[患者さんの相談事例] 2011/10/14[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

この先治療を受けないのに、高額な費用を支払わないといけないなんて納得できません。
(44歳・女性)

 15歳の娘が歯並びの悪さに悩んでいて、矯正治療を受けたいと言い出しました。そこで、私も同行して、矯正歯科の看板が出ていた医院を受診しました。
 まずは歯列矯正の方法について、金属製のブラケットという器具を使って矯正をおこない、定期的に受診して調整すると説明がありました。費用は保険適応にならないため自費で、医療機関によって異なるそうで、「当院では、初日に初診料として1万円、検査料として5万円と消費税をいただきます。そして、矯正治療費として120万円、調整料として受診していただくたびに6,000円と消費税が必要です。とりあえず目安として治療は2年間です」と言われました。あらかじめインターネットで調べていた費用とさほど違いがなかったので、歯列の状態を診断してもらい、歯の型を採るなどの検査を受けました。そして、初診料と検査代に消費税を加えた63,000円が請求され、支払ったのです。
 ところが、歯科医院を出たあと、娘が「2年間も器具をつけるなんて嫌。大人になってからでもいいから、もっといい治療を受けたい」と言い出したのです。2年間治療に通う意思がないとわかった私は慌てて歯科医院に戻り、「今日お支払いした費用を返してください」とお願いして返金してもらいました。
 その後、落ち着いて考えてみたら、返金してもらったものの、今後の治療についてキャンセルの意思を伝えていないことに思い至りました。次回の予約も入れたままになっていたのです。そこで、翌日電話をかけて、次回の予約と今後の治療をキャンセルしたいと伝えました。すると、少し待たされたあとに電話に出てきた事務長と名乗る方が「昨日の返金は当方の手違いでした。次回の予約と今後の治療のキャンセルはさせていただきますが、昨日の63,000円は支払ってください」と言われました。私が、「キャンセルするんだから、診断していただいた内容に意味がなくなるし、歯型も捨てていただければ済むことではないのですか? それに、昨日の窓口で返金を認めてもらったのに、なぜ再度支払わないといけないのですか?」と反論すると、「昨日の窓口のスタッフは入ったばかりで、よくわからないままに返金してしまったのです。先ほどそれがわかって、こちらからもご連絡しようと思っていたところでした」と言います。この先治療を受けないのに、そんな高額な費用を支払わないといけないなんて納得できません。妥当な請求なのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 歯科治療のなかでも、矯正など自費になる治療は高額になりがちです。それだけに、キャンセルや治療の中断を巡ってのトラブルは少なくありません。
 ただ、娘さんの場合、あらかじめ初日に初診料と検査代が必要という説明を受けたうえで、診断と検査を受けておられます。そのあとに、今後の治療の継続をキャンセルしようと決めたわけですから、やはり初診料と検査代は支払う必要があると思います。今後使わないとしても、診断と検査を受けた以上、その費用を支払うのは患者側の責務と言えるでしょう。
 それだけに、初日だけで63,000円という費用が発生するとわかった段階で娘さんの気持ちを確認したり、いったん帰宅して考え相談する時間を取ったりするなど、慎重な行動が必要だと思います。将来的に矯正治療を希望しているならば、今回のことを娘さんにも伝え、賢い患者のあり方について母娘で一緒に考えてみてください。
より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 最近、私たちCOMLにも、「治療結果が納得いかないから費用を支払いたくない」「検査を受けても診断がつかなかったから、その検査代は支払う必要はないだろう?」という相談が届くことがあり、同じ患者の立場として戸惑いを隠せません。もちろん、上記と同様、検査や治療を受ければ、結果の如何にかかわらず発生した費用を支払うことは患者として当然の責任であり、義務であるとお伝えしています。
 この相談者の場合は、いったん支払った63,000円をすぐに返金してもらえたことで、「キャンセルするのだから初回の費用も発生しない」という思いを正当化されていました。まだ経験の浅い事務スタッフが簡単に返金してしまったようですが、仕事の基本である「報告・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)」の大切さをいま一度確認することが大切だと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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