[クリニックインタビュー] 2015/04/10[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第178回
やまもと眼科
山本純院長

父の背中を見て「患者さんの生活に密着した」医師に

 医師になったのは、開業医だった父の影響が多大にあると思います。父は田舎の開業医でしたが、その診療スタイルは患者さんの生活に密着したものでした。往診にも気軽に応じていて、私も高校生のときに一緒についていったことがあります。その時に「あそこのおじいさんはこんな食事が好きなんだよ」とか「あの人は麻雀やってるよ」とか、患者さん一人ひとりの生活背景までしっかり把握し、文字通り「肌と肌がふれあうような」医療を実践していました。
 幼いころからそんな父の仕事ぶりを見ていて、いつしか自分も自然に医師を目指していました。今でも父への尊敬の念が強く、自分自身も、いわゆる外科系でバリバリ仕事をこなすブラックジャックのようなタイプではなく、地域密着型の医療というコンセプトでやっています。
 眼科医になったのは、もともとは目の構造や学問的な関心からだったのですが、神経眼科や緑内障などを専門に学び、目から全身の状態にまで視野が広がったことで、さまざまな病気を見つけることにやりがいを感じています。

まずは「人」を見て、それから「目」を診る

 2005年に開業して10年。駅前のショッピングモールの中のクリニックということもあり、赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年齢の患者さんが来院されます。町の開業医として、すべての年齢の患者さんに向き合っていこうという気持ちでやっています。
 お世話になった恩師の言葉で私がもっとも好きなのが、「病気を見ずして患者を見よ」というもの。患者さんと向き合うときは、最初に患者さんの表情や顔色など、その人の全体を見て、何を求めているのかを見る。それから目の診察に入っていくようにしています。患者さんは、何かを期待して診察に来ます。でも、患者さんの期待と、医師の提供できるものがかけ離れていることもあります。その場合に、診断から治療に至る経緯を説明するなど十分なコミュニケーションがとれていないと、患者さんが不満を残したまま帰っていくことになってしまいます。
 ですから、まずは患者さんに話をしてもらうこと、情報を引き出すことを一番に考えます。例えば、「父が緑内障で」とか「最近こんなことが気になって」などという、ちょっとした会話の中の一言に重要な情報が隠れていることもあるので、それを逃さないようにします。そして、患者さんが何に困って、何を望んでいるのかを理解した上で、そこをゴールにして治療の筋道を立て、的確なアドバイスをするのが医師の役割だと考えています。

医師という仕事は悩むことの連続

 実は、目から得られる全身の情報は数多くあるんです。
 開業したばかりのころ、「眼鏡を作りたい」と受診した30代の女性がいました。でも患者さんの顔をパッと見たときに、なんとなく良くない感じがしたのです。話をするうち、「最近耳の下が腫れている気がする」と言い、紹介した病院で検査をしたら悪性リンパ腫が見つかりました。目だけを見ていたらわからなかったかもしれません。その時その患者さんの顔を見て、全身を見ることができたから、見つけられた。そのスタンスですべての患者さんと向き合っていきたいと考えています。
 この仕事は常に勉強が必要で、いつも「これでいいのか」「本当にあの治療でよかったのか」と悩んでいることの方が多いです。医療にはゴールがなく、数学や物理のように決まった回答もない。だから悩みの連続で、医師って悩む仕事なんじゃないかと思います。そういう時は、もう一度頭の中でフィードバックして、「いくつかある方法論の中で正しいと思う1つを選択できた」と自分を納得させて先に進むしかありません。診断や治療が正しいというのは当たり前で、その上で、医療として、その患者さんにとって最良だったかを振り返る。最良の医療というのは患者さん一人ひとり違うので、「診断、治療、悩む、フィードバック、納得」を積み重ねていくしかないのだろうというのが、20年以上この仕事を続けてきて得た結論です。

介護における眼科医の役割を考える

 クリニックは年中無休なのですが、週に2回ぐらいは交代の先生に来てもらっています。医師会や学校医、介護施設への往診など、クリニック以外の仕事もいろいろやらせていただいていますが、時間を見つけて「外国語の勉強」という趣味も続けています。
 これまでに習得したのは英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語。語学を学ぶことの魅力は、それぞれの国で異なる文化や考え方を、言葉を学ぶことで知ることができること。教育方針もみんな違って、例えば英語なら「とにかくしゃべってコミュニケーションとっていきましょう」というスタイルですし、ドイツ語だと「テーマを決めてディスカッションしましょう」となる。フランス語は「文化もちゃんと知っていきましょう」というスタンスで、イタリア語は「しゃべることそのものを楽しみましょう」という感じです。言葉がある程度自由に話せるようになると、新しい文化背景と一緒に、新しい自分を1つ獲得できるようで、考え方も多角的になるのが楽しいですね。今後、習いたいのはポルトガル語とロシア語。ポルトガル語は高校のときに少し勉強したのですが、独特の鼻母音が真似できなくて挫折、ロシア語も文法が難しくてちょっと躊躇しているのですが、いずれはものにしたいです。
 仕事では、眼科医として介護にどう関われるかということに、今とても関心があります。西東京市の介護認定審査会の長をしており、月に一度程度、グループホームへの往診もおこなっているのですが、高齢になるほど目の病気は増えてきます。でも、認知症の患者さんなどは、どうしても目の治療は後回しになってしまい、緑内障や白内障があっても、放置されていることも。その結果、目が見えなくなったりすると、それがまた認知症の症状を進めてしまうことにもなりかねないので、眼科医としての立場で役に立てればと考えています。認知症の症状や、体の不自由なところなども含めて、その人をトータルに見ながら目を診るという私ならではのやり方で、介護事業にも貢献していきたいと考えています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

やまもと眼科

医院ホームページ:http://www.yamamoto-eyeclinic.com/index.html

西武新宿線「田無」駅から徒歩1分。
駅前のショッピングモール「ASTA」3階にあり、年中無休で診療をおこなっています(ASTA休館日を除く)。
詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

眼科

山本純(やまもと・じゅん)院長略歴
1989年 杏林大学医学部医学科卒業、徳洲会病院、亀田総合病院等で研修
2005年 やまもと眼科開設


■所属・資格他
日本眼科医会会員、日本眼科学会会員、日本神経眼科学会会員、西東京市介護認定審査会委員、ボトックス認定証、介護支援専門員登録証


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