患者相談事例‐29「患者が、ドクターと同レベルで病状を理解できるはずがないのに…」
[患者さんの相談事例] 2010/11/19[金]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
インフォームド・コンセントや自己決定が必要と言われますが、体のいい責任逃れではないですか。(57歳・男性)
私は6年前に肺がんを患い、右肺の下の部分を切除する手術を受けました。比較的穏やかな種類の肺がんと聞いて安心していたのですが、最近になって残った右肺の上部にがんの再発が見つかりました。
がんは現在2センチの大きさなのですが、ドクターからは「手術は可能です。ただ、以前に手術したときの癒着もあるので、手術中に7~10%の確率で出血する可能性があります。そうなると、術中に死亡する可能性もゼロではありません。手術以外には放射線治療という方法も選ぶことができます。どのような治療を選択するかはセカンドオピニオンも大いに活用して、自己決定してください」と言われました。
以前からセカンドオピニオンは有用だと聞いていたので、早速、同じ病院の放射線腫瘍医にセカンドオピニオンを求めました。しかし、放射線治療の具体的な説明は聞けず、「外科医が手術の適応があると言っているのなら、手術を受けたほうが放射線治療よりも効果的だと思います」としか言ってもらえませんでした。
そのような説明を聞いているうちに、最近の医療は何て冷たいのだろうと思い始めました。インフォームド・コンセントや自己決定が必要と言われますが、これでは体のいい責任逃れではないですか。素人である患者が、ドクターと同レベルで病気の状態や治療方法を理解することができるはずがないのに、自分で決めろと引導を渡されるなんて、逆に無責任です。これなら、ドクターが提示する治療方法を盲目的に信じたほうがまだ楽です。もし、手術という方法を選択して、手術中に出血を起こしたら、いったい私は誰を責めればいいのでしょう。自分の選択ミスだったと受け入れることなど到底できません。セカンドオピニオンについても、患者を惑わせるだけで、とても意味があると思えませんでした。このような最近の医療のあり方に納得できません。

たしかに、選択肢が複数あり、それぞれにリスクを伴うことがわかれば、自己決定することはつらい作業です。まして、頼りにするドクターから「説明はしましたよ。あとはあなたが選んでください」といった対応をされたのでは、梯子を外されたような不安を覚えるのも当然だと思います。本来は、説明だけでなく、一緒に考えてくれる姿勢がドクターには必要だと思います。ただ、最近のように選択肢も多様化してくると、ドクターから見ても「この治療方法が一番」と提示できない場合が増えてきました。そうすると、患者の価値観や生活などを考慮して選ぶ必要性が生じてきます。かつて情報がなかった時代には、私たち患者の側も、ともかく情報を得たいと求めました。しかし、多くの情報が手に入るということは、それだけ選択肢も増えるということであり、同時に“選ぶ”という厳しい現実を突きつけられることでもあったのです。それに、合併症が起きたとしても、誰かを“責める”という視点で考えるのは疑問です。人生の大切な分岐点だからこそ、自分以外の人が決めるわけにいかない問題なのです。

インフォームド・コンセントとはともかく「説明すること」ととらえ、ドクターが必要と感じた説明内容を一方的に伝えて、「あとはあなたの選択です」と突き放す傾向は少なからず医療現場に見受けられます。患者にしてみれば、「素人の私に決めろと言われても」と戸惑う人は多いでしょう。説明だけでなく、患者の気持ちに寄り添い、患者の理解を助け、ともに考えるインフォームド・コンセントであってもらいたいものです。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
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