患者相談事例‐11「もう少し慎重に診察してくれるか、ほかの病院を紹介してくれていたら…」
[患者さんの相談事例] 2010/02/19[金]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
もう少し慎重に診察してくれるか、ほかの病院を紹介してくれていたら…(75歳、男性より)
70歳の妻は、以前から心臓病、高血圧症、脂質異常症(かつては高脂血症と呼ばれていました)などの持病があり、かかりつけ医である近くの診療所に通院していました。
半年ほど前、妻がいつになくボーとしているので聞くと、「よくわからないけれど、何かいつもとからだの感じが違う」と言います。ともかく休ませたのですが、一度だけ嘔吐したぐらいで、熱が出ている様子もありませんでした。ただ、夕方になってもからだに力が入らないと言うので、タクシーを呼び、私と息子が付き添って診療所に向かいました。
ドクターに症状を伝え、念のために胸のX線写真を撮ることになったのですが、妻は足に力が入らないのか、X線撮影機の前でもまっすぐ立っていられず、すぐにしゃがみこんでしまいます。私が見ていても、やはり何かおかしいと思ったのですが、ドクターからは「肺に異常はないし、ただの風邪でしょう」とあっさり言われただけでした。妻は熱もなければ、鼻水も出ていないし、咳もしていませんでした。なぜ風邪なんだろうといぶかしく思いましたが、反論することもできず帰宅しました。
翌日になると妻は言葉数が極端に少なく、全身に力が入らないようでした。私は心配になって、近くの総合病院に電話をかけて症状を相談しました。すると、電話がドクターに回され、私の話を聞いたドクターは「いまからすぐに奥さんを連れてきてください」と言ってくれました。そこで、またタクシーを呼んで妻を病院に連れて行ったところ、すぐに脳のCT検査となり、脳梗塞を起こしていると診断されたのです。
その後の精密検査で、心臓の中の血栓が脳に飛んだタイプの脳梗塞ではなく、脳の動脈硬化で血管のなかが詰まったことによって起こった脳梗塞と言われました。
結局、その総合病院に1ヵ月入院し、その後、回復期リハビリテーション病棟のある病院に転院し、3ヵ月間リハビリを受けました。退院した後は、デイケアに通っています。発症当時はスプーンを持つこともできなかったのですが、その後のリハビリで手の麻痺は随分よくなりました。ただ、言語障害が残っていて、うまく言葉が発せられず、湯のみを見ても“手帳”と言うなど、正しく物の名前が言えません。そのため、いまも言語聴覚士によるリハビリは続けています。
最初の診療所で、もう少し慎重に診察してくれるか、ほかの病院を紹介してくれていたら、もっと早くに診断がついたはずです。それなのに、安易に風邪と決めつけたのはずさんな診察だったのではないかと思うのです。裁判など大事にするつもりはありませんが、このままでは腹の虫が納まりません。

たしかに、風邪の症状もないのに風邪と決めつけられ、結果、脳梗塞だったとわかれば、ご家族としても悔やまれることでしょう。ドクターが大丈夫と言っているのに、患者側が何の根拠もなく「もっと診てくれ」とは言えないだけに、「何のために受診したのか」という思いになるのももっともだと思いました。相談者にさらに詳しくお話を伺うと、治療やリハビリに追われて、診療所に脳梗塞だったことはまだ伝えていないとのことでした。そこで、その後の経過報告と納得いかない思いをまずは伝えてみてはどうかとアドバイスしました。できれば、事前に何を要求したいのか――たとえば、「腹立たしい思いを伝えるだけでいい」「謝ってほしい」「反省の弁が聞きたい」「補償を求めたい」など――気持の整理をしておくことが大切です。

診療所を受診したときには明らかな脳梗塞の症状は出ていなかったようですから、その段階で脳梗塞を見極めろというのは無理な要求かもしれません。しかし、相談者が言うように、風邪の症状がないのに風邪と安易に決めつけ、その後の注意事項も伝えていなかったようです。たとえば、はっきり診断をつけるのなら詳しい検査が可能な病院を紹介するとか、「いまは診断がつく症状は見受けられないけれど、どんな病気が潜んでいるかわからないから」と、今後の注意が一言添えられていれば、脳梗塞とわかってからの相談者の感情も異なったことでしょう。
それに、当該の診療所は複数のドクターがいて、胸部X線も診療放射線技師が撮影していたそうです。相談者の妻が定位置に立てないことを技師も知っていたとのことですから、やはりそこはチーム医療を活かしてドクターに報告し、診断のための貴重な情報提供があってほしかったと思います。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
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