第33回 「パーフェクト・ホーム・ドクター」という理想像
[クリニックインタビュー] 2009/09/11[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第33回
用賀アーバンクリニック
野間口聡院長
「パーフェクト・ホーム・ドクター」という理想像
「いったいどうしたら、患者さんにとって良い医療サービスを実現できるのか。」10年ちょっと前に、ビジネスに興味のある医師達と医療を志すビジネスマン達で、そんな議論を重ねたことがありました。その時にできた「理想の医師像」が、“パーフェクト・ホーム・ドクター”です。これは、今では「家庭医」とか「プライマリケア医」とか「総合診療医」といった言葉で表現される医師像と似ています。
具体的には、患者さんが受診したら「それは、ウチの専門じゃないね」と言わず、きちんと診察してゲートキーパー役を果たす、という医師です。患者さん家族の健康のことは、誰よりも良く知っていて、誰よりも頼りになる相談相手であり、もちろん責任をもって治療できる範囲では治療して差し上げる、そんなドクターになりたい、と思っていました。
もうひとつ大事な概念は、複数の医師によるグループ診療。患者さんは安心して、グループ内のどの医院・医師にかかることもできるように、データベースが共有されていて、技術的にも連携している。そんなネットワークで繋がっている医療が、私達が目指した姿でした。
経営面は別会社に任せる方式で、「理想の医師像」にまい進した
当時、亀田総合病院の亀田院長が「家庭医」実現を追及する取り組みをしておられたので、私達の「パーフェクト・ホーム・ドクター」構想をお話ししたうえで、約1年間の修行をさせていただきました。その後、議論をしていた仲間達と医療法人社団プラタナスを立ち上げたのです。
最初から、経営面は別の仲間に任せることにしました。理由は、自分が金銭欲に疎くて経営に向いていないと思ったこともありますが、「患者さん満足の追求」と「収益性の追求」は切り分ける方がクリニックとしては好ましい、と思ったからです。「あざとさ」や「金儲け主義」の匂いがあると、患者さんには伝わりますからね。私は、損得勘定をし過ぎないで、開業時に想い描いた“パーフェクト・ホーム・ドクター”の姿を、まずは目指したかった。これは、今でも正解だったと思っています。経営的には「薄利多売」になっちゃっているけどね(笑)。
グッドデザイン賞を受賞した「ネット上でのカルテ開示」
当院がある用賀は、外資系やIT系の人達も多く行き交う土地柄です。新患の半数がインターネットを見て来院されるほどです。だからホームページ開設はもちろん、様々な取り組みをしてきました。
そのひとつが、オープンカルテです。ネット上で、患者さんが自分のカルテをいつでも見れる。ネットワークに属する他のクリニック受診時でも、共有確認できる。当時としては画期的で、平成13年のグッドデザイン賞を頂きました。
メルマガも続けていますよ。地域のインフルエンザ流行データや、日常の栄養管理アドバイスなどを配信しています。読者は現在2300人。母国に帰った外国人の元患者さんから「日本語を忘れないように読んでます」と返信が来ることも。
悩みは「高い期待値」と「自分達ができること」のバランス
ITの先進的取り組みをする一方で、当院は、非常に患者さん想いのスタッフが揃っていると自負しています。私自身も、自分が他の病院で患者になった時には、「どう扱われたいか」と患者目線に戻ることを意識しています。「こんなことは、ウチじゃしないな」「これは良い工夫だ、ウチでも取り入れよう」とね。例えば当院の特徴は、診療時間。ミーティングの為のブレイクを取る木曜日と半日診療の土曜日以外は朝8時から夜の7時まで休診なしです。医師もスタッフも、交代で1時間の昼食休憩をとる以外は、診療を続けます。また「院内処方」(※)も特徴です。経営を圧迫することは承知ですが、患者さんの立場に立てば、「ただでさえ体調悪いんだから、少しでも早く楽に薬を受け取りたい」と思うでしょ。
そういう姿勢を評価していただいているからか、お陰さまで繁忙期には1日200人を超える患者が当院を受診します。事前に評判を見たり聞いたりして来院されるので、期待値も当然高いわけです。でも、残念ながら患者さんの全てに満足いく医療を提供できるわけではありません。正直言って、厳しいご意見をいただくこともあるし、批判に対してすべて改善対処できているかというとそうではありません。患者さんの数が多過ぎると、一人当たりの医療サービスの質は落ちてしまう。勿論それは、私達が開業時に掲げた”パーフェクト・ホーム・ドクター”の姿ではない。このジレンマには、常に悩んでいるし恐怖を感じる時さえあります。
結局は、「できることを」をきちんと着実に続けるしかないのですけれどね。私達は地域拠点の小さな「箱」でしかないし、キャパも限られていますから。
「このスタイルが、ブレずに10年続いた」ことに驚いている
医療は続けてなんぼ。でも開業当初は、「このスタイルを、果たして続けられるか」と不安でした。いつ潰れるかな、と思っていたのです(笑)。開業して3-4年は大変苦しい時期もありました。でも、もうすぐ10年目を迎えるのです。10年という節目は、「地域に認めていただいた証」と有難く考えようと思っています。
それに副院長の田中先生はじめ、素晴らしい仲間が集まってくれた。経営上、関連しているクリニックも増えています。今後は、こうした医療資源をしっかりネットワークして、さらに本格的なグループ診療を目指したいと思います。
趣味は音楽、スキー、ボウリング。実は、マイボウルも持っていたんですよ。実際にはワーカホリックなので、なかなか時間ありませんが。
用賀アーバンクリニック
医院ホームページ:http://www.yoga-urban.jp/

診察室の患者用のいすにはひじ掛けがあるが、医師用にはひじ掛けがない。入口から診察室まで段差はなく、待合室は一般家庭のリビングルームのようなテーブルや椅子が並ぶ。
東急田園都市線、用賀駅徒歩1分。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
内科、小児科、呼吸器科、皮膚科、循環器科、外科、脳神経外科、小児心療内科
野間口聡(のまぐち・さとし)理事長・院長略歴

1988年 鹿児島大学医学部附属病院勤務
2000年 医療法人鉄蕉会亀田総合病院勤務
2000年 用賀アーバンクリニック開業
■所属学会ほか
日本脳神経外科学会(専門医)、日本脳神経外科コングレス、日本てんかん学会、日本定位脳手術研究会、日本脳波節電図学会、日本脳血管内手術研究会
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