患者相談事例-64「検査入院を希望したものの、入院日が遅れ、結果的に脱水症状が原因の脳梗塞に。病院側に非はないのでしょうか?」
[患者さんの相談事例] 2012/05/07[月]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
検査入院を希望したものの、入院日が遅れ、結果的に脱水症状が原因の脳梗塞に。病院側に非はないのでしょうか?(76歳・男性)
74歳の妻は、ずいぶん前から喘息で、ある県立病院の呼吸器科に通院していました。さらに、加齢が原因によると思われる大腸炎や下肢静脈瘤などもあり、時折、胃腸科や循環器科も受診していました。
2ヵ月ほど前、妻は背中と脇腹に痛みを訴えるようになりました。日ごろ診てもらっている近所のかかりつけ医に相談したところ、「圧迫骨折の可能性もあるから、整形外科で診てもらってはどうか」とアドバイスを受けました。
妻の痛みは日に日に強くなるようだったので、いつも受診している県立病院の呼吸器科に連絡し、「科は異なるかもしれませんが、そちらで入院して検査をしてもらえませんか?」と尋ねてみました。すると、「呼吸器科なので、整形外科の検査目的の入院を受け入れるのは難しいです。整形外科にも問い合わせてみましたが、現在空床はないとのことでした。お近くで整形外科のある病院をまずは受診してください」と言われました。
そこで仕方なく、近くの病院の整形外科を受診しました。問診で下肢静脈瘤があると伝えたところ、「静脈瘤がある方は血栓が飛ぶ可能性が高いので、入院なら血栓に対応できる病院のほうがいいと思います」と言われ、県立病院宛の紹介状を書いてくださったのです。そうしてようやく、県立病院の整形外科に入院することができました。
ところが入院2日目、妻は脳梗塞を起こしてしまったのです。血栓が飛んだのではなく、ひどい脱水症状を起こしていたことが原因だと言われました。妻は強い痛みでトイレに行くことがままならなかったので、入院するまで極力水分を控えていました。すぐに県立病院が入院を受け入れてくれれば、水分管理もできて、妻は脳梗塞になることもなかったのではないかと無念でなりません。このような場合、県立病院の非を問うことはできるでしょうか。

入院が実現するまでの期間、強い痛みでトイレに行くのもままならず、極力水分を控えた結果、脱水状態を引き起こしたのだとしたら、結果的に「早く入院していれば防げたはず」と考えてしまうお気持ちはわかります。しかし、それはあくまで結果論で、患者側が希望したからすべて入院を受け入れろというのはやはり無理があるのではないでしょうか。ましてや、圧迫骨折の疑いがあると口頭で言われただけで、いつもかかっているからと呼吸器科に入院を依頼するのは乱暴だと思います。それに、整形外科にかかるとすれば、いきなり入院希望ではなく、外来受診が基本です。どうしても入院を希望するなら、少なくとも「圧迫骨折の可能性がある」と言ったかかりつけ医の紹介状が必要ではないでしょうか。
入院2日後に脳梗塞を発症したとのことですから、入院時の全身状態を含めて、まずは冷静に経過の説明を受けてみられてはいかがでしょう。

どこの医療機関にも非があったわけではないと思います。ただひとつ残念なのは、背中の痛みを相談したかかりつけ医の対応です。せめて受診の仕方や受診先のアドバイスをして紹介状を書いてくだされば、いきなり患者の夫が県立病院の呼吸器科に入院の打診をすることはなかったのではないでしょうか?受診や入院の手続きは、患者側にはわかりにくいことが多いものです。少しアドバイスをしてもらえるだけで不安も取り除けると思いますので、その人が必要とする情報は何なのかをアンテナを高く張ってキャッチし、提供していただきたいと思います。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
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