[患者さんの相談事例] 2010/03/12[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

苦情を言っていくと、お金を要求しているのかと思われるのではないかと躊躇してます(70歳、男性より)

 67歳の妻が、1年前の夜半、突然めまいを訴え、激しい嘔吐を繰り返しました。明け方まで嘔吐は続き、まったく眠れないまま朝を迎えました。そこで、ふらつく妻を抱えるようにして、近くのかかりつけの内科医院を受診しました。
 内科医院で夕方までかけて点滴による治療を受けたのですが、妻は点滴が終わっても足がもつれてフラフラの状態でした。私が付き添って帰宅し、その後4~5日同じように点滴に通いました。しかし、いつまで経ってもよくなりません。内科医院では、「様子を見ていたけれど、脳卒中の疑いがないことは確か。メニエール病の疑いもあるから、耳鼻科を受診してみてはどうか」と言われ、紹介状を書いてもらいました。
 そのとき嘔吐は治まっていましたが、耳鳴りとめまい、足のふらつきはほとんど発症当初と同じで、改善されていませんでした。とても一人で受診できる状態ではなかったので、私が再び付き添って、耳鼻科医院を受診したのです。そのころ耳鼻科の待合室は、花粉症の患者で溢れていました。受付や看護師さんは妻のフラフラしてつらそうな様子を見ても診察の順序を早めてくれる配慮もなく、長い時間待たされました。
 ようやく診察の順番がきたのですが、妻の診察をしたドクターは「メニエール病のようですね。来週検査をしましょう」と言うなり、もうつぎの患者の準備を始めました。まだこのうえ待たされるのかと思いましたが、私が住んでいる地域は医療機関が少ないので、我慢するしかありませんでした。
 翌週まで待って受けた検査の結果、鼓膜に異常はなく、左の耳はほとんど聞こえていないことがわかりました。ドクターから「メニエール病です」と同じ診断名を聞かされ、ゼリー状の薬を1週間ごとに受け取りに来るように指示されました。そして、そのまま1週間ごと2ヵ月にわたって通院したのです。
 しかし、いつまで経ってもふらつきがひどく、耳鳴りが治まりません。耳鼻科のドクターに「どうしたらよくなるのでしょうか?」と聞くと、ほかの患者さんに聞こえるほどの大きな声で、「奥さんの年齢では、もう治りません」と言われ、妻は大きなショックを受けてしまいました。
 そこで、思い切って隣町にある総合病院を訪ねてみたのです。すると、対応してくれた耳鼻科医は「私の診立てでは突発性難聴だと思います。メニエール病なら、足のふらつきがいつまでも残らないはずです。ただ、突発性難聴は少しでも早くステロイドによる治療を開始しなければなりません。それでも必ず改善するとは言えない病気なので、発症から2ヵ月も経つと、ちょっと手立てはありません。せっかく遠方から来ていただいて申し訳ないけれど、もう治療をしても改善の見込みはないと考えてください」と言われてしまい、妻とともに落ち込みました。
 耳鼻科医院のドクターが、なぜ左耳が聞こえていないのに突発性難聴の疑いすら抱かなかったのかと、腹わたが煮え繰り返るような思いです。でも、苦情を言っていくと、お金を要求しているのかと思われるのではないかと躊躇しているのです。かといって、このまま耳鼻科医院のドクターに黙っているのもしゃくです。いったいどうすればいいのか……。何かいい方法はないでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 「信用を大切にしながら長年商売を営んできた自営業者」とご自身でおっしゃっていましたが、とても理性的で道理のかなったお話をされる方でした。「商売人以上にドクターは信用が大切で、慎重に診断することが求められているのではないか」と、感情を抑えながら話される内容を時間をかけてじっくり伺いました。
 どうしても黙っていたのでは気が済まない場合は、やはり思いを伝えるしかありません。電話や手紙、直接面談など方法は考える必要はありますが、まずはお金を要求するつもりはないことを明確にしたうえで、冷静に総合病院のドクターの診断といまの気持ちを伝えることが大切です。
解決!医療機関さんこうしてみては・・・?
 患者が溢れ、忙しさのなかで、メニエール病と思い込んでしまったのでしょうか。やはりどんな状況であっても、一人ひとりの患者を慎重に診る診療態度は求められると思います。
 一方、納得いかなかった結果に対して、患者側から苦情が寄せられた際、医療機関の多くは「非を認めさせて補償を求めるつもりではないか」と身構えます。そのため、患者側と向き合い、患者・家族がいまどんな思いを抱いているのかに耳を傾けようとする冷静さを失いがちです。どこまでの要求に応じるかは別として、やはり納得できない思いを訴えてこられた場合は、真摯に気持ちを受け止める態度で接していただきたいと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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