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[クリニックインタビュー] 2012/01/27[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第129回
習志野台整形外科内科
宮川一郎院長

「救急車が来る整骨院」で発芽した、医療ITへの想い


診察室の大モニターにiPadから表示

 島根で整骨院を営んでいた父親の姿が、今の私のバックボーンになっています。4年前に他界しましたが、県の整骨医会の会長を長く務め、画期的な取り組みも多く実現しました。例えば、同業者を集めて自主規制的なレセプト(請求書)チェック活動を始めました。これは、各整骨院のレセプトに記載ミスがあると保険機構の査定で差し戻され、信頼性低下にもつながるため、業界内でレベルアップさせようと呼びかけて実現したものです。ただし、30年前ですから、父は大量の紙の束と毎晩格闘していました。私は中学生でしたが、「数値をデータ化して、コンピュータ処理する時代が来る」と確信しました。この時の想いが、私の「医療IT」推進力になっています。
 また、父はやむを得ずX線機器も導入していました。近隣に整形外科医が少なく、救急車がうちに来ていた程でしたから、柔道整復師といえども患者さんに正確な治療を施したいと思って自腹で撮影をしていたんですね。当然、整形外科が増えてくると、医師免許を持っていない父はX線撮影を止め、忸怩たる思いをしていました。「こんな風にやりたいことに制限を受けるのは嫌だ」と思った私は、父のエンジニア気質を受け継ぎつつも、医師になろうと決心しました。医師のなかでも整形外科を選んだのも、一番応用範囲が広くて何でもできそうだったからです。

病院勤務医時代は、IT推進で一人何役もやった

 その後、大学医局からの派遣でいくつかの病院で働いたのですが、岩井整形外科内科病院の院長との議論が、大きな人生岐路になりました。普通の「街の病院」のままじゃダメだ、生き残るためには「IT導入」「専門特化」の2つが必要だという結論になったのです。それで、当時は珍しかった「MED(内視鏡下椎間板摘出術)」に注力し、ホームページも自分で作りました。すると、あっという間に全国、海外から患者さんが集まるようになったのです。ITの力を実感しましたね。
 さらに、電子カルテの導入目的の補助金を厚生労働省に申請し、大病院と並ぶ規模のサポートを得ることが出来ました。事例調査で全国の病院や業者を行脚し、クリニカルパスを反映できる当時としては画期的なシステムを実現しました。
 その他にも、60床という小規模病院にも関わらずDPC(診断群分類包括評価)対象資格を取得するプロジェクトや、ほとんどの院内委員会の責任者、さらにはシステム管理室長を掛け持ちするなど、多忙を極めました。整形外科部長として看板のMED手術も行っていましたから、やれることは全部やりつくした感になりましたね。父親の癌の知らせが来たこともあって、「これからは、自分のこともやろう…」と病院勤務医には区切りを付けることにしました。

医院継承で開業したから、すぐ患者さんに集中できた

 いま私が院長をしているこの医院は、別の先生が院長だったのを譲り受けたものです。これを「継承開業」といって、ゼロから全てを始める「新規開業」とは違う開業の仕方なのですが、どんどん新しいことを試していきたい私にとっては、「医院自体の経営は短期間で軌道に乗せる」ことが重要でした。だから、下見に来た当日に、即断即決したのです。よくある診療圏調査などもしませんでした。経営的なことをあまり心配せず、すぐに目の前の患者さん達の診療に集中できたのは、良かったと今でも思っています。
 病院にいた頃と比べて、システムも空間も設備もスタッフ数も、全てがこじんまりとしました。もちろん使えるお金も。そんなことは分かっていましたが、行動範囲も視野も狭くなってしまった気がして・・・次第に閉塞感が顔をもたげ始めました。そんな時です、iPadが現れたのは。衝撃でした。大いに刺激を受けて、しばらく中断していた様々なアイデアが沸々と動き出しました。

待合室で患者さんが自由に使える3台ふくめ、iPadは院内に11台


受付には3台のiPad

 iPadを使った取り組みは、患者さんへの動画説明(大画面につなげて映し出せる)や、リハビリ時などに患者さんの傍でX線画像表示するしくみなど複数ありますが、患者さんとのコラボで実現していることもあります。それは、iPad問診票。
 当院は多い日は300人以上の患者さんがいらっしゃいます。紙の問診票では記入漏れが多くて再確認する時間が必要になったり、記載内容を電子カルテに転記する時間が必要です。「本来の診療にもっと時間を使いたいのに」と不便を感じていました。当然、他の患者さんをお待たせする時間も長くなってしまいます。ところがiPadを受付でお渡しして、画面に表示される質問に次々と答えてもらう方式にすれば、患者さんのペースで、かつ漏れなく回答していただけます。さらには院内パソコンにもすぐさまミスなくデータ転送できるようになりました。
 これは、どこかの電子カルテメーカーに依存せずに当院独自で開発したシステムです。高齢者などパソコンや機械に触るのが苦手な方には強要していませんが、判らない事はスタッフがお手伝いしていますし、概ね60代までの人は使えています。

医療のITで目指すものとは

 ITはあくまで手段です。何がなんでもIT化しようとしているわけではありません。私はまずは一人の整形外科医として地域の医療に全力を尽くしていくのが本分です。
 ただ一方で、今後の医療のあるべき姿として「納得して治療を受けてもらう」時代から「理解して治療に参加してもらう」時代へと変わっていくべきだと思っています。複数の医療者がコラボして患者さんを診ることをチーム医療と言いますが、考え方をもっと進めて、患者さん自身がチームの一員になれるようにしていかなければなりません。ITを使うことで、患者さんが自らのデータを入力したり確認できるようになれば、そうした新しい世界が拓かれると思います。当院では、患者さんと一緒にそれを実践していきたいと思っています。

取材・文/QLife

習志野台整形外科内科

医院ホームページ:http://www.narashinodai.jp

新京成線 高根木戸駅より徒歩7分。駅からは少し距離があるが、車でのアクセスは抜群。駐車場が最近拡張されて19台収容に。
詳しくは、医院ホームページから。

診療科目

内科、整形外科、リハビリテーション科

宮川一郎(みやがわ・いちろう)院長略歴
1993年帝京大学医学部卒業
1993年帝京大学医学部付属病院整形外科
1995年千葉旭中央病院整形外科
1998年帝京大学医学部付属病院救命救急センター整形外科
2001年医療法人財団岩井医療財団岩井整形外科内科病院整形外科部長 2007年習志野台整形外科内科開業、院長就任


■資格・所属学会
日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会脊髄脊椎病認定医、日本脊椎脊髄病学会、日本骨折治療学会


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