骨軟部腫瘍〈総論〉
こつなんぶしゅよう〈そうろん〉
骨軟部腫瘍〈総論〉とは?
●骨軟部腫瘍とは
腫瘍とは、体の正常だった細胞の一部が異常な速さで盛んに分裂して増え、「しこり」(腫瘤)を作ってしまう病気です。良性と悪性があり、悪性の代表としては胃がんや肺がんなどがあります。胃や肺と同様に、手や足にも腫瘍が生じます。これが骨軟部腫瘍です。
骨軟部腫瘍は骨、筋肉、血管、脂肪や関節組織などから発生します。このうち硬い骨に発生した骨腫瘍と、それ以外の軟らかい組織(軟部組織)に発生した軟部腫瘍とに分類されています。
●良性と悪性
骨軟部腫瘍にも、良性と悪性があります。良性腫瘍の場合、腫瘍と周囲の正常組織との間に「垣根」ともいえる境界があり、腫瘍の部分だけを取り除くと治ってしまいます。
一方、悪性腫瘍では、「垣根」を越えて周囲の正常組織のなかに悪性の細胞が広がっていきます。これを浸潤といいます。また、少し離れたところにポツンと病変を作ることもあります。まるで中心の腫瘍のまわりの衛星のように見えることから、衛星病変と呼ばれています。そのため悪性腫瘍の手術では、一見正常に見える周囲の組織も含めて摘出しなくてはなりません。
また、悪性腫瘍では小さな細胞のかたまりが、もともとある正常な血管やリンパ管のなかに入り込み、流れに乗って移動して、離れた内臓にも「しこり」を作ってしまうことがあります。これを転移と呼びます。悪性の骨軟部腫瘍では、肺に転移することが多いとされています。悪性腫瘍で転移がみられる時や疑われる場合には、悪性腫瘍が発生した場所を手術でとることのほかに、抗がん薬を投与するなど、全身の病気として治療を行う必要があります。
肺や胃、肝臓などの内臓から発生した腫瘍のうち、悪性の腫瘍が「がん」です。内臓の名前のあとに「がん」という言葉をつけて肺がん、胃がん、肝がんなどと呼ばれます。骨軟部腫瘍は、内臓からではなく骨、筋肉、血管、脂肪や関節組織などから発生しますので、悪性の腫瘍は「肉腫」と呼ばれます。たとえば、骨を作る能力のある悪性腫瘍は骨肉腫、軟骨を作る悪性腫瘍なら軟骨肉腫、血管を作る悪性腫瘍は血管肉腫と呼ばれます。
●原発性と続発性
骨の大きな特徴は、その内部に血管の豊富な骨髄があることです。ここに、内臓で発生した悪性腫瘍である「がん」が、血管を通って転移してくることがあります。転移したがん細胞は骨髄で増殖し、やがて骨は壊され、痛みが生じるようになります。がんのなかでも肺がん、乳がん、前立腺がんなどが骨髄に転移しやすく、このように最初は内臓にもともとの病気があり、それが骨に転移して生じた骨の病変を続発性骨腫瘍と呼びます。
一方、骨そのものから発生した腫瘍病変を原発性骨腫瘍と呼びます。どちらが多いかというと、続発性骨腫瘍のほうがはるかに多いのです。
●軟部腫瘍の早期発見と早期治療のために
腫瘍、とくに悪性腫瘍では早期発見・早期治療が大切です。多くの場合、最初に気づくのは、「しこり」または痛みです。軟部腫瘍では、最初は「しこり」として気がつくことが多く、痛みは多くありません。「しこり」の大きくなる速度は、当然悪性腫瘍のほうが速く、1カ月の間に大きくなるのが自覚できます。
一方、良性腫瘍は、通常数年間でわずかに大きくなるものがほとんどです。しかし、大きさが10年以上もほとんど変わらない悪性の軟部腫瘍もありますので、「しこり」がある場合は放置しないで医療機関を受診してください。繰り返しになりますが、早期治療が重要なのです。
●痛みが生じやすい骨腫瘍
一方、骨腫瘍では大きくなって骨の外に広がるまでは「しこり」としては触れませんが、病気が進んで骨が壊されるようになると痛みが出やすくなります。小さいうちは痛みがわずかなので発見が遅れることがあります。わずかな痛みでも、持続する時には腫瘍を疑うことが必要です。
痛みのなかでも、骨折による痛みで初めて気がつくことがあります。腫瘍のある部分の骨は、薄くなって折れやすくなっています。ここに、正常の骨では起こらない程度の力で骨折が起こると「病的骨折」と呼ばれます。骨折した場合、以前から同じところに痛みがあった場合には、単なるけがによる骨折ではなく、病的骨折であったことが考えられます。
●診断技術の進歩
骨腫瘍では、通常のX線所見がそれぞれに特徴があるため、大変重要です。近年では、これに加えてCT、MRIが普及し、それらの情報は診断や手術の計画に不可欠となっていて、とくに軟部腫瘍におけるMRI検査は必須です。
また、超音波検査も機器の性能が向上し、重要度が増しつつあります。たとえばMRIでは、筋肉や腱などの動くものと腫瘍の位置関係が把握しにくいのですが、超音波を使うとよくわかりますし、簡単に外来で検査ができます。
●骨軟部腫瘍に対する治療
骨軟部腫瘍は、良性か悪性か、悪性だとしてもどういう種類のものかによって治療法が分かれます。良性腫瘍の場合は、通常は経過観察するか手術で切除する方法が選択されます。
一方、悪性腫瘍では抗がん薬や放射線療法を用いるか、どのように切除するかなど、多くの選択肢があります。逆にいえば、診断をきちんと確定しておかなければ正しい治療法が行えない、ということになります。いろいろな画像で調べ、できる限り生検といわれる組織の検査を行い、確定的な診断が得られてから、治療方針を相談して決めることが必要です。
以下に、代表的な病気について述べます。