患者相談事例‐22「夫が亡くなって一年後、クリニックから請求書が届いたのですが…」
[患者さんの相談事例] 2010/07/30[金]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
一度は納めた気持ちが再燃してしまいました。どうしたらいいのでしょうか。(74歳・女性)
1年前、77歳の夫が亡くなりました。長く患ったがんが原因だったのですが、本人の希望で最期は自宅療養を選びました。自分で歩けるうちはこれまでお世話になった病院に通い、自力で受診できなくなれば訪問診療をお願いしたいと言っていました。
そこで、私は地域で訪問診療をしていることで有名なクリニックに電話をかけ、事情を話して「必要になったら、よろしくお願いします」とお願いしました。ところが、院長は「無理して病院通いする必要はない。まずは明日にでも訪問して様子を診てあげるよ」と言い、ほんとうに翌日やってこられました。そして、夫の様子を診て薬が処方されたのです。
ところがその薬を服用したことで、夫は眠ったままの状態になり、尿も出なくなってしまいました。それを何度もクリニックに伝えたのですが、十分な対応をしてもらえず、思い余って数日後、病院に救急車で夫を運びました。その結果、薬の成分が体内にとどまってしまって機能障害を起こし、ひどい脱水状態に陥っていることがわかったのです。もともと体力が衰えていたこともあり、夫は入院した1週間後に亡くなりました。
その後、病院から死亡した旨の連絡が入っているはずなのに、クリニックの院長からは何の連絡もありませんでした。私は一時、弁護士に依頼して問題にしようかとも考えました。一度は子どもたちと勇気を出してクリニックに話し合いに行ったのですが、院長夫婦は海外旅行中で会えず仕舞でした。そこで子どもたちとも相談して、「問題にしたところでお父さんは帰ってこない。がんの末期状態だったし、寿命と思おう」と数ヵ月かかって気持ちを納めたのです。
ところが1週間前、そのクリニックから「昨年の未払い分」として請求書が郵送されてきたのです。もうほとぼりが冷めたから、請求してもいいだろうと思ったのでしょうか。それとも、事務職員が未払い金を見つけて、事務的に郵送してきたのでしょうか。感情を逆なでされるとはこのことで、一度は納めた気持ちが再燃してしまいました。1年前の日記などを読み返すと、さまざまなことを思い出してしまい、再びクリニックの院長が許せない気持ちになっています。ただ、直接苦情を言うだけの勇気が出るかどうかも自分のなかでははっきりしません。どうしたらいいのでしょうか。

納得できない思いをいったんは納めたのに、何事もなかったかのように請求書が1年後に届けば、感情を逆なでされるのは当然でしょう。エネルギーをかけて思いを納めただけに、反動も大きいことと思います。ただ、感情的に伝えたのでは、怒りを表出するだけに終わってしまいがちです。どういうときにどんな気持ちだったのか、何が納得いかないのかを、できれば冷静に伝えたほうがいいのではないかと思います。
直接伝えるかどうかを迷っているのなら、まずは思いを文章にまとめてみられてはいかがでしょうか。文章化すると気持ちが整理されます。その段階で、直接伝えるか、文章で伝えるかを判断しても遅くはないと思います。子どもさんたちにも手伝ってもらって、皆さんの思いを形にしてはいかがでしょう。

1年経ったから事務的に未払い分を請求すればいいという院長の判断だったのか、事務員の作業だったのかはわかりません。前者だとしたら、せめて手書きの手紙を添えるなり、もう少し配慮があってもいいはずです。もし、事務員の独断なのだったとしたら、院内コミュニケーションのまずさを見直さないといけない問題でしょう。旅行で不在中に訪問があったことも報告を受けていなかったのでしょうか。院内で何でも相談したり、報告したりする関係づくりが徹底していれば、ある程度は防ぐことのできた問題ではないでしょうか。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
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