出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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片頭痛
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片頭痛とは?

どんな病気か

 慢性の頭痛で機能性のもの、すなわち明らかな脳の器質的病変を伴わない頭痛には、片頭痛、緊張型頭痛群発頭痛があります。片頭痛は人口の約8%、緊張型頭痛は約20~30%にみられ、群発頭痛はまれです。

 片頭痛は一般に発作性にみられる片側性の脈拍に一致した拍動性の頭痛で、悪心・嘔吐を伴い、光や音に対して過敏になります。しかし、両側性で非拍動性の場合でも、日常生活が妨げられる程度の痛みで、階段の昇降など日常的な動作により頭痛が増悪すれば、片頭痛と考えられます。片頭痛は女性に多く(男性の約3倍)、比較的若い年齢層(10~40代)によく起こります。

 片頭痛には前ぶれ(「前兆」と呼ぶ)を伴うタイプと前兆を伴わないタイプがあります。前兆としては、視野の中心付近から始まりキラキラ光る境界をもつ暗点(見えない部分:閃輝性暗点)や視野障害などが典型的ですが、半身の感覚障害や運動障害、言葉が出にくくなる状態などが認められることもあります。

 この前兆は一般に1時間以内に消え、その後頭痛が続いて起こります。この前兆より前に、食欲亢進、あくび、感覚過敏、むくみ、興奮、疲労感、空腹感などの気分の変調が1~2日間にわたってみられることもあります。

原因は何か

 片頭痛の痛みは、従来、血管の拡張によるものと考えられてきました。すなわち、片頭痛の前兆期には、血管が収縮することにより脳血流が低下するため前兆の症状が現れ、頭痛期には血管が拡張に転じ頭痛が生じるとの説で、血管説といわれてきました。

 しかし、脳血流が低下している時期にすでに頭痛が始まることが明らかになり、痛みの原因として脳血管の周囲に分布する三叉神経が注目されました。この血管の周囲にはサブスタンスPやCGRPという神経伝達物質であるニューロペプチドがあり、これが遊離し、血管拡張や血管周囲の炎症が起こり痛みを発するとの説で、三叉神経血管説といわれています。

 最近の新しい片頭痛治療薬であるスマトリプタン(イミグラン)が有効であることは、この三叉神経血管説を裏づけるものといえます。

症状の現れ方

 片頭痛の2~3日前から食欲亢進、あくびなどの予兆がみられ、次に前兆としては、前述した閃輝性暗点などの視覚症状、あるいは感覚障害、運動障害などが、大脳皮質または脳幹起源の神経症状として現れ、一般に4~60分間続き、この前兆が消えてから60分以内に頭痛が始まります。

 頭痛は脈拍に一致した拍動性のことが多いのですが、拍動性でなく持続性のこともあります。また、頭痛は片側性のことも、両側性のこともあります。しかし、痛みの程度は一般に強く、少し動くだけで痛みが強くなることもみられます。頭痛の持続時間は長くとも3日以内で、一般には睡眠により軽くなります。

検査と診断

 片頭痛は機能性の頭痛で、片頭痛の診断は主に頭痛の性質や随伴症状などについての患者さんからの情報によってなされます。しかし、脳の器質的疾患を除外して、初めて診断が可能になります。そのため、診断をする際にはCTやMRIなどの脳の画像診断も行う必要があることもあります。

 また、1回目の頭痛で片頭痛と診断をすることは危険と考えられており、前兆のないタイプでは少なくとも5回、前兆のあるタイプでは少なくとも2回、同様な頭痛を認めた場合に片頭痛という診断がつけられることになっています。これは、軽症のくも膜下出血などの器質的疾患を見逃さないようにするために重要であると考えられます。

治療の方法

 片頭痛の治療には、頭痛時の急性期治療と予防的治療があります。

①頭痛時の急性期治療

 欧米では1990年ごろからスマトリプタンというセロトニン受容体に作用する薬が第一選択薬として片頭痛に用いられて効果をあげてきました。日本でも、2000年にスマトリプタンの注射薬が認可され、01年にはスマトリプタンとゾルミトリプタン(ゾーミッグ)が経口薬として認可されました。

 これらはトリプタン製剤と呼ばれますが、頭痛が始まってからでも効果がある点で使用しやすく、約60~70%の患者さんに有効で、片頭痛の発作に伴う悪心、嘔吐、光過敏・音過敏などの随伴症状に対しても有効であることが示されてきました。また、ひとつのトリプタン製剤が無効でも他のトリプタン製剤が有効であることもしばしば認められます。現在、日本では5種類のトリプタン製剤が使用可能です。

 従来から使用されていた酒石酸エルゴタミンなどのエルゴタミン製剤は、前兆の時期に投与すると効果があることが知られています。しかし、エルゴタミン製剤はこの時期を逃して頭痛期になってから投与したのでは効果が出ません。現在では、大多数の片頭痛の患者さんに対しては、効果・副作用の観点からトリプタン製剤のほうがよく、エルゴタミン製剤は片頭痛の発作回数の少ない場合、あるいは発作の持続時間が長い場合のみに用いるという点で専門家の意見が一致しています。

 また、頭痛の程度が軽い場合には、まず消炎鎮痛薬から試み、これが有効でない場合にトリプタン製剤を試みるという、段階的な治療法も行われます。

 頭痛発作時に悪心・嘔吐が強い場合には、通常の内服錠剤では十分な効果が得られないことが少なくありません。このような場合には、ドーパミン拮抗薬であるメトクロプラミド(プリンペラン)やドンペリドン(ナウゼリン)などの制吐薬を併用すると効果的です。

