[関節症性乾癬] 2016/04/28[木]

「関節症性乾癬」専門家が指摘する‘見逃されている可能性’

 皮膚の炎症疾患である乾癬。目に見える皮膚症状ゆえ周囲の理解を得られないこともあり、患者さんの社会生活に大きく影響を及ぼすと言われています。また乾癬の中でも、関節などに腫れや痛みを伴う関節症性乾癬は、重大な疾患であるにも関わらず「見逃されている可能性」が指摘されています。この関節症性乾癬について、乾癬治療のエキスパートである帝京大学医学部皮膚科学講座・准教授の多田弥生先生にお話を伺いました。

<多田弥生先生>
1995年東京大学医学部卒業。2002年米国国立衛生研究所皮膚科研究員、2005年帝京大学医学部皮膚科・助手、2006年東京大学医学部皮膚科・助手、2008年東京大学医学部皮膚科・講師、2011年立正佼成会附属佼成病院皮膚科・部長、2013年より帝京大学医学部皮膚科学講座・准教授。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。

「乾癬」「関節症性乾癬」 Q&A

なぜ関節症性乾癬が重大な疾患なのでしょうか?
炎症が続くと関節が破壊され、将来的な社会生活に支障が出ます。

 森田明理先生(前回記事参照)も指摘されているように乾癬の皮膚症状自体が既に患者さんのQOLを大きく損なわせていることをお伝えしなければいけません。皮膚、特に目につきやすい部分に症状があると患者さんは職場や学校などで大変つらい思いをされています。女性の場合、膝などに症状があると「何年もスカートをはいていない」という方がたくさんいらっしゃいます。このような状態でさらに「痛み・腫れ」といった体の機能に影響する症状が出る関節症性乾癬は患者さんにとって二重の苦しみをもたらします。

関節症性乾癬はどういう経過をたどるのでしょうか?
皮膚症状を先に発症するパターンが多く、発症から10年以上経ってから関節症状が出てくることもあります。

(図1)関節症性乾癬はほとんどのケースで皮膚症状が先行します

 乾癬の患者さん全体の10~30%が関節症性乾癬を発症するといわれていますが、そのうち7~8割の方は皮膚症状が先に出た後に関節症状を発症するというパターンだったという報告がいくつもあります(図1)。皮膚症状が出てから関節症状が出るまでの期間は患者さんによってバラつきがあります。つまり乾癬を発症した時点で関節症状がなくても、継続的に症状の予兆がないかどうかを注意していかなければなりません。実際、乾癬発症から10年以上経過してから関節症状が出る方もいらっしゃいます。治療に関しては、まずは痛み止めなどで症状を緩和させることが一般的です。日本皮膚科学会では日常生活に支障があらわれる前に、生物学的製剤を含めた関節破壊を抑制する治療を早期に考慮することが推奨されています。現在、日本皮膚科学会では生物学的製剤の使用について「生物学的製剤承認施設(平成28年2月16日時点で全国552施設)」を定めています。

関節症性乾癬がなぜ‘見逃される’のでしょうか?
皮膚症状と関節症状がリンクするとは限らず、気づかないことも多いのです。

 乾癬の皮膚症状と関節症状が必ずしも同じ部位で起こるとは限りません。たとえば、おなかや背中に皮膚症状がある患者さんで、手足の指が腫れて痛むというケースはその典型です。患者さんにしてみれば、皮膚に症状のあるおなかや背中が痛いわけではないので、まさか乾癬の症状の一部だとは思わないでしょう。だからこそ、我々皮膚科医が診察の際に患者さんの症状を聞く事が重要になります。症状が出やすい指先や足の裏、アキレス腱、腰・背中に症状がないかどうか、また顎の関節に症状が出ることもあるので「食事中に顎が痛むことがないですか?」という質問もしています。

関節症性乾癬になりやすい患者さんは?
手足の爪・頭部・おしり(肛門周囲)に症状がある方などは発症リスクが高いと言われています。

(図2)爪症状と関節症性乾癬による骨破壊

 臨床検査値などで明確に予測できるものは確立されていないのですが、実際に関節症性乾癬になった方の傾向を調べると「爪、頭、おしり(肛門周囲)」のいずれかに乾癬の症状があった方が多かったという報告があります。したがって頭部の症状でフケがたくさん出る方や肛門の上のところの皮膚が切れたりカサカサしている方は要注意です。爪症状はそれだけでQOLを大きく障害する症状ですが、関節症性乾癬の相関を示す報告も多く注目されています。爪乾癬がある足の指が時々痛む、という方のレントゲン写真をとったところ、すでに指の骨破壊が進んでいたという例もありました。(図2)

患者さんからできることはありますか?
まずは医師に症状を伝えてみてください。ご自身で回答する簡単な質問票もあります。

 言うまでもなく、我々皮膚科医が診察の際に関節症性乾癬の症状・兆候を見逃さないことが何よりも重要ですが、残念ながら十分でない部分もあることは確かです。患者さんの方からも気になる症状があれば、是非遠慮なく、皮膚症状とは関係ない症状だと決めつけずに医師に伝えて頂きたいですね。最近では患者さんご自身でチェックできる質問票(PEST質問票)も診療に取り入れている医療機関も増えていますので、ご自身の症状で気がかりな点がある方は医師に相談してみてください。

提供:アッヴィ合同会社

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