患者相談事例-69「執刀医が手術中に私語や携帯電話。病院に改善を求めたいが、どのように伝えれば良い？」

　現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー（医療者）と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
　ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか？

執刀医が手術中に私語や携帯電話。病院に改善を求めたいが、どのように伝えれば良い？（56歳・男性）

　3ヵ月前、突然目が見えにくくなりました。片方ずつ目を覆って見え方を確認すると、左の視野が一部欠けているようでした。そこで、すぐに近くの病院を受診したところ、網膜剥離が起きていると診断されました。その病院は眼科の専門病院として有名で、もちろん入院して手術もできます。「手術が必要」と判断されたので、言われるまま入院しました。
　手術は部分麻酔だったので、手術室の様子は手に取るようにわかりました。私は初めての経験で、とても緊張していました。ところが、手術中に執刀していたドクターの携帯電話が鳴り始め、いつものことで慣れているのか、手術室のスタッフが携帯電話を操作してドクターの耳に当てたのです。ドクターは手術を中断し、携帯電話に向かって「いま手術中だから……」「うん、わかった」などと会話をしています。電話が終わった後に手術が再開したのですが、「○○さんがやってくるから、サンダル用意しておいて」と言ったり、来訪者の噂話をしたり私語を交わしているのです。目のような繊細な部位の手術中なのに、集中してくれないことが不安で仕方なく、おそらく私の血圧はとても高くなっていたのではないかと思います。
　手術の3日後、そのドクターが病室にやってきて、「術後の経過が思わしくないので、再手術をしましょう」と平然とした様子で言いました。私は我慢ができなくなって、「術後の経過が思わしくないのは、手術中に携帯電話に出たり、私語を交わしたり、手術に集中していなかったからではないのですか。あんな状態で手術をされることがどれほど恐ろしいか、考えたことはありますか。二度とあなたの手術は受けたくないので、別の病院に行きます」と啖呵を切ってしまいました。
　すぐに退院して、再手術をしてくれる病院を探したのですが、なかなか見つからず2週間ぐらい、あちらこちらの病院にかかりました。ようやく引き受けてくれる病院が見つかったものの、「最初の手術から2週間以上も経っているので、再手術をしても失明の可能性があります」と言われました。しかし、私はそのドクターに賭けたいと思い、手術をお願いしました。何とか手術は成功し、今は順調に回復しているのでホッとしています。
　しかし回復して落ち着いてきたら、前の病院の対応が腹立たしく、我慢できなくなってきました。ドクターには直接苦情を言いましたが、病院として改善してもらう必要があると思っています。どのように思いを伝えればいいのでしょうか。

　全身麻酔で手術を受けているときは何もわかりませんが、今回のように部分麻酔で意識がはっきりしている場合は、少しの物音や会話でも気になるものです。ましてや、携帯電話に出たり、手術に関係のない会話を交わしたりしていると「手術に集中しているのか」と不安になるのは当然だと思います。そのうえ、術後の経過がよくないとなれば、手術に原因があったと考えてしまうのもわかります。それにしても、2週間のブランクがあって受けた手術で無事、回復に向かわれていることは何よりでした。
　病院に改善を申し出る場合は、特別な方法があるわけではありません。ただ、できるだけ冷静に、どのような経験をし、そのときどのような気持ちになったのか、患者の安心のために何が必要なのかを整理して伝えることが大切だと思います。医療機関によって対応する部署が異なる場合がありますので、まずは電話でどこに伝えれば良いのかを確認してみられてはいかがでしょうか。

　手術中は音楽を流したり、手術の内容次第では私語を交わしたりすることも当然あると思います。ただ、部分麻酔で患者の意識がはっきりしている場合は、“聞こえている”ことに対する配慮が必要ではないでしょうか。
　医療者が「こんなことぐらい」と思う内容でも、患者にとって不安を感じることは多々あります。専門家としていい意味で仕事に慣れることは必要ですが、ただ慣れてしまって患者に思いを馳せられなくなってしまわないように、厳しく自らを律していただきたいと思います。