[患者さんの相談事例] 2012/12/07[金]

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 現代の医療現場では、自分なりの判断や意思決定が求められます。患者側にだって、治療パートナー(医療者)と上手に対話して、疑問解消・意思伝達できるコミュニケーションスキルがあった方が良いですね。
 ここで紹介する「相談事例」は、患者側視点に基づくもので、実際にはもっと他の背景があったかもしれませんが、「私ならどうするか」を考えてみませんか?

患者さんから実際にあった電話相談

定期検診で息子が末期の肺がんと。前年度の検査で異常を見逃されたのではないかと思うのですが。(64歳・女性)

 今年38歳になった息子が、毎年会社でおこなわれる検診で、胸のX線写真にカゲが写っているから精密検査を受けるようにと言われました。「カゲ」と聞いて不安になった息子はすぐに大きな病院を受診したのですが、詳しい検査の結果、肺がんであると診断されました。それも進行がんで、すでに骨にまで転移しているⅣ期の末期状態と言うのです。息子は独身なので、私たち両親が説明を一緒に聞いたのですが、「残り半年あるかどうか」と厳しい宣告を受けました。
 その後、いったん入院して抗がん剤治療を受け、ドクターからは「ある程度、効果が期待できると思います」と言われました。しかし、それは「治る」ことを意味したものではなく、胸水が溜まるのを抑え、月単位の延命効果が期待できる、というレベルなのだそうです。まだ30代の息子に、あまりにもむごい診断で、私たち夫婦も奈落の底に突き落とされるような気分でした。
 最近、少し落ち着いて考えることができるようになってきたのですが、毎年検診を受けてきたのに、今年の検診でいきなり骨転移までしている末期の状態で病気が見つかるのはおかしいのではないかと思うようになりました。きっと昨年の検診でも異常が出ていたはずだと思ったのです。
 それに、息子はヘビースモーカーで、そのことは検診時に伝えていたと言います。ヘビースモーカーは肺がんになるリスクが高い点を踏まえて、もっと丁寧に検査したり、息子に禁煙を促したりしてくれていれば、結果は違っていたのではないかと思えてなりません。検診を行っていた医療機関に見落としを認め、責任を取ってもらうことはできないのでしょうか。

より良いコミュニケーションを目指そう!患者さんこうしてみては・・・?
 親の立場として、子どもが助からない病気になるほど辛いことはないと思います。まして、息子さんはまだ30代とのこと。事実を受け止めるだけでも大変だと思います。
 ただ、肺がんが見つかったときにはすでに骨転移している末期状態だったからといって、前年に見落としがあったと断定するわけにはいきません。少なくとも、前年の検診結果(胸部X線写真)を取り寄せ、それを第三者の専門家に見てもらって明らかな異常があるかどうかを判断してもらう必要性が出てきます。また、そのような第三者の専門家の意見を聞くには、日本の現在のシステムでは弁護士を介する必要があるのです。そのためには、時間や費用も生じます。それに、いまの段階では、何よりも息子さん自身がそれを望むかどうかを確認することが求められます。
 息子さんは現状をすべて認識しておられるようですから、残された日々をどう生きたいのかを含め、息子さんの気持ちを第一に考えることが大切だと思います。できれば、息子さんとご両親で今後どうしていくかをじっくり話し合われてはいかがでしょうか。
より良いコミュニケーションを目指そう!医療機関さんこうしてみては・・・?
 年に一度の検診や人間ドックを受けていれば、必ず病気は早期で発見されるはずという思いは、一般的に強いと思います。もちろん早期発見するために検診や人間ドックがあるわけですが、なかにはかなり急速に進行するがんもあると聞いています。この方の息子さんがどうだったのかはわかりませんが、毎年検診を受けていて、かなり進んだ病気が見つかった場合、前年までの結果も含めて見解を伝えることが必要ではないかと思います。
 また、もし見落としを疑って問い合わせがあった場合、真摯な姿勢で受け入れ、誠意ある丁寧な説明をすることが大切だと思います。もし、患者側に誤解や思い込みがあれば、きちんと向き合って説明することで、多くの場合は理解へとつながっていくのではないかと思います。
※写真はイメージです

この実例紹介とアドバイスのご提供は・・・


NPO法人
ささえあい医療人権センターCOML

理事長 山口育子

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