[関節症性乾癬] 2016/04/07[木]

国内で40万人以上の患者さんがいる皮膚疾患「乾癬」

乾癬(かんせん)という皮膚の病気をご存じでしょうか。最近の報告では日本国内でも40万人以上の患者がいると推定されていますが、患者さんやそのご家族以外で、まだその認知度は高くありません。最近は治療の選択肢も増え関心が高まっている「乾癬」。そして乾癬の中でも特に注意すべきタイプの「関節症性乾癬」について、乾癬治療のエキスパートである名古屋市立大学皮膚科の森田明理先生にお話を伺いました。

<森田明理先生>
1989年名古屋市立大学医学部卒業。2003年名古屋市立大学医学研究科 加齢・環境皮膚科学分野教授、2006年より名古屋市立大学蝶が岳ボランティア診療所長兼務、2010年より名古屋市立大学病院総合研修センター長(名古屋市立大学病院長補佐)兼務、2015年より名古屋市立大学病院副病院長

「乾癬」「関節症性乾癬」Q&A

乾癬とはどんな病気ですか?
皮膚が赤くなったり、分厚く盛り上がったりする病気で人同士では感染しません。

乾癬は、見た目には皮膚が赤くなったり、分厚く盛り上がったりする病気です。決して感染する病気ではありません。通常人間の皮膚は1ヵ月程度の期間で新陳代謝(ターンオーバー)を繰り返しますが、乾癬を発症するとそのサイクルが7日程度に短縮された状態になります。赤い皮膚や盛り上がった皮膚から剥がれ落ちる角質(鱗屑と呼ばれる)がフケのように見えることや、“カンセン”という名前の響きなどから周囲の誤解を招くことが多いと言われています。

乾癬の原因は?
明確な発症メカニズムはまだ分かっていませんが、近年「炎症性サイトカイン」と呼ばれる物質が中心的な役割を果たしていることがよく知られています。

乾癬は、遺伝的・環境的要因に、ストレスなどの引き金が加わることで発症すると言われていますが、明確な発症メカニズムはまだ分かっていません。ただ、近年の研究によって関節リウマチなどと同じく乾癬の患者さんでも免疫反応の異常が起こっていることが明らかになってきました。なかでも「炎症性サイトカイン」と呼ばれる物質(TNFαなど)が乾癬患者さんの体内で増加し、乾癬発症の中心的な役割を果たしていることが分かっています。

乾癬の診断・治療は?
皮膚科医が診断します。治療は症状に応じてさまざまな方法がありますが、最近では新しい治療法である、生物学的製剤が登場し治療環境が大きく変化しています。

診断は皮膚科医による臨床的所見や必要に応じて患者さんの皮膚から組織を採取(生検)することで行われますが、脂漏性湿疹や爪白癬(水虫)など別の疾患との鑑別が難しい場合もあり、診断ができていないケースもあります。治療は症状に応じて塗り薬(外用)、光線療法、免疫抑制薬などの内服療法などが選択されます。最近では炎症性サイトカインを標的にした生物学的製剤が国内でも承認され治療環境が大きく変わってきました。

関節症性乾癬とは?
皮膚症状に加え、手足や腰、顎の関節、指先、足の裏やアキレス腱などに痛みや腫れが生じるタイプの乾癬です。決して珍しい病気ではありません。

乾癬の皮膚症状に加え、手足や腰、顎の関節、指先、足の裏やアキレス腱などに痛みや腫れが生じるタイプの乾癬です。国内では昔は乾癬患者さんの2~3%がこのタイプと言われていましたが、近年は患者さんが増加傾向にあり、最近の報告では乾癬患者さんのうち、日本では10%、海外では30%がこのタイプの乾癬だという調査結果もあり、決して珍しい疾患ではないという認識に変わりつつあります。特に背中、腰、臀部に痛みやこわばりが生じる、いわゆる脊椎の症状を伴う患者さんが以前考えられていたよりももっと多いのではないかと言われています。

関節症性乾癬の問題点は?
関節リウマチと同様に炎症が進行すると関節が破壊され、生涯にわたって日常生活に著しい影響をもたらす可能性があります。

そもそも乾癬の皮膚症状だけでも患者さんは既にQOL(生活の質)が大きく低下しています。その上、痛みや腫れが伴うことでQOLはさらに悪化します。また関節リウマチと同様に炎症が進行すると関節が破壊され生涯にわたって日常生活に著しい影響をもたらす可能性があるので極めて重大な疾患だと言えます。よって一刻も早い診断と適切な治療が重要になります。関節症性乾癬に対しては、まずは痛み止めなどで症状の緩和をすることが一般的です。日本皮膚科学会では日常生活に支障があらわれる前に、生物学的製剤の早期使用を考慮することが推奨されています。現在、日本皮膚科学会では生物学的製剤の使用について「生物学的製剤承認施設(平成28年2月16日時点で全国552施設)」を定めています。

関節症性乾癬を見逃さない為には?
心当たりがあれば医師に相談を。腰痛が「年のせい」でないこともあります。自分でチェックできる質問票もあります。

関節症性乾癬は皮膚症状と関節症状が体の同じ箇所に起こるとは限らないので、患者さん自身が2つの症状を結びつけることが非常に困難です。場合によっては診療する医師側も乾癬の症状だとは気付かず、患者さんが一方では皮膚科で乾癬治療を受け、同時に別の病院で原因も分からないまま痛みの治療を受けているケースもあるようです。たとえば乾癬を発症するのは40~60代の男性が比較的多いですが、この世代が腰に痛みを感じても「年のせいかな」と判断しがちです。しかし、その痛みが関節症性乾癬による炎症性腰痛である可能性もあるので、注意が必要です。
関節症性乾癬は皮膚症状が先行するケースが圧倒的に多い為、皮膚科では定期的な問診によって関節症状の兆候を見逃さないように努めています。また最近では患者さんが待ち時間などで簡単に回答できる質問票「PEST質問票」なども取り入れられ始めています。現在乾癬の治療で通院されている方で関節症性乾癬の諸症状に心当たりがある方は医師に相談することをお勧めします。

提供:アッヴィ合同会社

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。