患者相談事例‐40「入院しているときに起きた骨折は全面的に病院に非があるのでは?」
[患者さんの相談事例] 2011/04/28[木]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
入院しているときに起きた骨折だから、全面的に病院に非があるのではないでしょうか。(43歳・女性)
100歳の祖母が、慢性硬膜下血腫で入院しました。血腫はそれほど大きくなかったことと、年齢的な問題もあり、手術をせずに保存的に様子をみるとドクターから説明を受けていました。
祖母は認知症があり、意思の疎通は難しい状態です。ドクターやナースから「ベッドから勝手に降りたら危ないからね」と注意は受けていたようですが、自分の状態も十分理解できていないようでした。
入院して10日ほど経ったころ、病院から連絡があり、「大腿骨を骨折されているとわかりました。大きな病院に搬送して手術を受けていただく必要があります」と言うのです。母とともに病院に行くと、「2日前に隣の患者さんのベッドの下で仰向けになっているのを見つけたけれど、そのときは診察しても痛みを訴えられませんでした。それに、同室の患者さんもベッドから転落した音を誰も聞いていないし、ベッド柵も外れていなかったので、転落ではないと思います。その翌日、車椅子に移乗してもらいましたが、そのときも痛みの訴えはありませんでした。ところが今朝、足が腫れていることに看護師が気づき、診察すると痛みを訴えられたのです。そこでX線撮影をした結果、骨折が見つかりました」とドクターから説明があったのです。
どのような状況であったとしても、入院しているときに起きた骨折だから、全面的に病院に非があるのではないでしょうか。搬送先の病院での医療費と、その後、いまの病院の医療費を全面的に病院に負担してほしいのですが、どのように交渉すればいいでしょうか。

100歳で骨折のための手術を受けるとなると身体的な負担もかかりますから、ご心配なことと思います。ただ、入院中に起こった骨折だから、全面的に病院に非があると断定するわけにはいきません。そもそも、どの時点で起きた骨折なのか、いまの段階でははっきりしていません。骨折の原因が判明し、そこに医療者の過失が伴っていれば病院に非があると言えると思います。しかし、安全対策を講じていたのに起きてしまった転落事故や、不可抗力で起きてしまった骨折、原因がはっきりしない場合などは、病院の責任を追及できない場合もあるのです。
COMLには高齢の家族が入院中やデイサービス中に起きた骨折、食事中の窒息、死亡などについて、「納得がいかない」という訴えがたくさん届きます。相談者は一様に「いのちを預かる病院(施設)なのに、なぜ防げなかったのか」とおっしゃいます。しかし、病院や施設が安全という前提には無理があると思うのです。病院や施設の床は硬く、家庭の畳や絨毯のようにクッションの役割を果たす材料ではありません。食事中の窒息事故が多いのは、食事介助の必要がない方に多いと聞きます。職員が付き添っていなくて、大勢が一斉に食事をしている現場では、窒息が起きても発見に時間を要することもあるでしょう。
それだけに、マイナス事象が起きた場合に即、責任問題に結びつけるのではなく、まずは冷静に病院から事情を聴くことが大切だと思います。

骨折の原因がはっきりとしない場合、ともかく「当院に落ち度はない」と患者・家族をシャットアウトする対応になりがちです。しかし、「なぜ入院中に骨折?」と疑問を持っている家族にしてみれば、高飛車な態度は不信感の原因になります。
まずは患者・家族の疑問の声にしっかりと耳を傾け、状況の説明と原因の究明の努力をすることが大切だと思います。そのうえで、病院としてできる限りの説明をし、病院の考えを伝えることが大切だと思います。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
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