患者相談事例-66「治療を受けて悪化した手の痛み。医師は他の病気が原因だと言うのですが、とても納得できません」
[患者さんの相談事例] 2012/06/01[金]
現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?
治療を受けて悪化した手の痛み。医師は他の病気が原因だと言うのですが、とても納得できません。(37歳・女性)
私はピアニストで、演奏会に出たり、音楽教室で生徒を教えたりする仕事をしています。
今年に入ってから右手の親指のつけ根にしびれを感じるようになり、大切な演奏会を控えていたので、仲のいい演奏家仲間に相談してみました。すると、「良い整形外科医がいるから、一度診てもらったら?」と、あるドクターを紹介してくれたのです。かなり遠方のドクターなのですが、音楽家の間では評判だと言われ、早速、インターネットで検索してみると、音楽家の繊細な手の治療を多く手掛けていることや、何人かの体験談が紹介されていました。それを読み、「この先生なら、私の手もすっかり治してくれるのではないか」と、思い切って治療を受けることにしました。
最初の診察で「親指のつけ根が腱鞘炎を起こしていますね」と診断され、神経ブロックの注射を勧められました。私は大切な指に注射を打つことには少し抵抗があったのですが、「専門医が必要と判断したのだから大丈夫だろう」と受けることにしました。ところが、注射をした直後から痛みが出始めたのです。
その後、何日経っても鈍痛が続きました。焦ってドクターに電話で症状を伝えたところ、「注射薬の副作用で5日ほど痛みが出るのは自然です。1週間は様子をみてください」と言われました。しかしその後も鈍痛と違和感が続き、ピアノを弾くと震えやこわばりが出るようになってしまいました。結局、演奏会はキャンセルせざるを得ませんでした。症状はどんどん悪化し、今ではお箸を上手に使うことさえできない状態です。どうしてこんなことになったのか納得できず、ドクターにメールで症状を伝えました。ところが返信メールには、「注射の副作用なら、震えやこわばりは1週間以上続きません。医師として腱鞘炎の治療はしっかりおこなって治しました。いまのあなたの痛みは何か別の病気が原因しているように思われます」と書いてあったのです。症状は、注射を受ける前まで、演奏に大きな支障がある程ではありませんでした。明らかに注射のあとに悪化したのです。それなのに認めてもらえず、ほかの病気のせいにされるなんて、とても納得がいきません。どうすればいいのでしょうか。

ピアニストにとって手は何よりも大切だと思いますから、少しの違和感でもなくしておきたいと考えられたのでしょう。ましてや、同じ音楽家仲間から多くの音楽家がかかっている専門医と紹介されれば、信頼する気持ちになるのも理解できます。ホームページの体験談というのも、信ぴょう性が高いような印象につながったのでしょう。ただ、相談者の話を聴いていると、その専門医からは事前に十分な説明は受けておられないようでした。たとえ評判がいい専門医であっても、事前にしっかり説明を受けることは大切です。
症状が悪化してからは、遠方ということもあって、メールでのやりとりをされていました。しかし、それではしっかりと向き合った話し合いができません。一度ドクターを訪ね、実際に診てもらって、原因などの説明を受けてみてはいかがでしょうか。

インターネット情報が医療法上の広告とみなされていないこともあり、かなり専門性を誇大広告したホームページを見ることがあります。国はガイドラインを作成して規制する方向性のようですが、インターネット情報を鵜呑みにした結果のトラブルが増えているだけに、冷静な情報提供が望まれるところだと思います。
相談者は、事前の説明も少なく、遠方ということもあってか、その後に生じた症状についても誠実に向き合ってもらえていないようでした。治療方法が適切だったのかどうかは私たちに判断できませんが、相談者が結果的に納得できない気持ちになられていることは当然と思えました。専門性を強調するのであれば、より最後まで責任を取ろうとする真摯な姿勢が不可欠だと思います。
この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・

NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML
理事長 山口育子
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