[患者さんの相談事例] 2012/05/18[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

連絡が遅かったり、期待した対応でなかったり…。娘をお願いしている訪問看護師や在宅医とうまく連携できていないと思うのですが…。(65歳・女性)

 娘は18歳のときに多発性硬化症と診断されました。病状が進行し、37歳になった今では自力で歩くことができず、車椅子を利用しています。食事も飲み込めなくなったので、鼻から入れたチューブから栄養を摂っています。多発性硬化症の専門医がいる病院には2週間に一度通院しているのですが、日常の栄養管理や点滴などは10年ほど前から訪問診療や訪問看護に頼っています。
 先日、鼻から栄養を入れているチューブが抜けてしまいました。訪問看護師が在宅医に電話で連絡を取ってくれ、在宅医の指示で、チューブを再挿入するまでの間、点滴を行うことになりました。訪問看護ステーションから別の看護師が現れ、点滴を試みてくれました。ところが、娘の血管がなかなか出ず、何度かチャレンジした結果、ようやく針が固定されて、点滴が入りました。しかし、針の位置が安定していなかったようで、訪問看護師が帰ってしばらくすると、娘が痛みを訴え始めたのです。そこで訪問看護ステーションに電話をしたところ、「あとから行きますので、針を抜いておいてください」と言われました。すぐに点滴は抜いたのですが、数時間待っても訪問看護ステーションから連絡はありませんでした。
 心配になった私は救急外来がある近くの病院に娘を連れて行きました。点滴はすぐにしてもらえましたが、そのとき診てくれたドクターから「ウチではいま空きベッドがないから無理だけれど、娘さんの状態を診ると栄養状態が悪いので、入院治療が必要だと思います」と言われました。帰宅後、訪問看護師からようやく電話が入ったので、「入院が必要」というドクターの意見を伝えたところ、「栄養状態を調整するだけなら、あの病院が受け入れてくれるかもしれませんね」と少し離れた場所の病院名を言ってくれました。看護師の言葉に、私はてっきりその病院への入院手配をしてくれるのだと思って、翌日娘を連れて病院に行きました。ところが病院へは何の連絡も届いておらず、「勝手に入院すると決めて受診されても困ります」とドクターに気分を害されてしまいました。そのうえ、その病院から在宅医に連絡があったらしく、在宅医からも電話がかかってきて、「勝手なことをしないでください。入院が必要だと思ったら、私が紹介状を書きます!」と叱られてしまいました。私が間違っていたのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 連絡や確認など、コミュニケーションに不備が生じてしまったようですね。点滴が痛くていったん外したときも、いつ来てくれるか目安を聞いておけば、「まだ来ない」と不安になったり、自己判断で近くの病院に行ったりせずに済んだかもしれません。
 また、病院の話が訪問看護師から出たときも、「看護師さんから病院に連絡してくださるのですか?」とひとこと確認すれば、先走った受診をしなくて済んだことでしょう。
 人間はどうしても早合点したり、思い込んだりしがちです。ましてや、娘さんのからだを心配するあまり、「少しでも早く」という気持ちになってしまうのも理解できます。今回のことを教訓に、行動に移す前に、確認することを実行されてはどうでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 病院、訪問医、訪問看護ステーションなど、複数の医療機関や職種がかかわる場合、情報の共有やコミュニケーションが十分とれないと起こりがちな問題なのだと思います。
 いったん点滴を外して待っていてほしいと訪問看護師が伝えたときも、看護師からみれば「栄養の点滴だから、急を要しない」と判断したのかもしれません。しかし、家族にすれば「外したのだから、少しでも早く再開しなければ」という気持ちになってしまうものだと思います。
 また、入院先も訪問看護師は気軽に提案しただけかもしれませんが、家族は「手続きを進めてくれている」と思い込まれていました。
 どのように情報を共有し、思い込みを防いでいくのか、関係者が集まってしっかり話し合うことが大切だと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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