②予防的治療

 片頭痛の発作がしばしばあり、急性期治療だけでは十分に治療ができない場合や、急性期の治療が薬の禁忌(使用を禁じられていること)や副作用のためにできない場合、また急性期治療の乱用がみられる場合などには、片頭痛の予防的治療を考慮しなければなりません。

 従来から、予防的治療としてβ遮断薬のプロプラノロール(インデラル)や、抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール)、抗けいれん薬のバルプロ酸(デパケン)などが有効とされて用いられてきました。近年、カルシウム拮抗薬のロメリジン(テラナス、ミグシス)が日本で開発され、頭痛の頻度と程度が軽減されることが明らかになり、現在臨床の場で広く使用されています。

 予防薬を使う基準としては、まず発作の頻度があげられます。最近は、1カ月に3~4回以上、支障度の強い頭痛発作がある場合には、原則として予防薬を使用することが推奨されています。

病気に気づいたらどうする

 トリプタン製剤が開発されて以来、片頭痛に対して有効な治療を行うことができるようになってきたので、早い時期に神経内科や脳外科の専門医の診断を受け、治療を受けることが大切です。最近は、有効な治療法としてトリプタン製剤がありますが、頭痛の程度によっては、消炎鎮痛剤が有効であることも多いので、治療に関しては専門医とよく相談してください。

 また、従来使用されてきたエルゴタミン製剤やトリプタン製剤、消炎鎮痛剤などの過剰投与により、薬物乱用頭痛(コラム)が生じることが知られているので、薬剤の服用量に関しても専門医とよく相談してください。

(執筆者:埼玉医科大学神経内科教授 荒木 信夫)

頭痛に関連する可能性がある薬

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 頭痛薬の投与で頭痛が起こる場合があることはあまり理解されていません。急性期頭痛治療薬(エルゴタミン、トリプタン、鎮痛薬、オピオイド)の乱用による頭痛の頻度は高く、頭痛患者さんの約8%に薬物乱用頭痛が認められるとの報告もあります。片頭痛や緊張型頭痛の患者さんにおいて、薬物乱用中に新しいタイプの頭痛が出現したり、片頭痛や緊張型頭痛が著明に悪化した場合は、薬物乱用頭痛(Medication-overuse headache: MOH)を考慮すべきです。「薬物乱用頭痛」は、これまで反跳性頭痛、薬物誘発頭痛、薬物誤用頭痛などと呼ばれてきた頭痛です。薬物乱用頭痛は二次性頭痛に分類されてはいますが、しばしば一次性頭痛と合併して出現します。

 頭痛が起こりやすい人は中枢性痛覚抑制系が抑制されており、鎮痛薬乱用により中枢性痛覚抑制系がさらに抑制されるために薬物乱用頭痛が起こるとの報告もありますが、実際に、なぜ薬物乱用により難治性の頭痛へと変容化していくのか詳しいことはわかっていません。薬物長期乱用に伴う頭痛治療の基本は、①原因薬剤中止、②薬剤中止後に起こる頭痛への対処、③予防薬の投与です。

 薬物長期乱用に伴う頭痛は、原因薬物の服用中止により1~6カ月間は70%ほどの症例で改善が得られるとの報告が多いのですが、長期予後では約40%が再び薬物乱用に陥るといわれています。

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 脳血管に選択的に作用するセロトニン作動薬の開発が行われ、セロトニン(5HT)の5HT 1B/1D受容体に選択的に作用するスマトリプタンがまずつくられ、頭痛期の片頭痛の50~70%に有効であることが確認されました。

 頭蓋内血管の平滑筋には5HT 1B受容体がありますが、スマトリプタンはここに作用し血管を収縮させる作用があること、また血管周囲の三叉神経に存在する5HT 1D受容体にも結合し、サブスタンスPやCGRPなどの神経伝達物質の放出を抑えることが示されています。

 現在、日本ではスマトリプタン(イミグラン)の注射薬、鼻腔吸入薬、経口薬、およびゾルミトリプタン(ゾーミッグ)、エレトリプタン(レルパックス)、リザトリプタン(マクサルト)ナラトリプタン(アマージ)の経口薬が使用されています。

 血管の収縮作用があるので、虚血性心疾患や、コントロール不良の高血圧のある人では使用すると危険です。専門医によく相談してから使用してください。

コラム片頭痛の特殊型

埼玉医科大学神経内科教授 荒木信夫

 片頭痛の前兆として、片麻痺を認める片麻痺性片頭痛(前兆遷延型片頭痛とも呼ぶ)がまれですが認められます。このなかで、家族性にみられるのが、家族性片麻痺性片頭痛です。家族性片麻痺性片頭痛は、前兆として片麻痺が生じる患者さんが一親等以内にいる場合で、まれな疾患です。

 最近、オランダのグループが本疾患の多数例で遺伝子を調べ、第19番染色体19p13に存在するP/Q型カルシウムチャンネル遺伝子に異常を認めました。そのため、一般の片頭痛でもさまざまな遺伝子の検討が行われていますが、現在のところまだ明らかな異常は見つかっていません。

 外眼筋の麻痺によって、物が二重に見える複視を訴える眼筋麻痺性片頭痛もまれにみられます。

 脳底型片頭痛は、前兆として脳幹部が障害された時の症状を認める片頭痛で、従来脳底動脈片頭痛と呼ばれていました。脳幹部の障害と考えられる症状(複視、めまい、耳鳴り、運動失調、構音障害、四肢のしびれ、意識障害)のうち2つ以上が認められる場合に診断されます。

 網膜の血管に変化がみられ、視野障害を示す網膜血管片頭痛もごくまれにみられます。また、片頭痛のなかで、前兆による症状(閃輝性暗点など)を示しても、その後頭痛を生じないものもみられ、頭痛を伴わない片頭痛と呼ばれています。

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