身も日頃ずっと診察で座っているので、どうしても運動不足になりがちです。ですから、できるだけ身体を動かさないといけないと思っています。休日は自宅近くに小さな山があるので、できるだけ近所の山を散策したり、昔から写真を撮るのが好きなので、歩いて写真を撮りに行ったりしています。

取材・文/後藤 玲(Rei Goto)
医療系を中心にWEB、紙媒体で執筆。健康、料理、お菓子作りなど生活全般における執筆も得意とする。病院取材の他、一般企業への取材活動も行っている。

山下司内科クリニック

医院ホームページ:http://www.yt-clinic.jp/

博多駅近くのビル1Fにあるため、通いやすいロケーション。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

総合内科

山下 司(やました・つかさ)院長略歴
1979年3月 福岡県立筑紫丘高校卒業
1985年3月 産業医科大学医学部卒業
1985年5月 九州大学医学部第3内科入局
1985年6月 国立小倉病院内科
1986年6月 九州大学医学部付属病院
1987年4月 福岡県立嘉穂病院内科
1988年4月 九州大学医学部第3内科
1989年4月 北九州医療センター内科糖尿病センター
1990年4月 九州大学医学部第3内科
1992年4月 済生会福岡総合病院内科
1997年4月 同上内科部長
1998年1月~現在 山下司内科クリニック院長

■所属・資格他
医学博士、日本内科学会認定総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本糖尿病協会療養指導医
日本内科学会、日本糖尿病学会、日本臨床内科医会


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