[患者さんの相談事例] 2010/08/27[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

訴えたりする気持ちはありませんが、何が起こったのか明確な説明がないことが納得できないのです。(45歳・女性)

 75歳の父は10年前に心臓の血管が詰まっていると言われ、血管のバイパス手術を受けました。ところが、昨年あたりから動脈弁の動きが悪くなってきたため、2ヵ月前に人工弁の置換手術を受けることになったのです。バイパス手術のときは手術によって死亡する危険率が30%あると言われて心配したのですが、今回は5%の危険率だというので安心していました。
 手術は6時間ほどかかると事前に説明を受けていました。朝9時に父は手術室に入ったのですが、16時を過ぎても終わる気配がありません。途中で、看護師さんが「10年前のバイパス手術をした部位の癒着がひどいので、手間取っています」と伝えに出てきてくれましたが、その後は何の連絡もないままに待たされました。
 23時過ぎになり、ようやく執刀医が手術室から出てきました。そして、「癒着していた部分から出血して、止血に手間取りました。心臓の動きが悪いため、人工心肺装置が外せません。人工心肺をつけたまま、心臓を戻して閉じました。お父さんは全身のむくみがひどいので、驚かれるかもしれませんが、面会してください」と説明されました。父が手術室から移された病室に行くと、むくんで倍ぐらいのからだに膨れあがっていました。私たちはショックで声も出ませんでした。そして、翌朝、つながれていた人工心肺などの機器が外され、父は死亡しました。
 訴えたりする気持ちはありませんが、何が起こったのか明確な説明がないことが納得できないのです。それに、入院と同時に歯科を受診するように言われ、手術の前日に7本も一度に抜歯されました。これも、何の必要があって抜歯したのか、それもなぜ手術の前日なのかも聞かされていません。2ヵ月経って落ち着くにつれ、いろんな疑問が湧いてきています。訴えるつもりがなくても、再度説明を求めることは可能なのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 7本の抜歯は、もしかしたら全身麻酔時の挿管を考えて歯科受診し、不安定な状態の歯があったから抜歯になったのかもしれません。いまの時代、何の説明もなく抜歯するとは思えませんので、どこかの段階で、ご本人あるいはご家族の誰かが説明を聞いていたかもしれません。一度、確認なさってみてはどうでしょうか。
 元気になることを願って受けた手術で帰らぬ人となってしまい、ご家族としては「何が起こったのか」と説明を求めたい気持ちになるのは当然です。
 きっと、そのときは突然のことで気持ちが動転したり、慌ただしくお父様を連れて帰ったりして質問も浮かばなかったことでしょう。まずは、聞きたいこと、確認したいことをメモに書き出し整理してみましょう。そのうえで、あまり不信感を前面に出さず「ようやく気持ちも落ち着き、質問する余裕が出てきました。大切な父の最期を把握しておきたいので、説明の時間を取ってもらえないでしょうか」と頼んでみてはいかがでしょうか。
より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 麻酔科や歯科の説明と手術との関連が十分理解できていなかったり、説明自体の理解が不十分だったりすると、「説明がなかった」という受け止めになりがちです。それに、最近は手術にまつわる説明も非常に細部にわたりますし、情報量も増えています。それだけに、すべてを正しく理解し、受け止められる患者・家族はあまり多くないのが現状かもしれません。
 それにしても、手術のときに何らかのトラブルがあったことは明らかです。このような場合は、家族に説明を求められるまでもなく、何が起こったのかを詳細に説明することが医療者に求められると思います。翌朝に亡くなられていますので、その時点では時間がなかったかもしれません。そのようなときは「手術時の内容についてご不明な点があれば、落ち着かれてから改めて説明しますので、いつでもご連絡ください」という言葉を添えておくことが、誠実な対応ではないでしょうか。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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